漢方処方のなんと7割以上に配合されている甘草
甘草(カンゾウ)はその名の通り甘い生薬で、 マメ科の多年草、ウラルカンゾウまたはスペインカンゾウを基原植物とし、草と書きますが漢方薬に使用するのは根とストロン(走出茎・地下茎)。
多くの漢方薬に使われる理由は、甘草に幅広い効能があるためだと思われますが、 甘草の薬効は主に5つです。
- 消化器の働きを助ける
- 炎症をしずめる
- 呼吸器を潤して咳をしずめる
- 痛みを和らげる
- 薬効を調和させる
5の「調和」には、2つの意味合いがあります。
他の生薬による副作用や毒性、刺激性を軽減すること、もう一つは他の効能の異なる生薬どうしの作用を調和させるということです。
処方全体の作用を調和させる効果があるのなら、7割と言わず全ての漢方薬に入っていても良いのではないか? とも思ってしまいそうですが、 そういうわけにいきません。
甘草を配合する意味、配合しない意味を考えてみましょう。 (ただし甘草の配合の有無に明確な理由があるわけではないので、著者の主観も含まれています)
甘草を含む漢方薬と含まない漢方薬に何か違いはあるのでしょうか?
甘草を配合するべき漢方薬のポイント
甘草を使う漢方薬の特徴をみていきましょう。 まず、甘草を使うべき症状に大事なポイントが2つあります。
- 急な症状に使う
- 潤いが欲しいときに使う
ポイント1:急迫的な症状に使われる
甘草の「急に起こった症状の緩和」の効果を期待することがよくあります。
そして急迫性の症状に使う漢方薬では、甘草の配合量が多い傾向があります。
代表的なものは例えば、
急なこむら返りに使う芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
急なノドの痛みに使う甘草湯(かんぞうとう)や桔梗湯(ききょうとう)
急なヒステリーに使う甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)などです。
ポイント2:潤したいときに使われる
甘草で潤す⇒水分保持の効果を期待します。
例えば、麻黄剤 。
葛根湯や、インフルエンザのような高熱のときに使う麻黄湯(まおうとう)を例にすると、 発汗作用がありますので、服用すると汗をかき、それに伴い熱が下がります。
もしこのときに汗をかき過ぎれば脱水症状を引き起こす心配があります。
そこで漢方の風邪薬は、発汗させてばかりではなく、ある程度の体に必要な水分を保てるように甘草がフォローしてくれています。
それから、例えば、夏バテの漢方薬として有名な清暑益気湯(せいしょえっきとう)に、 高齢者の乾燥による皮膚の痒みに用いられる当帰飲子(とうきいんし)など。 潤すことを主目的にしている漢方薬には甘草がきちんと配合されています。
甘草が配合されている漢方薬の特徴
では、甘草の薬効をヒントに、甘草を配合する漢方薬をさらにみていきましょう。
消化器の働きを助ける効果がある
⇒消化器の働きを助ける漢方薬には、甘草が入ることが多い。
炎症をしずめる効果がある
⇒炎症疾患に使う漢方薬には、甘草が入ることが多い。
呼吸器を潤して咳をしずめる効果がある
⇒のどの炎症や咳の症状があるときに使う漢方薬には、甘草が入ることが多い。
痛みを和らげる効果がある
⇒(主に急に起こった)筋肉の痛みを和らげたいときに使う漢方薬には、甘草が入ることが多い。
薬効を緩和させる効果がある
⇒大黄の瀉下作用のような、強力な薬効を持つ生薬の配合量が多い漢方薬には、副作用を緩和させるために甘草が入ることが多い。
また、薬効を調和させる効果があるため
⇒配合されている生薬の種類数が多い漢方薬には、甘草も入っていることが多い。
甘草が配合されていない漢方薬の特徴
では、逆に甘草を含まない漢方薬について。
甘草には、上述したように抗炎症、止痛、健胃、調和、緩和、潤すなどの効果がありますので、 それ以外を目的に使う漢方薬には甘草は入っていなくても良いということ、
なのですが、
たんに配合されていないだけではなく、調和の働きがありながらも、やはり甘草は入れるべきではないと考えられる漢方薬もあります。
利水作用(利尿作用)を期待して使う漢方薬に甘草は入らない
甘草には、「潤す」という効果があります。
「潤す」とは「水分保持」のことなので、利尿作用には反する効果です。
