【帰脾湯】と【加味帰脾湯】~胃腸虚弱の方の不眠に使われる漢方薬~

帰脾湯(きひとう)と加味帰脾湯(かみきひとう)

「胃腸虚弱」と「不眠」

この2つのキーワードがあったときに、候補として挙がる漢方薬の一つがまず帰脾湯きひとうです。

漢方的には 胃腸虚弱は「」の問題、 不眠は「しん」に問題があります。

胃腸が弱ければ、食べ物から栄養を十分に摂れず気血が不足しやすいですし、

一方、精神が不安定であると「心」に影響がでやすいです。

さらに、気血が不足していればその「心」を養うことができないし、

また逆に、「心」の血が「脾」を養えなければ、胃腸の働きがますます低下します。

こうなるのを「心脾両虚しんぴりょうきょ」といいます。

体質的に脾(胃腸)が弱く、 食欲が少なくて、元気がでない、疲れやすい、

そこへきて精神疲労が重なると、不安感、悲壮感、不眠が現れやすくなり、

そして考え過ぎ、思い悩み、また胃腸を弱らせていく、という状態です。

帰脾湯は、「虚証きょしょう」の不眠に使われる代表的な方剤です。

「脾」の気虚ききょと、「心」の血虚けっきょ、 いわゆる 「心脾しんぴ気血両虚証きけつりょうきょしょう」で用いられます。

不眠や精神不安が「心の血虚」の症状だとしても、 その根本には脾のはたらきの低下がありますので、

この場合、 「心」の問題を解決するのが目的であっても、 一度「脾」の問題に立ち帰って治していきましょう。

ということで「脾」に帰る、帰脾湯です。

帰脾湯の構成生薬とはたらき

帰脾湯は12種類の生薬で構成されます。

※茯苓は、原典ではより精神安定の作用に優れる「茯神ぶくしん」を用いることになっています。

これらの生薬を2つに分けて考えることができます。

脾(脾胃)を改善する生薬

人参・白朮・茯苓・甘草・生姜・大棗 → これは補気の基本処方である「四君子湯しくんしとう」と共通

つまり帰脾湯は、四君子湯がベースの方剤です。

黄耆 → 補気(補気によって四君子湯の効果を強め、当帰などの補血の効果もより高まります)

木香 → 脾胃の気の流れをよくする(食欲を改善、または、遠志などによる吐き気の副作用を予防します)

心を安定させる生薬

当帰・竜眼肉 → 補血

酸棗仁・遠志・竜眼肉(・茯神) → 精神安定

※竜眼肉は、心と脾をともに補うので、食欲不振を伴う不眠に適した生薬です。

帰脾湯の効能効果

添付文書上の効能効果

【ツムラ】【ジュンコウ】

虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:貧血、不眠症

【薬局製剤】

体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪いものの次の諸症:
貧血、不眠症、神経症、精神不安

脾虚や血虚に適する生薬構成であるので、

元気がない、疲れやすい、 眠りが浅い、夢をよくみる、物忘れが多いという場合にも応用できるかと思います。

それから脾気虚のときは、出血症状が起こりやすくなることがあります。(脾不統血ひふとうけつといいます。) 鼻血、血尿、皮下出血など。 女性の場合では、不正性器出血、月経量が多い、等を伴うことがあります。

加味帰脾湯について

加味帰脾湯の生薬構成

加味帰脾湯かみきひとうは、帰脾湯に「柴胡さいこ」と「山梔子さんしし」の2つの生薬を加味したものです。

帰脾湯 + 柴胡・山梔子 ⇒ 加味帰脾湯

また、加味帰脾湯には、柴胡と山梔子だけじゃなくて、さらに「牡丹皮ぼたんぴ」を加えているものもあります。

※そして、白朮の代わりに蒼朮が使われることがあります。例えばツムラの場合、帰脾湯では白朮なのに、加味帰脾湯では蒼朮、というちょっとややこしいことになっています。(→白朮と蒼朮の違い

ちなみに、逍遥散しょうようさん山梔子牡丹皮を加味したものは加味逍遥散かみしょうようさんです。

加味逍遥散の構成が、柴胡・芍薬・当帰白朮茯苓生姜甘草・薄荷・山梔子牡丹皮であって太文字の生薬は加味帰脾湯と共通ですので、

加味帰脾湯の中には、かなり加味逍遥散の要素も含んでいることになります。

加味帰脾湯の効能効果

【医療用エキス剤】ツムラ他

虚弱体質で血色の悪い人の次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症

【薬局製剤】

体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症

下線部が、帰脾湯と異なる部分です。柴胡・山梔子が、肝気欝結かんきうっけつによる肝火かんかの発生を抑えますので、イライラなどの精神症状に対応します。

つまり、帰脾湯よりもイライラが強い不眠に適します。加味逍遥散の要素を含んでいますので、更年期障害などにも応用されることがあり得ます。

帰脾湯と加味帰脾湯の注意点

・適応症に「不眠」とありますが、帰脾湯は、脾虚(胃腸の弱り)を改善するという目的がある漢方薬です。即効的な入眠作用を期待するものではなく、不眠時にだけ頓服で服用するというのは正しい使い方ではありません。

・山梔子を含む漢方薬の長期服用と腸間膜静脈硬化症との関連が指摘されていますで、加味帰脾湯を長期間(数年以上)服用されている方は、定期的な大腸の検査をお勧めします。

・牡丹皮を配合している加味帰脾湯の場合は、妊娠中の服用は避けるのが望ましいとされています。

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