不眠症に用いられる「酸棗仁湯」

寝付けない女性漢方薬の解説

酸棗仁湯(さんそうにんとう):SNT

主に不眠に用いられる漢方薬。

体力や気力が消耗していて眠れない、 疲れているのにかえって眠れない、 もともと虚弱な方や、長期間の療養、または加齢に伴い症状が出やすくなる、体力が落ちているときに多い不眠です。

睡眠導入剤のように、不眠時にとん服で使うというような薬ではありません。

中医学的には、心血虚の症状に、心肝火旺をともなうときの方剤。

別名:酸棗湯(さんそうとう)

酸棗仁湯の出典

『金匱要略』(3世紀)

「虚労し、虚煩して眠るを得ざるは、酸棗湯之を主る」

→下で解説しています。

酸棗仁湯の成分(構成する生薬)

  • 酸棗仁(サンソウニン)
  • 知母(チモ)
  • 川芎(センキュウ)
  • 茯苓(ブクリョウ)
  • 甘草(カンゾウ)

処方名にもなっているように、酸棗仁が主薬で配合量が多いです。

酸棗仁とは、大棗(タイソウ)と同じくクロウメモドキ科で、ナツメ()よりも味があるサネブトナツメの種子()。

果実は小さくてナツメのように食用にはなりません。(実が大きくなる棗が大棗です。

中枢神経を抑制し、鎮静、催眠作用を現し、精神不安を改善できるため、帰脾湯や加味帰脾湯、温胆湯などにも配合されています。

中医理論的な補足

酸棗仁湯の効果を分かりやすくするため、補足しておきます。

「肝」と「心」について

まず「肝」には血(けつ)を貯蔵するという機能があります。

血は、活動時においては全身の各所に分布し、必要な栄養を供給して巡っていますが、 睡眠や休みのときには、血の一部はまた肝に帰り貯蔵されます。 夜に血が肝へ帰るので、安眠できると考えます。 全身に巡らせる血液の量を適切に調整するのもまた「肝」によるものです。

そして「血」を介して、「肝」と「心」のはたらきは関わりあっておりまして(五行説では母と子の関係)、 肝は血を貯蔵し、肝の貯蔵している血が適切に心を養い、心によって血は全身に送られます。

もし、肝血が不足(肝血虚)したとき、血液量の調節ができず、次に心血虚を起こす原因となります。   肝血の不足は、慢性疾患や、精神疲労、または、栄養障害などにより起こります。

それにより心血虚となれば、不眠のほかに、驚きやすい、不安感、健忘、めまい、頭がふらつく、動悸などの症状として現れるようになります。

『金匱要略』では「虚労し、虚煩して眠るを得ざるは、酸棗仁湯之を主る」ですから、 つまり、(虚労して)肝血や心血が不足するとともに、心や肝の虚熱による煩躁(精神不安)を伴って、不眠が起こっているときには、酸棗仁湯が適するということです。

各生薬のはたらき

酸棗仁は、肝の血を補います。

川芎は、肝の血の流れを良くします。

知母は、肝の熱を冷やします。(体温を下げて、交感神経→副交感神経への切り替えがスムーズになります) 「肝の血」により「心」は養われているので、これらのはたらきによって、心は安定し、興奮を鎮めていきます。

茯苓も酸棗仁とともに精神を安定させるはたらきがあります。

また、甘草と酸棗仁とで、肝陰を養います。(酸甘化陰)

これらの鎮静にはたらく生薬の組み合わせにより、心身の疲労時の不眠や煩躁の改善に作用していきます。

酸棗仁湯の効能・適応症状

不眠、不安障害、神経症、ノイローゼ、多夢、悪夢、盗汗(寝汗)、自律神経失調症、嗜眠

注意

上記の症状に応用されることがあるという意味であり、すべての症状が酸棗仁湯で治せる、ということではありません。 保険適応外の症状を含みます。

酸棗仁湯のポイント

ポイント

酸棗仁湯が使われるのは次のような人です。

  • 心身ともに疲労している
  • 栄養不良のせいで、不安感や胸騒ぎがするようになって、夜になっても精神が休まらず、ちょっとしたことも気にかかるようになり心静かな状態になれない
  • 眠れたとしても、眠りが浅く、夢をよくみたり、すぐ目が覚めたりして、慢性的に十分な睡眠がとれていない

イライラや焦燥感、のどや口の渇き、ほてり、寝汗などの熱証をともなうことがあります。

効能としては「眠れないもの」によく用いますが、酸棗仁湯は睡眠導入剤ではありません。 睡眠薬の代わりとして使ってみて、睡眠薬との効果の比較ができるものではありません。(睡眠剤との併用は可能です)

ある程度長期的に服用して、少しずつ睡眠の質を改善する漢方薬と言った方がいいかもしれません。

また、睡眠を正常な状態に安定させる薬であるので、眠れない場合(不眠)だけでなく、眠り過ぎたり、昼間も眠くて眠くて仕方がなかったりと言われる場合(過眠)にも使われることがあります。

依存性はありません。

酸棗仁湯の副作用や注意点

繰り返しになりますが、不眠時にだけ頓服で使用するという飲み方は、本来の酸棗仁湯の目的には合いません。

昨日は眠れたけど、今日は眠れない、などムラのある不眠は、酸棗仁湯の適応ではありません。

不眠時だけ服用したいのであれば、むしろ抑肝散、黄連解毒湯などの他の漢方薬がいいかもしれません。 睡眠導入剤のような眠りは期待できません。

しかしながら、酸棗仁湯服用後にも眠気が起こる可能性はありますので、生活に支障のないように調節してください。

主薬の酸棗仁の配合量が多く、酸棗仁には少し瀉下作用があるので、下痢しやすい人は注意してください。下痢をして服用できない場合は、加味帰脾湯などを検討します。

市販されている「漢方ナイトミン」も酸棗仁湯です。なのでこれもあまり即効的な効果を期待しすぎないでください。

用法用量や使用上の注意は、医師・薬剤師の指示、または添付文書の説明を守ってください。

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