四物湯(しもつとう)
血虚に対する補血のための基本方剤です。
補血作用をもつ漢方薬の多くは、この四物湯をベースに構成されています。
また、月経異常に対して、調経(月経を調える)の基本処方としても使われます。
「血(けつ)」に関わる4つの生薬から構成されているために「四物湯」です。
補血剤なので、当然「血虚証」つまり「血」の不足に用いられるわけですが、
東洋医学的な「血の不足」と、西洋医学的な「貧血」は、必ずしもイコールではありません。
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血虚とは

「血虚」の概念は、ただ単に血液の不足だけではなく、 血(けつ)の持つ作用の不足という状態を含めた概念です。
血は、栄養物質を絶えず身体のすみずみにまで運び、全身を養い、潤し、生命活動に必要なものを提供しています。
そうしたはたらきの低下している状態を「血虚」ということができるわけです。
このような症状や徴候から分析されるものです。
「貧血」のように、数値で測るものではありません。
構成生薬とそのはたらき
- 地黄(ジオウ)または熟地黄
- 当帰(トウキ)
- 芍薬(シャクヤク)
- 川芎(センキュウ)
4つの生薬の中で、補血作用をもつのは、地黄・当帰・芍薬の3つです。
では川芎はというと、活血薬であり、血の流れを良くするために配合されています。
川の流れにおいても、川の水量が少なくなるほど流れが悪くなり、淀んでしまうことがあるように、 血虚(血が不足)の状態があれば、血の流れも滞りやすく、血瘀が生じている可能性があるわけです。
例えば、そうめん流しをするときに、たくさん食べたいからといって、 やみくもに、そうめんばかり大量に投入してもらっても、水の流れが悪いために、自分の所にまでそうめんが流れて来なければ台無しです。
四物湯の中にも、滞らないように流れを確保しながら補血する、というセオリーが組み込まれており、 当帰だけでも血を巡らせるはたらきはありますが、 川芎については、血の中の「気」も同時によく動かすので、「血中の気薬」という言い方をされます。
これにより「血」を補うだけでなく、補った「血」が必要なところに供給されていきます。
四物湯の効能・適応症状
- 月経異常(月経不順、月経痛)、更年期障害、血の道症、不妊症
- 貧血、産後または流産による疲労倦怠、月経時の倦怠感 冷え症、しもやけ、シミ、皮膚の枯燥(荒れ・カサつき)
- 血虚によるめまい・ふらつき・頭痛・頭重感・目のかすみ
添付文書上の効能効果
【ツムラ】【クラシエ】他
皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の次の諸症:
産後あるいは流産後の疲労回復、月経不順、冷え症、しもやけ、しみ、血の道症
【コタロー】
貧血、冷え症で腹部が軟弱でやや膨満し、便秘の傾向があるもの。
高血圧症、貧血症、更年期障害、月経不順、月経痛、過多月経、産前産後の諸種の障害。
【薬局製剤】
体力虚弱で、冷え症で皮膚が乾燥、色つやの悪い体質で胃腸障害のないものの次の諸症:
月経不順、月経異常、更年期障害、血の道症、冷え症、しもやけ、しみ、貧血、産後あるいは流産後の疲労回復
血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不
安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことです。
四物湯の副作用・注意点
ただ、四物湯単独だとダメだけど、四物湯関連の別の漢方薬なら大丈夫という場合もありますので、症状に応じて他の漢方薬を検討してください。胃腸が弱くて浮腫のある人には当帰芍薬散など。
構成生薬が4種類程度の他の漢方薬は、即効性を期待して使うものが多いですが、四物湯の場合、やはり少なくても数日~数週間以上の服用は必要かと思います。
四物湯が冷え症の人に良いと言われることがありますが、四物湯にはショウガのようなポカポカと体を温める作用はそれほどありません。血が行きわたらずに冷えていたのが改善されてくるというイメージです。
味は甘めですが、当帰・川芎はセリ科で、セロリのような特有の香りがします。
男性が服用しても全く構いません。
(西洋医学的な)貧血が疑われる場合は、鉄欠乏性貧血の他、様々な原因が考えられるので、医療機関で検査も受けられてください。
血虚を招いている根本の問題に、体質的な脾虚(気虚)が絡んでいることがあります。食欲がない、下痢しやすい等。このときはまず補気薬をメインに考えた方がいいです。
衝任虚損に四物湯

中医学的な話になりますが、衝任虚損という言葉があります。
衝任とは、衝脈と任脈のことで、人体の気血の流れ道である「経脈」のうち奇経八脈に属するものです。 衝脈も任脈も、ともに子宮を通っているので、婦人科の疾患においては重要な経脈です。
月経や妊娠ももちろん衝脈と任脈が関わっています。 衝脈と任脈に満たされている気血が、一定の周期で子宮に溢れたものが、月経とされます。
もし月経の異常や不妊症などの問題がある場合、この衝脈と任脈に十分な気血が流れていないなどの虚損の状態がある、と考えるわけです。
そして、この衝任の虚損に使う方剤も「四物湯」が基本となります。 月経の問題や、子宮が関わる婦人科の疾患においては、この四物湯をベースに含む処方が考慮されることが多く、特に調経の要薬である当帰の配合は欠かせません。
四物湯の出典
『和剤局方』(12世紀)
血虚に対する基本方剤とされますが、
歴史的には『金匱要略』(3世紀)にある「芎帰膠艾湯」(きゅうききょうがいとう)から、阿膠・艾葉・甘草を抜いたものになります。
四物湯を基本とする処方
四物湯を構成の中に含む漢方薬は、代表的なもので以下のものがあります。
つまり、四物湯単独よりも、むしろ他の生薬と組み合わせて応用されることが一般的です。
当帰・芍薬・川芎・地黄を4つとも含むもの
- 芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)
- 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
- 七物降下湯(しちもつこうかとう)
- 温清飲(うんせいいん)
- 当帰飲子(とうきいんし)
- 荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)
- 大防風湯(だいぼうふうとう)
- 疎経活血湯(そけいかっけつとう)
- 猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)
- 桃紅四物湯(とうこうしもつとう)
- 連珠飲(れんじゅいん)
- 血府逐瘀湯(けっぷちくおとう)
当帰・芍薬・川芎を含むもの
当帰・川芎・地黄を含むもの
- 芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)
当帰・芍薬・地黄を含むものとして
- 人参養栄湯(にんじんようえいとう)
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