六君子湯(りっくんしとう)
食欲亢進や消化管運動を促進する働きのある「グレリン」というホルモンに対する作用が明らかになってきています。
食欲不振には(原因が何であれ)ファーストチョイスで用いることができます。
胃の痛み、胃もたれ、胃部不快感、食後の膨満感などの自覚症状があるのに、 内視鏡検査(胃カメラ)をしてみてもガンや潰瘍などの異常が見つからない。そんなときは、 西洋医学的な治療では難しいケースもあり、 漢方の専門家でなくても「六君子湯」を処方されることが増えています。
最近では、抗がん剤の副作用による食欲不振にも使われます。
方剤的には補気健脾・化痰の処方です。気虚に対する代表的な漢方薬となっています。
「四君子湯」(しくんしとう)に、2つの生薬(半夏と陳皮)を加えた構成で「六君子湯」です。
または、生薬の構成としては「二陳湯」(にちんとう)に人参・白朮・大棗を加えたものにも相当します。
生薬の構成
- 人参(ニンジン)
- 白朮(ビャクジュツ)または蒼朮(ソウジュツ)
- 茯苓(ブクリョウ)
- 甘草(カンゾウ)
- 半夏(ハンゲ)
- 陳皮(チンピ)
- 生姜(ショウキョウ)
- 大棗(タイソウ)
四君子湯(人参・朮・茯苓・甘草・生姜・大棗)+陳皮・半夏
または
二陳湯(陳皮・半夏・茯苓・甘草・生姜)+人参・朮・大棗
適応症状
- 食欲不振、胃もたれ、腹部膨満感、胃部つかえ感、消化不良、腹痛、胃痛、胃炎 、胃食道逆流症(GERD)
- 咽喉頭異常感、咽頭痛などを呈する咽喉頭逆流症(LPRD)、術後の胃腸障害
- 機能性ディスペプシア(FD)の食後早期の満腹感
- 悪心、嘔吐、つわり、胃下垂、胃アトニー
- 下痢、または軟便をともなう便秘、高齢者の便秘、鬱(うつ)状態
添付文書上の効能効果
【医療用エキス製剤】
胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:
胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐
六君子湯のポイント

「四君子湯」よりも胃腸機能の改善効果を高めた方剤です。
脾胃気虚(胃腸虚弱)の状態で、腹部の水分の巡りが悪く、胃内停水、悪心、嘔吐、呑酸、水様便をともなう胃腸症状に用いられます。
食欲不振、慢性胃炎ではファーストチョイスです。
脾虚や気虚の特徴としての、疲れやすい、朝起きるのがつらい、食後の耐えがたい眠気や倦怠感、などに対しても使われます。
四君子湯との違いは「痰湿」
半夏・陳皮・茯苓・甘草・生姜の部分に注目すれば、理気化痰薬の「二陳湯」(にちんとう)に相当するものが配合されています。
つまり、六君子湯の特徴は、二陳湯の効果が含まれていることですので、 例えば四君子湯などと違って、「痰湿」が存在しているということもポイントになります。
脾胃気虚で、水分の吸収に障害があり、消化管に水湿の停滞、つまり「痰」が形成された状態にあります。
胃がむくんでいるようなイメージです。
それによって、胃もたれしやすく、上腹部のつかえ、みぞおちが重く感じ、 食事し始めてすぐ膨満感、吐き気、悪心、嘔吐などが起こっています。
逆に、水分が失われてしまうと困る乾燥傾向の人は、半夏が含まれていない四君子湯でも構いません。
また、もし食欲はあり、吐き気だけを抑えたいときは、二陳湯のみでも構いません。
「痰湿」の存在を確認しやすいのは「舌の苔」
舌診においては、舌がむくんでいて、舌の淵に歯型(歯痕)がついている、そして、白くて厚い苔がついているような人が特徴になります。
四君子湯と六君子湯の違いは、 四君子湯だと、まだ「痰」が生じていないときの処方ですので
舌苔が薄いと「四君子湯」、
湿潤した厚い苔がべったりと付いていると「六君子湯」とみることができます。
副作用・注意点
効能に「貧血性で手足が冷える者の・・・」と書かれているものがありますが、直接「血」を補う生薬は配合されていません。気虚が原因による血の不足に応用できるというくらいの意味です。
長期間服用するときは、甘草による副作用(偽アルドステロン症)に注意してください。甘草を避けたいときは、茯苓飲(ぶくりょういん)も検討してみてください。⇒六君子湯と茯苓飲の違い
もともと水分の吸収の苦手なタイプの人であるので、服用の際には水(冷たい水)を飲み過ぎないように気を付けた方が良いです。
白朮ではなく代わりに蒼朮が使われるメーカーがありますが、六君子湯の場合は脾を補う目的があるので、本来は白朮の方が望ましいです。
六君子湯の加減方
- 「柴芍六君子湯 」(さいしゃくりっくんしとう):六君子湯に柴胡・芍薬を加えたものです。胃腸の問題に、ストレスが絡んでいる場合に用いられます。医療用エキス製剤では「柴胡桂枝湯」+「六君子湯」で代用されることがあります。「四逆散」+「六君子湯」で代用されることもありますが、脾気虚の方は、四逆散に含まれる枳実で下痢を起こすことがあるので注意してください。
- 「香砂六君子湯 」(こうしゃりっくんしとう):六君子湯に、香りが良くて気を巡らせる効果のある香附子・縮砂・藿香を加えたものです。気鬱で食べられない、胸のあたりが苦しいなどの場合に用いられます。医療用エキス製剤では「香蘇散」+「六君子湯」で代用されることがあります。
出典
『世医得効方』(14世紀)・『万病回春』(16世紀)
※ 四君子湯や二陳湯は『和剤局方』(12世紀)
「六君子湯、脾胃虚弱、飲食少しく思い、或は久しく瘧痢を患い、若しくは内熱を覚え、或は飲食化し難く、酸を作し、虚火に属するを治す。須く炮姜を加えて其の効甚だ速やかなり。即ち前方に半夏陳皮を加う。」
万病回春
訳→「六君子湯は、胃腸が虚弱で食欲不振がある、あるいは長期間の熱と下痢の病があるものを治します。もしくは内熱(ほてり感)を覚え、あるいは消化が難しく、胃酸がこみ上げ、虚火に属するものを治します。 すべからく炮姜 (乾姜)を加えべきで、その効果は非常に速いです。 すなわち前方の四君子湯に半夏と陳皮を加えたものであります。」
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