甘草を大量に服用すると副作用としてむくみが出る可能性があることも考えると、基本的には甘草は入っていない方が良い漢方薬です。
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、真武湯(しんぶとう)も、水毒によるめまいに対して使われることがある漢方薬で、甘草は入っていません。
腸の蠕動運動を高めたい漢方薬に甘草が入らない
大黄甘草湯のような、大黄が配合される場合、その強い瀉下作用、またはそれによる腹痛を緩和させるため、多くは甘草が一緒に使われます。
つまり甘草は、蠕動運動を高める生薬の働きを抑制する方向に作用してしまう可能性があります。ということで、
大建中湯は、イレウス(腸閉塞)の予防に使う漢方薬です。
茯苓飲は、食べ過ぎた後、お腹がつかえたように痛くなるときに使える漢方薬です。
腸の動きが悪くなっている症状に対して、腸を働かせるために服用したいので、甘草は入っていない方が良さそうです。
実証向けの漢方薬に甘草が入らない
効能のあたまに「体力が充実していて…」とか「比較的体力がある人で…」とか書かれている漢方薬。
もともと「消化器の働きは悪くない人」に使うので、わざわざ甘草を入れなくても問題ないと考えられます。
いわゆる実証向きの漢方薬を虚証の方が服用できない理由は、甘草の緩和作用が無く、効果がダイレクトに強く出てしまう可能性があるということでもあります。
大建中湯や大柴胡湯のように、腹部膨満の(お腹が張って苦しい)ときも、甘草は適していないわけです。
丸剤には甘草を入れない?
たまたまなのか、何か理由があるのか定かではありませんが、本来丸剤である漢方薬には甘草が入っていないものが多い気がします。
丸剤はお腹でゆっくり溶けて穏やかに作用するので甘草は必要ないということかもしれません。
一応他の理由付けもしておきますと…
桂枝茯苓丸は瘀血を改善するために使われます。余計な生薬は入っていません。効能書きにあるようにこれも「比較的体力がある人の」漢方薬です。
腎気丸類は、足腰のだるさ、腰痛などに使われます。急に発症した症状に使うものというよりは、加齢による衰えによって徐々に起こってきた慢性的な症状に使う漢方薬です。
麻子仁丸は、便秘に使う漢方薬の中ではめずらしく甘草を含まない漢方薬。腸内でコロコロになった便に対して、潤滑油のように働き、排便を促します。その他、蠕動運動を活発にさせる生薬も入りますが、甘草による水分保持よりも麻子仁による油分の効果を期待します。
血圧が上がっているときに使う漢方薬に甘草は入らない
甘草による副作用に偽アルドステロン症があります。 その症状は主に、低カリウム、血圧上昇、むくみ(浮腫)です。
先ほど、利尿作用を期待する漢方薬に甘草を入れない、と説明したように、むくみを改善させたいときに服用する漢方薬に甘草が入っていると作用と副作用が矛盾します。
血圧も同様です。血圧が高いときに使いたい漢方薬に、もし甘草がたくさん入っていたら、怖くて使えません。
甘草の副作用を考慮してみれば、甘草が配合されているはずがない漢方薬だと言えます。
その他の甘草を含まない漢方薬とまとめ
上に挙げた以外にも、甘草が含まれない漢方薬(含まない理由を分類しきれない漢方薬)はたくさんあります。
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
四物湯(しもつとう)
温清飲(うんせいいん)など
しかし、いかがでしょうか。
漢方薬を服用しているときに甘草が含まれているかどうかが気になる
漢方薬を併用するときに甘草が重複していないか確認しなければいけない
薬剤師や登録販売者の試験問題で甘草に関する質問が出るかもしれない
そういったとき、配合を暗記していなくても、ある程度の予測はできてくるのではないでしょうか。
もしかしたら、 単純に甘草が必要ないから入れていないだけで、甘草を入れてもいいのではないかという漢方薬もあるだろうし、 逆に、本来は甘草が入っているけれど場合によっては入れない、または減量する方がいいのではないかと思うこともあるでしょう。
今回は例えば「甘草」ですが、このように漢方薬の中の一つの生薬に注目してみれば、また漢方薬の奥深さを感じます。
※ツムラの漢方薬で甘草の配合の有無を確認されたい方は、↓をどうぞ。
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