【六君子湯】の解説~食欲不振などの胃腸症状に用いる漢方薬~

胃の不調に六君子湯(りっくんしとう)

六君子湯(りっくんしとう)の解説

六君子湯りっくんしとうは、脾気虚ひききょに対する代表的な漢方薬です。

胃腸がよわい虚証きょしょうの人の、胃腸薬として用いられます。

食欲不振、胃もたれ、吐き気などの胃腸の不調があるのに、検査をしてみても異常は見つからない。

(原因が何であれ)そういうときのファーストチョイスとなっています。

最近は、食欲亢進や消化管運動を促進するはたらきのある「グレリン」というホルモンに対する作用などが明らかになってきています。

生薬の構成

四君子湯しくんしとう」(人参・朮・茯苓・甘草・生姜・大棗)に、2つの生薬(半夏と陳皮)を加えて「六君子湯」。

または、

生薬の構成としては「二陳湯にちんとう」(陳皮・半夏・茯苓・甘草・生姜)に人参・朮・大棗を加えたものにも相当します。

適応症状

お腹をおさえている女性

六君子湯は↓のような症状に用いられています。

  • 食欲不振、胃もたれ、腹部膨満感、胃部つかえ感、消化不良、腹痛、胃痛、胃炎 、胃食道逆流症(GERD)
  • 咽喉頭異常感、咽頭痛などを呈する咽喉頭逆流症(LPRD)、術後の胃腸障害
  • 機能性ディスペプシア(FD)の食後早期の満腹感
  • 悪心、嘔吐、つわり、胃下垂、胃アトニー
  • 下痢、または軟便をともなう便秘、高齢者の便秘、鬱(うつ)状態

食欲不振や胃もたれなどに、ファーストチョイスで使用することができます。

脾気虚ひききょ(胃腸虚弱)の状態で、腹部の水分のめぐりがわるく、

胃内停水いないていすい(胃がポチャポチャなる)、吐き気、嘔吐、呑酸どんさん、(酸っぱい液が上がってくる)、胸やけ、水様便をともなう胃腸症状にも適します。

脾虚ひきょ気虚ききょの特徴としての、疲れやすい、朝起きるのがつらい、食後の耐えがたい眠気や倦怠感、などに対しても使われます。

添付文書上の効能効果

【医療用エキス製剤】

胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:
胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐

補足

六君子湯という名前にあるのは、6つの君子のような生薬のはたらきを示しています。

聖人君子せいじんくんしのように優れた6種類の生薬が配合されている処方という意味合いです。

君子のごとく穏やかな効能をもつとも言えます。

が、逆に言えば、強みに欠けます。

それぞれの生薬がみなそろっていることが重要で、特別重要な作用の強い生薬がポイントとなるわけではありません。

偏りがないので、脾気虚証全般的な症状に幅広く使用できる利点はありますが、

腹痛がひどい、下痢がひどい、吐き気がひどい、など特定の症状がつよい場合には、それに応じた別の薬が必要になります。

そして他の漢方薬でよくなったその後の仕上げとして使用することには適しています。

四君子湯との違い

胃が重い…

痰湿の存在

四君子湯しくんしとう」よりも胃腸機能の改善効果を高めた漢方薬です。

半夏・陳皮・茯苓・甘草・生姜の部分に注目すれば、二陳湯にちんとうに相当するものが配合されています。

つまり、六君子湯の特徴は、二陳湯の効果が含まれていることですので、

四君子湯との違いとして、痰湿たんしつ」が存在しているということもポイントになります。

脾胃気虚ひいききょで、水分の吸収に障害があり、消化管に水湿の停滞、つまり「痰湿」が形成された状態にあります。

これは胃がむくんでいるようなイメージです。

それによって、胃もたれしやすく、上腹部のつかえ、みぞおちが重く感じ、 食事し始めてすぐ膨満感、吐き気、悪心、嘔吐などが起こっています。

陳皮・半夏には、痰湿を除く作用があって、

さらに陳皮は胃腸のぜん動運動を促進し、

半夏は吐き気を抑えます。

これにより、食欲の増進効果につながります。

逆に、水分が失われてしまうと困る乾燥傾向の人は、半夏が含まれていない四君子湯でも構いません。

また、もし食欲はあり、吐き気だけを抑えたいときは、二陳湯のみでも構いません。

「舌の苔」で確認

「痰湿」の存在を確認しやすいのは「舌の苔」です。

舌がむくんでいて、舌の淵に歯型(歯痕)がついている、

そして、白くて厚い苔がついているような人が特徴になります。

四君子湯と六君子湯の違いは、

四君子湯だとまだ「痰」が生じていないときの漢方薬ですので

舌苔が薄いと「四君子湯」、

湿潤した厚い苔がべったりと付いていると「六君子湯」

とみることができます。

四君子湯の解説はこちら

副作用・注意点

効能に「貧血性で手足が冷える者の・・・」と書かれているものがありますが、六君子湯には直接「血」をおぎなう生薬は配合されていません。気虚が原因による血の不足に応用できるというくらいの意味です。

長期間服用するときは、甘草による副作用(偽アルドステロン症)に注意してください。甘草を避けたいときは、茯苓飲ぶくりょういんを検討してみてください。

もともと水分の吸収の苦手なタイプの人であるので、服用のときには水(冷たい水)を飲み過ぎないように気をつけたほうがよいです。

白朮の代わりに蒼朮が使われていることがありますが、六君子湯の場合はをおぎなう目的があるので、本来は白朮の方が望ましいです。⇒白朮と蒼朮のちがい

脾虚ひきょの(胃腸のよわい)ひとは、
「1日3回 毎食前に」
という用法の指示がつらいこともあるかと思います。

1日3回の服用がつらい場合は、
服用できそうなときに少量ずつとか、
1日1~2回くらいから開始して、
慣れてきてから常用量に増やしても構いません。

六君子湯の加減方

柴芍六君子湯さいしゃくりっくんしとう

  • 六君子湯に柴胡芍薬を加えたものです。
  • 胃腸の問題にストレスが絡んでいる場合に用いられます。
  • 医療用エキス製剤では「柴胡桂枝湯」+「六君子湯」で代用されることがあります。
  • 四逆散」+「六君子湯」で代用されることもありますが、脾気虚の方は、四逆散に含まれる枳実で下痢を起こすことがあるので注意してください。

香砂六君子湯こうしゃりっくんしとう :

  • 六君子湯に、香りが良くて気を巡らせる効果のある香附子縮砂藿香を加えたものです。
  • 気鬱で食べられない、胸のあたりが苦しいなどの場合に用いられます。
  • 医療用エキス製剤では「香蘇散」+「六君子湯」で代用されることがあります。

出典

『世医得効方』(14世紀)・『万病回春』(16世紀)

※ 四君子湯や二陳湯は『和剤局方』(12世紀)

「六君子湯、脾胃虚弱、飲食少しく思い、或は久しく瘧痢を患い、若しくは内熱を覚え、或は飲食化し難く、酸を作し、虚火に属するを治す。須く炮姜を加えて其の効甚だ速やかなり。即ち前方に半夏陳皮を加う。」

万病回春

訳→「六君子湯は、胃腸が虚弱で食欲不振がある、あるいは長期間の熱と下痢の病があるものを治します。もしくは内熱(ほてり感)を覚え、あるいは消化が難しく、胃酸がこみ上げ、虚火に属するものを治します。 すべからく炮姜 (乾姜)を加えるべきで、その効果は非常に速いです。 すなわち前方の四君子湯に半夏と陳皮を加えたものであります。」

 

胃腸(消化器系)の症状に使われる漢方薬

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