【清熱瀉火薬】~石膏・知母・山梔子・竹葉・天花粉・芦根・夏枯草~

清熱瀉火薬

2-(1)  清熱瀉火薬(せいねつしゃかやく)

清熱薬せいねつやくは、おもに裏熱りねつの治療にもちいる生薬です。

このうち清熱瀉火薬せいねつしゃかやくとは、身体を構成する物質を気・血・津液とすれば、「気」分に入った熱をせいする生薬が分類されます。

清熱と瀉火なので、熱もあり、火もある状態ですが、熱も火も基本的には同じ性質です。

熱は火の軽いもの、火は熱の激しいもの。いわば程度の差の問題。

通常、熱があるときは清する、火があるときは瀉することが治療になります。

清熱せいねつするとは⇒熱を抑えこむこと。
瀉火しゃかするとは⇒もっとつよい熱を体外に追い出すこと。

この清熱瀉火薬を用いるような、「気」分の実熱じつねつが影響していると考えられる症状の特徴として、

大熱(高熱)・大汗大渇(口渇)・脈が洪大があり、四大証といいます。

その他、煩躁、症状が激しい時は意識障害、うわごと等が生じることがあります。

清熱瀉火薬を用いるときの注意点は、

体力の虚弱な人が用いるときは、過量にならないようにすることと、

治したい熱が、例えば肺の熱なのか、胃の熱なのか、という作用させたい部位の違いを意識して使用することです。

原則的には「実熱」に対して用いられることが多いですが、他の生薬と組み合わせることで「虚熱きょねつ」の症状に応用されることもあります。

石膏(せっこう)

局方の石膏(せっこう)(砕)
含水硫酸カルシウムの鉱石 CaSO2・2H2O

【性味】辛 甘 寒
【帰経】肺 胃
【効能】清熱瀉火 除煩止渇 収斂生肌

「甘」の性質は緩和または補うことですので、寒で熱を抑えながらも、津液を損傷させにくい、

また、「辛」の性質は発散させる作用であり外向きですので、寒で熱を抑えこむ一方で、邪気(熱邪)を追い出して体に残りにくい、ということが推測できます。

清熱瀉火せいねつしゃか除煩止渇じょはんしかつ
ぶん実熱じつねつをよくせいします。
高熱、煩躁、口渇、大汗で水分を欲するなどのとき、知母などと用いられます。
例⇒白虎湯、白虎加人参湯

他に、気分証の回復期で、胸苦しいなどのとき、竹葉麦門冬などと用いられます。
例⇒竹葉石膏湯

肺熱はいねつを清する
肺の熱は、肺の機能である宣発せんぱつ粛降しゅくこうに影響し、喘息の症状、咳嗽、胸苦しい、口渇などの症状を起こします。
麻黄杏仁とともに、肺の熱を取り除く石膏を加えて応用されます。例⇒麻杏甘石湯辛夷清肺湯
※麻黄とともに肺熱の症状に用いる場合、通常は麻黄に対して石膏の割合を、数倍以上多くして配合されます。

胃火いかしゃ
胃というは「湿しつを好む」「そうを嫌う」という特性があります。
湿気がなくなり、乾燥してしまうと、燃えやすいのです。
燃えはじめた火は、炎上して、体の上に向かっていきます(胃火上炎いかじょうえん)。
胃から陽明経ようめいけいに沿って、歯痛、頭痛、口臭などの症状が出ます。
これに地黄や麦門冬などと用いられます。例⇒玉女煎

食べても食べてもお腹が空く症状があるときに、「胃の熱」が原因だと言われますが、
この胃の熱には、甘味の性質のある石膏では対応できません。

④収斂生肌
外用薬として利用する場合のことです。
通常、石膏と言えば「生石膏」です。
ですが石膏には水(H2O)が含まれているため、外用のときは焼成してから用います。
この石膏を「煅石膏(たんせっこう)」と言います。
創傷や火傷などで膿や浸出液が多く、傷口がふさがらないときにこの煅石膏を粉末にして用いるそうです。

【注意点】

  • 胃腸が弱い人、食欲がない人、胃が冷えている人は注意が必要です。
  • 基本的には実熱に用いる生薬であり、虚熱に対してはあまり使われません。
  • 「辛」の性質のため、裏熱だけではなく、表証の熱が残っているときにも利用されることがあります。(~加桔梗石膏
  • 石膏単独では、血分の熱には効果がありません。

知母(ちも)

知母(ちも)

