【利水退腫薬】~茯苓・猪苓・沢瀉・薏苡仁~

利水退腫薬

6-(1) 利水退腫薬(りすいたいしゅやく)

利水退腫薬は、利水作用によって水腫証すいしゅしょうに用いる、いわゆる浮腫(むくみ)をとる効果に優れた生薬です。

茯苓(ぶくりょう)

茯苓(ぶくりょう) ぶくりょう)の刻み

サルノコシカケ科マツホド

  • 菌核を形成する担子菌類、地下(松の根)にできるキノコ
  • 通例、外層(茯苓皮ぶくりょうひ)を除いたもの
  • 現在はおもに栽培品が使用されている
  • 松の根を抱き込んだ状態になっているものを特に「茯神ぶくしん」とよぶ
【性味】甘 淡 平
【帰経】心 脾 腎
【効能】利水滲湿 健脾 安神

利水滲湿りすいしんしつ
利水滲湿の効能をもち、水湿内停証すいしつないていしょうに用いられます。

水腫(むくみ)と小便不利(尿が出にくい、尿量が少ない)があるときにとても有用な生薬です。

猪苓沢瀉と併用して利水作用を強めることができます。例⇒五苓散

湿熱しつねつをともなうときは車前子木通などと配合し、
寒証かんしょうのときには附子乾姜などと配合して(⇒真武湯苓姜朮甘湯)用いられます。


健脾けんぴ

水を「しゃ」する一方で、」の作用をあわせもつのが茯苓の特徴です。

健脾の効能をもち、のはたらきをつよめるため、脾虚証ひきょしょうに用いられます。

食欲不振、軟便、下痢、倦怠感
などの症状に、人参などと配合します。⇒四君子湯啓脾湯

脾の水湿すいしつ運化うんかする機能が低下していることで痰飲たんいんが生じて、

悪心、嘔吐
などが起こっているときは、陳皮半夏などと用いられますし、⇒六君子湯小半夏加茯苓湯

眩暈(めまい)、心悸(動悸)
などを主症状とするときは、白朮桂枝と配合して用いられます。⇒苓桂朮甘湯


安神あんじん

寧心安神ねいしんあんじんの効能があります。

効能的には「茯神」を使用したほうが優れるとされています。

精神不安、気持ちが落ち着かない、忘れっぽい、失眠(不眠)などに使う方剤に、いっしょに配合されていることがあります。例⇒帰脾湯酸棗仁湯

猪苓(ちょれい)

猪苓(ちょれい)の刻み

サルノコシカケ科チョレイマイタケ

  • (ブナやミズナラの根にできる)菌核(塊状)を形成した担子菌類
  • 子実体(いわゆるキノコ)はマイタケの形状に似る
  • が、菌核の形状や色は、猪(イノシシ)の糞に似ていることが名前の由来
【性味】甘 淡 平
【帰経】腎 膀胱
【効能】利水滲湿

利水滲湿りすいしんしつの効能は茯苓よりも優れていて、五苓散にも配合されます。

単用でも効果がみられます。

ただし、茯苓のような「」の作用はありません。

とくに、膀胱炎様の症状があるときに、止血や清熱せいねつの作用をもった阿膠滑石などといっしょに用いられます。⇒猪苓湯

沢瀉(たくしゃ)

沢瀉(たくしゃ)

オモダカ科サジオモダカの根茎

・歌舞伎役者の屋号にある澤瀉屋(おもだかや)は、初代市川猿之助の生家が薬草の澤瀉をあつかう薬屋だったことに由来する

【性味】甘 淡 寒
【帰経】腎 膀胱
【効能】利水滲湿 泄熱

利水滲湿りすいしんしつの効能は、茯苓に似ていますが、

茯苓の性味が「平」であるのに対して、沢瀉は「寒性」なのが特徴です。

脾胃ひいの水毒によって急に起こった激しい回転性のめまいに、
沢瀉(寒性)と白朮(温性)の2味が対応します⇒沢瀉湯

泄熱せつねつの効能で、とくに腎系の虚火きょかや、膀胱の熱をしゃする作用があります。

陰虚内熱いんきょないねつにも用いられますし(⇒六味丸)、
下焦湿熱証げしょうしつねつしょうにも適します(⇒猪苓湯五淋散)。

薏苡仁(よくいにん)

ハトムギの実

イネ科ハトムギの種皮を除いた成熟種子

【性味】甘 淡 微寒
【帰経】脾 胃 肺
【効能】利水滲湿 健脾除痺 清熱排毒

利水滲湿りすいしんしつ(+健脾けんぴ
利水滲湿の効能に、健脾の作用もあるので、この点では茯苓と似ています。

水湿内停証すいしつないていしょうのとくに脾虚湿勝ひきょしつしょうによる小便不利(尿が少ない)、水腫(むくみ)などに用いられます。

脾虚湿困ひきょしつこん泥状~水様便に、白朮茯苓などと配合されます。⇒参苓白朮散

また、性が「」にかたよっていて清熱せいねつ効果があるので、湿熱淋証しつねつりんしょうにも用いることができます。


健脾除痺けんぴじょひ

風湿ふうしつまたは湿熱しつねつ痺証ひしょうに用いられます。

麻黄杏仁甘草を配合して関節や筋肉の腫れや痛みに用いられます。⇒麻杏薏甘湯

また、麻黄桂枝といった温める生薬といっしょに配合して寒湿かんしつの痺証にも用いられます。⇒薏苡仁湯


清熱排毒せいねつはいどく

肺の熱を清し(表裏の関係にある)大腸の湿をする、とされており、肺癰はいよう腸癰ちょうようなど(化膿性の疾患)に応用されます。

腸癰には、牡丹皮桃仁などと配合されます。⇒腸癰湯


④その他

炒ったものの方が健脾・止瀉ししゃの作用が強まる、とされています。

また、ヨクイニンまたはハトムギとして、健康食品や健康茶、薬膳(食事療法)、美容関連(イボやニキビ)にも多用されています。

 

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