【補気薬】~人参・党参・黄耆・白朮・山薬・甘草・大棗・膠飴・扁豆~

17-(1) 補気薬(ほきやく)

補気薬とは、気を補って気虚を改善するのに用いる生薬です。益気薬とも言います。

気虚は、気の量の不足、あるいは気の作用の不足ですので、臓腑の機能の低下や、抵抗力の減退などによる症状があらわれやすくなります。
一般的には、元気がない、疲れやすい、言葉に力がない、汗をかきやすい、カゼをひきやすく治りにくい、等。

特に補気薬は「脾気虚」や「肺気虚」に最もよく適用されます。

脾は、飲食物を消化吸収することによって、生命活動に必要な物質(気・血・津液・精)の化生に関わる重要な臓です。(「脾は運化を主る」
脾気虚では、運化を主る機能の低下がみられます。食欲不振、食後の腹張、軟便・下痢など。
(※「気滞」の症状があるときは、補気薬で補うだけではなく、理気薬を一緒に配合する必要があります。)

肺は呼吸(体内外の気の交換)とともに、宗気の産生(吸い込まれた清気(酸素)と脾の運化による飲食からの気は肺で合流する必要がある)に関わり、そして気の巡りにも直接影響する臓です。(「肺は一身の気を主る」
肺気虚では、気を主る機能の低下がみれます。咳、呼吸が浅い、息切れ、声が小さい、カゼをひきやすい、自汗など。

よって「脾」や「肺」のはたらきを高めることが気を益すためには重要となるからです。

また補血薬は、血虚証にも応用されます。
血を生成できるのも、血を推し進める(血行促進する)ことができるのも、気が率いているからだ、という関係性があります。(「気は血の帥(すい)なり」
血虚証を改善するためには血を補うことも重要ですが、
気が旺盛であれば(臓腑のはたらきも良く)血を生じることができるので、血虚に対しても補気薬はよく配合されます。

人参(にんじん)

ウコギ科オタネニンジンの細根を除いた根(:生干人参)又はこれを軽く湯通ししたもの(:湯通し人参)
御種人参、高麗人参、薬用人参、朝鮮人参、など様々な呼び方があります。
「紅参」は根を蒸して赤褐色にして乾燥させたものです。

【性味】甘 微苦 微温
【帰経】脾 肺(心・腎)
【効能】大補元気 補脾益肺 生津止渇 安神増智

①大補元気
元気(人体の根本的な気)を大いに補うことができるという意味です。
気脱証:大出血、激しい吐瀉、大病で、極度の衰弱、いわゆるショック状態のときに、救急の要薬としてかつては使われていました。このときは人参を単独で大量に濃く煎じて用いられます。⇒独参湯
亡陽証:さらに、手足が冷たく、冷汗などを呈するときは、陽気を引き戻すために附子乾姜も加えられます。⇒参附湯
※現代では煎じたりしてるヒマがあるなら救急車を呼ぶべきです。
②補脾益肺
脾気虚:疲れやすい、倦怠感、食欲不振、下痢など。白朮茯苓甘草と一緒に用いられます。⇒四君子湯
気虚下陥による内臓下垂などがあるときは、黄耆、柴胡升麻と一緒に用いられます。⇒補中益気湯
肺気虚:咳、息切れ、呼吸困難、自汗、話し声が微弱など。胡桃、蛤蚧、五味子などと用いられます。⇒人参蛤蚧散
③生津止渇
人参の特徴として、気を補うだけでなく、津液を生じる効能があります。
熱病の気津両虚:高熱、口渇、多汗など。石膏知母甘草、粳米と併用して、熱を清し、気を益し、津液を生じ、渇きを止めます。⇒白虎加人参湯
気陰両虚:熱病の後期、口渇、元気がなく、脈が弱い、息切れ、皮膚の乾燥など。麦門冬、五味子と併用して、気を益し、陰を滋養し、汗を止めます。⇒生脈散、清暑益気湯炙甘草湯
消渇証:今でいう糖尿病の口渇、多尿に、山薬天花粉生地黄などと使用されます。
④安神増智
元気を補って気血が盛んになることで、神を安んずる効能が出てきます。
気血虚による不安、不眠、多夢、健忘に、当帰、丹参酸棗仁などの養血安神薬と併用されます。⇒帰脾湯、天王補心丹
その他
血虚証や陽虚証のときに、補血薬や補陽薬の効果を強めるために配合されたり、
また、邪が除かれないままに正気が虚してしまっているときは、解表薬瀉下薬と一緒に用いる(扶正袪邪する)こともあります。