ユリ科ハナスゲの根茎

【性味】苦 寒
【帰経】肺 胃 腎
【効能】清熱瀉火 滋陰潤燥

苦で寒、でありながら、質としては潤すことができるという特徴があります。

津液を消耗させない生薬であり、熱邪で津液が消耗している症状に適応し、

他の生薬との組み合わせにより虚熱にも用いられます。

①清熱瀉火
石膏と同様に、気分の実熱をよく清します。
高熱、煩躁、口渇、大汗で冷たい水を欲するなどのとき、石膏の補佐をするように配合されます。
例⇒白虎湯、白虎加人参湯

②滋陰(退虚熱)
腎には実証(実熱)というものがありませんので、腎の場合は、他の生薬との組み合わせにより、腎陰不足の熱(虚熱)に用いることになります。
腎陰虚で、五心煩熱、口の乾燥、寝汗などの症状に対して、六味丸黄柏とともに加味して用いられます。
知母・黄柏はともに体内の熱を冷ますと同時に、一緒に配合することで腎陰を補助する作用を備え、虚熱を冷まします。
⇒知柏地黄丸

③清肺潤燥
肺熱または肺陰虚による咳嗽、粘稠痰、血痰に対して配合されます。
例⇒辛夷清肺湯、二母丸

【注意点】

  • 寒と潤の性質ですので、胃腸が弱くて軟便傾向の人、下痢(泥状便)をしている人は注意が必要です。
石膏と知母の違い
 ・石膏→主に実熱に用いられる
 ・知母→実熱と虚熱にも用いられる

山梔子(さんしし)

クチナシの実

アカネ科クチナシの成熟果実

【性味】苦 寒
【帰経】心 肺 (肝) 胃 三焦
【効能】瀉火除煩 清熱利湿 涼血解毒

別称として、たんに「梔子」(しし)と呼ばれることもあります。

帰経が、臓腑だけでなく、三焦(臓腑のすきま)も含まれ、作用部位がとても広いです。

気分の熱をとる瀉火除煩のみならず、血分に入って涼血や止血にも働きます。

また昔から黄疸の要薬とされ、消炎や利胆作用も期待されます。

①瀉火除煩
上焦の熱は「心」に影響します。
心がつかさどっているしんが不安になり、胸苦しく不快でイライラや不眠が生じます。
この熱による煩躁や不眠に、除煩作用のある淡豆鼓(たんとうし)と一緒に用いられます。⇒この2味で、梔子鼓湯(しししとう)
また、逍遥散帰脾湯に、山梔子などを加味して、加味逍遥散加味帰脾湯として応用されます。

②清熱利湿
「苦」⇒乾かす作用と、「寒」⇒清熱の作用により、湿と熱が合わさった湿熱証に適しています。
三焦は気と津液の通路であるので、三焦に熱が蓄積すれば、湿熱が三焦に拡がることになります。
下焦の湿熱(=膀胱湿熱)であれば頻尿・排尿痛・尿混濁などいわゆる膀胱炎様の症状が起こります。よく車前子木通などと配合されます。例⇒五淋散、八正散
中焦の湿熱(=胆肝湿熱)であれば黄疸を起こします。茵陳蒿と合わせて茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)、または黄柏と合わせて梔子柏皮湯(ししはくひとう)として応用されます。

③涼血解毒
血熱が盛んになると血の巡りが早くなり血管が破れやすく出血を起こします。この血熱妄行による出血症状に用いられます。(炒った山梔子がより涼血止血にはたらくとされています)

④その他
三焦の実火に対する黄連解毒湯、肺熱に対する辛夷清肺湯、肝火に対する竜胆瀉肝湯、熱毒に対する清上防風湯や柴胡清肝湯などにも山梔子が配合されています。

【注意点】

  • 胃腸が弱く(脾虚)、軟便傾向の人は注意が必要です。下痢や吐き気を起こすことがあります。
  • 山梔子を含む漢方薬の長期服用(3~5年)が、腸間膜静脈硬化症の原因として関連が指摘されています。

竹葉(ちくよう)

竹の葉

イネ科ハチクの葉

【性味】(辛)甘 淡 寒
【帰経】心 肺 胃
【効能】清熱除煩 (生津・利尿)

上焦(心や肺)の熱を清して、煩躁を除き、口の渇きを抑える効果があります。

①清熱除煩
熱病による煩熱、口渇に用いることができます。
高熱がなくなったけどまだ微熱(余熱)が残っているとき、炎症による脱水のため、虚熱が生じ、それが上がってきて、いらいら、不眠、咳、吐き気などが起こることがあります。このとき、石膏半夏などを一緒に配合します。
例⇒竹葉石膏湯