関連生薬
[竹節人参(ちくせつにんじん)/ウコギ科トチバニンジンの根茎]
日本では、心下痞(みぞおちのつかえ)には人参よりも竹節人参の方が良いとされていたり、去痰・解熱作用に優れるとして、小柴胡湯半夏瀉心湯などでは人参の代わりに竹節人参が使用されることがあります。

党参(とうじん)

キキョウ科ヒカゲノツルニンジンなどの根

【性味】甘 平
【帰経】脾 肺
【効能】補中益気 生津養血

基本的に効能は↑の人参と同じとされ、(高価な)薬用人参の代用品として使用されます。
ただしその効力は人参よりも劣るので、代用できるのは、かるい症状に用いる場合に限られます。

黄耆(おうぎ)

マメ科キバナオウギなどの根

【性味】甘 微温
【帰経】脾 肺
【効能】補気昇陽 益衛固表 托毒生肌 利水退腫

①補気昇陽
・脾胃虚ではよく脾を強める効能に優れる白朮と配合して、気を補います。
・気虚のひどいとき、黄耆と人参がペアで使用されることもよくあります。人参は体内の気や津液を充実させ、黄耆は表を固めてそれらが体外に漏れないようにする、という連携プレーで補気の効果を増強します。これら2つが配合されている方剤を参耆剤(じんぎざい)と称します。
小建中湯の証などでさらに虚しているときに黄耆を加味する方法もあります。⇒黄耆建中湯
・さらに冷えなど陽虚の症状を伴うときは、附子乾姜などを配合して陽気を補います。
・脾気虚の症状と、さらに脱肛、胃下垂などの内臓下垂、慢性的な下痢などの中気下陥の症状のときには、人参、升麻柴胡と配合して使用されます。⇒補中益気湯
補気生血:気を補うことで血の化生が促進されるのを利用して、当帰と用いられます。⇒当帰補血湯
補気摂血:気を補うことで血行をコントロールし出血を防ぎます。気不摂血による各種出血を伴う貧血や衰弱に人参、当帰と併用します。⇒帰脾湯
補気行血:気を補うことで推動(血を推し進める)の力を強めます。気虚血瘀証に当帰や川芎紅花などと配合されます⇒補陽還五湯
補気生津生地黄、麦門冬、山薬などと併用して、養陰生津の効果を高め、消渇証に使用されます。
②益衛固表
・衛気不足では腠理をコントールできず汗が漏れます。衛気虚の自汗証に、牡蛎、小麦、麻黄根と配合されます。⇒牡蠣散
・表虚でカゼをひきやすいものには白朮や防風と配合されます。⇒玉屏風散
・陰虚による盗汗(寝汗)には滋陰降火の薬などと配合されます。⇒当帰六黄湯(※当帰と6つの黄とは、生地黄・熟地黄・黄芩黄柏黄連そして黄耆)
③托毒生肌
気血不足のために、皮膚化膿症の、潰れない、排膿しない、瘡口がなかなか癒合しない等のときに、当帰、人参、桂皮などと用いられます。⇒帰耆建中湯、托裏消毒飲、千金内托散
④利水退腫
脾気虚や肺気虚があり、水湿内停(水分の代謝機能の低下)で起こる、浮腫みや尿量が少ないなどの症状に用いられます。多くは防已や白朮と併用されます。⇒防已黄耆湯

白朮(びゃくじゅつ)

キク科オケラまたはオオバナオケラの根茎
※オケラ→和白朮、オオバナオケラ→唐白朮
(関連生薬→蒼朮

【性味】苦 甘 温
【帰経】脾 胃
【効能】補気健脾 燥湿利水 止汗 安胎

専ら脾気を補います。
脾虚証と、それと、脾虚によって水湿が停滞した痰飲水腫証に対しての要薬となっています。
①補気健脾
・脾胃気虚で、食欲不振、倦怠感、腹満、下痢などに、人参茯苓、甘草と配合します。⇒四君子湯
・さらに(気の温煦作用の低下もあり)冷えがあり、脾胃虚寒の腹痛(温めるとラクになる、さするとラクになる)と下痢のときは、人参と乾姜を配合して用います。⇒人参湯(理中丸)
・または(気の運化作用の低下もあり)脾虚と同時に積滞の腹満、腹痛、つかえ、げっぷ等があるときは、枳実を併用して、補と攻を同時に行われます。⇒枳朮丸
②燥湿利水
・水腫(むくみ)には茯苓沢瀉猪苓などと併用されす。⇒四苓散、五苓散
・痰飲による眩暈(めまい)や頭のふらつき、動悸には、桂枝茯苓甘草と配合されます。⇒苓桂朮甘湯
③止汗
脾気虚を伴って自汗の止まらないものに、黄耆とともに用いられます。⇒補中益気湯
④安胎
補気健脾作用によって胎を安んずる効能なので、やはり脾気虚による胎動不安(腹痛)であれば用いられます。
血熱があれば黄芩などと、気滞があれば砂仁や蘇梗などと、血虚があれば当帰や白芍などと、腎虚があれば桑寄生や杜仲などと併用されます。
補足:伝統的には、生で用いれば燥湿利水に、炒めて用いれば(精油成分をとばすと)燥湿が抑えられ補気健脾に、火にかけて焦がすと止瀉に、より働くとされています。
白朮の利水作用について
白朮と蒼朮の違いについて

山薬(さんやく)

ヤマノイモ科ヤマノイモまたはナガイモの(周皮を除いた)根茎

【性味】甘 平
【帰経】脾 肺 腎
【効能】益気養陰 補脾肺腎

「脾・肺・腎」の「気と陰」を補うのが特徴の生薬です。
①補脾のはたらきで、脾胃虚弱証に使われます。
脾気虚で、食欲不振、食べると下痢をするなどの症状に、人参白朮と配合されます。⇒参苓白朮散、啓脾湯
また脾陰虚で、食欲不振、痩せ、便秘、口の乾きなどの症状に使用されることもあります。
②補肺のはたらきで、肺気陰両虚の痰が少ない慢性咳嗽、呼吸困難に、麦門冬や五味子などと用いられます。
③補腎のはたらきと同時に固渋の作用もあるので、腎気不固の症状(頻尿、遺尿、遺精、帯下など)に応用されます。⇒六味丸八味地黄丸、知柏地黄丸など
※食用の「山芋」と同じものです。一般に、熱を加えると健脾止瀉の作用が高まるとされ、養陰の(体を潤す)効果を期待したいときには生の方が適します。ただ、水分(湿)が溜まってお腹が張りやすい人は、摂り過ぎないようにしてください。

甘草(かんぞう)

マメ科ウラルカンゾウまたはスペインカンゾウの根およびストロン(走出茎、地上近くを這って伸びる茎)で、ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)
炙甘草(シャカンゾウ)は、甘草を煎ったもの

【性味】甘 平
【帰経】心 肺 脾 胃
【効能】補脾益気 潤肺止咳 清熱解毒 緩急止痛 緩和薬性

甘草単味での効力に突出したものはあまりないですが、他の生薬との配合によってさまざまな幅広い効果が現れてきます。
①補脾益気
補脾益気の効能は、人参白朮茯苓と併用して得られます。⇒四君子湯
また甘草は桂枝とペアで、心悸亢進(動悸)に応用されることがありますが(⇒桂枝甘草湯、苓桂朮甘湯
気陰不足による動悸、脈結代(不整脈)には、さらに人参、生地黄、阿膠なども配合されます。⇒炙甘草湯
②潤肺止咳
風寒の咳嗽に、麻黄杏仁と配合して用いられます。⇒三拗湯
肺熱の咳嗽のときは、石膏も加えられます。⇒麻杏甘石湯
③清熱解毒
咽喉の腫れや痛みまたは、皮膚の化膿症には、よく桔梗と一緒に用いられます。⇒甘草湯桔梗湯、排膿湯
甘草の成分のグリチルリチン酸は、西洋医学でも、解毒作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、肝機能異常回復作用が認められている薬剤です。
④緩急止痛
陰血の不足などで筋が養えず、四肢のけいれんしたり、急な痛みが生じるときは、必ず芍薬(白芍)と併用されます。⇒芍薬甘草湯
脾胃虚寒で、腹部がけいれんしているような痛みのあるときは、芍薬、桂枝膠飴と配合されます。⇒桂枝加芍薬湯
⑤緩和薬性
緩和薬性には2つの意味合いがあります。a)一つは、他の薬物の峻烈な性質を緩和させること。b)もう一つは、性質の異なる薬物どうしを調和させることです。
a.附子乾姜の熱性を抑えたり、石膏知母の寒性を抑え(かつ胃を守り)ます。また、大黄芒硝の瀉下の力を緩和して、腹痛を抑えます。⇒大黄甘草湯調胃承気湯
b.温性の半夏乾姜、寒性の黄連黄芩をともに配合する必用があるときに、甘草を配合して作用を調和させます。⇒半夏瀉心湯