清熱薬に分類されているので基本的には裏熱に用いられますが、(金銀花連翹などの辛涼解表剤とともに)表熱に対する方剤にも使われています。例⇒銀翹散

 

  • ハチクの巻いたままで開いていない幼葉は「竹葉巻心」または「竹葉心」といいます。こちらの方が清熱除煩の効果にさらに優れているようです。
  • 竹の葉によく似ていますが、(草本の)ササクサの全草のことを「淡竹葉」といいます。こちらは清熱除煩よりも、利尿通淋作用が強く、膀胱炎などの方に適しています。

天花粉(てんかふん)

栝楼根(カロコン)

生薬名としては「栝楼根」(かろこん)と書かれることが多いかもしれません。
ウリ科キカラスウリ・シナカラスウリなどの皮層(外皮)を除いた塊根(肥大した根)。花粉ではありません。
種子は「栝楼仁」(かろにん)といいます。

【性味】(微)甘 (微)苦 (微)寒
【帰経】肺 胃
【効能】清熱生津 (清肺潤燥) 消腫排膿
滋潤(全身に潤いを与える作用)と消炎、去痰の効能があるのが特徴です。
①清熱生津
熱病のときの口・ノド・舌の渇き、乾燥、煩渇に用いることができます。
慢性的な炎症による陰液の消耗、軽度の脱水に対しては、甘草とともに配合されることがあります。
例⇒柴胡桂枝乾姜湯、柴胡清肝湯
また消渇病(糖尿病のような症状)の口渇多飲に応用されていたことがあるようです。このときは知母葛根五味子などと使用されます。ただし、血糖値を下げるわけではありません。
②清肺潤燥
肺の燥熱による咳、痰、喀血に、麦門冬地黄などと用いることができます。

③消腫排膿

皮膚の化膿症、熱毒が盛んで赤く腫れて熱があって痛みのある症状に、金銀花などを配合して使用されます。
天花粉と言えば、粉末にした根のでんぶん質の吸湿性を利用して「あせも」の治療にも用いられていました。が、現在ベビーパウダーとして市販されているものは、工業的に酸化亜鉛やタルクを主成分として、デンプンとしてはコーンスターチなどを配合したものが多いです。

芦根(ろこん)

イネ科アシ(葦)の地下茎

【性味】甘 寒
【帰経】肺 胃
【効能】清熱生津 止嘔除煩 利尿

竹葉や天花粉に似た効能をもっています。

①清熱生津
熱病で、津液の消耗による煩熱や口渇、舌の乾燥、イライラに用いることができます。

②清肺潤燥

外感風熱による発熱、咳、痰がネバネバで黄色いなどのとき、肺の熱を清するため辛涼解表薬に配合されます。例⇒桑菊飲、銀翹散

③止嘔
胃熱による嘔逆(げっぷ、吐き気、嘔吐)などに単品で、または竹茹生姜と一緒に用いることができます。

④利尿

熱淋(尿が濃く少なく、排尿痛など)に、木通車前子とともに用いられます。(血尿のときは茅根ぼうこんが良い)

夏枯草(かごそう)

シソ科ウツボグサの花穂(または全草)

【性味】辛 苦 寒
【帰経】肝 胆
【効能】清肝火 散鬱結 (降圧)
決明子(けつめいし)などとともに、清熱明目薬として分類することもあります。
漢方薬に配合されていることはあまりありませんが、民間薬としては、消炎や利尿作用を期待して使われているようで、弱い降圧作用があるとも言われます。
中薬としては肝胆系の熱に用いられます。
苦味だけじゃなく辛の性質(→散らして消失させる作用)もあります。
①清肝火
肝火上炎による目が赤い、目が痛い、涙が出る、まぶたの腫れ、頭痛、めまいを伴う等(血圧が高い状態の症状に似ている)に用いることができます。
※持続的で肝血虚の可能性があるときは、四物湯なども要検討

②散鬱結

瘰癧るいれき(リンパ節結節)や、癭瘤えいりゅう(甲状腺腫)などに使われるようです。

 

◀◀2.「清熱薬せいねつやく」の概説にもどる

2-2「清熱燥湿薬せいねつそうしつやく」の解説にすすむ▶▶

<生薬の効能解説>目次にもどる

コメント

タイトルとURLをコピーしました