※甘草と炙甘草との効能の違いは定かではありませんが、古典的には、清熱解毒に対しては生の甘草が、補益性を期待するときは炙甘草がよく用いられています。
【関連記事】
甘草が配合される漢方薬と配合されない漢方薬の違い
甘草の副作用「偽アルドステロン症」について

大棗(たいそう)

クロウメモドキ科ナツメの成熟果実

【性味】甘 温
【帰経】脾 胃
【効能】補中益気 養血安神 緩和薬性

①補中益気
甘草とともに甘い生薬の代表ですが、大棗の作用は主に脾胃(消化器)の方です。
このときの大棗はほとんど生姜とペアで配合されます。⇒補中益気湯
大棗と生姜を加えて煎じることを「姜棗煎」とも言います。
例えば四君子湯は、もともと君子として選ばれた4種類の生薬だったのですが、大棗・生姜を加えて煎じていたので、現在の四君子湯の生薬は合計で6種類です。(同様に六君子湯は8種類)
大棗は甘みが強いため、もともと胃腸が弱い人にとっては、胃もたれや腹部膨満感が起こりやすい。
生姜は逆に、胃腸を動かしてくれますが、辛みが強い。
ですが、これを一緒に用いると、
刺激の強い生姜を大棗の甘味で緩和できるし、大棗での胃もたれを生姜で防ぐことができます。
この相性の良い大棗・生姜を加えて煎じることで、胃腸が整えられ、消化吸収も良くなり、補気の効果を高めることができます。
方剤全体としての味も良くなり飲みやすくなります。
また(葛根湯桂枝湯など)解表薬と配合する場合、
生姜は発汗を助ける一方で、大棗が(営血を補って)発汗過多をフォローしている関係になります。
②養血安神
血虚による臓躁証(ヒステリー様症状)に、甘草・小麦と配合されます。⇒甘麦大棗湯
③緩和薬性
甘遂のような猛烈な作用を有する生薬を用いるときに、その作用を緩和させるとともに、脾胃を保護します。⇒十棗湯(朱雀湯)

膠飴(こうい)

イネ・トウモロコシ・キャッサバ・ジャガイモ・サツマイモなどのデンプンまたはイネの種皮を除いた種子を加水分解し糖化したもの/麦芽を加えて加工精製した飴糖
製法によって、白い結晶性の粉末のものと、白~黄褐色の粘稠な液体またはそれを凝固させたものの、2種類があります。

【性味】甘 微温
【帰経】脾 胃 肺
【効能】補中益気 緩急止痛 潤肺止咳

小建中湯大建中湯、黄耆建中湯などに使用されます。
膠飴の成分はほぼ二糖類のマルトース(麦芽糖)なので、
服用後、唾液や膵液に含まれるマルターゼ(α-D-グルコシダーゼ)によって加水分解され2分子のグルコース(ブドウ糖)になり吸収されます。
人のエネルギー源にはなるので補気なのかもしれませんが、漢方薬で使用する分量ではカロリー的にも高が知れている量です。
要するに生化学的な機序と、漢方的は効能の機序が一致しない生薬です。
おそらく味が「甘くておいしい」ということがキーポイント(よりどころ?)なのかもしれません。
煎じ薬では、他薬を煎じてカスをこした後に、熱いうちに(熱くないとなかなか溶けませんし、熱くても溶けにくいですが)膠飴を加えよく溶かして服用します。

扁豆(へんず)

マメ科フジマメの成熟種子
(中国では「白扁豆(びゃくへんず)」)

【性味】甘 微温
【帰経】脾 胃
【効能】消暑化湿 和中健脾

健脾とともに湿を除去して下痢を改善するので、白朮や山薬などと配合して、脾虚の慢性的な下痢に使用されます。⇒参苓白朮散
千石豆、蔓豆と呼ばれることもあるようで、夏バテで食欲がなく下痢気味のときの薬膳としても利用できます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました