温経湯(うんけいとう)の解説
温経湯は、月経と関わりのある経絡を温め、気(き)と血(けつ)を十分に巡らせます。
月経不順、不正出血、不妊症などに用いられ、また手のほてりや湿疹、皮膚炎にも応用されます。
温経湯の作用の特徴や適する症状、注意点について解説します。
温経とは
温経湯の「温経」とは、経絡(けいらく)を温める、という意味。
経絡とは、気や血が巡っている通路のことで、東洋医学独特の概念です。
からだの各部位(臓腑、組織、筋肉、皮膚など)はすべてこの経絡というネットワークでつながっており、そこに気と血が十分巡って正常に機能します。
経絡に問題が起こり、気や血が巡らなくなると、その経絡のつながっている部位に影響がでる、と考えられています。
特に、婦人科の疾患に関わるものとして、
子宮とつながっている経絡に、衝脈(しょうみゃく)と任脈(にんみゃく)とがあります。あわせて衝任といいます。
月経のトラブルの多くは、この衝任の問題ととらえることができます。
温経湯というのは、この月経と関わりのある衝任、という経絡を温める、
衝任の働きを調整することによって、様々な月経のトラブル(月経不順、月経痛、不正性器出血など)を治療するのに用いることができる、
そういう意味が込められた名前です。
温経湯の構成生薬
温経湯というのは、月経と関わりのある衝任という経絡を温めることで、経絡に気(き)と血(けつ)を十分に巡らせるわけで、
生薬の構成もそのようになります。12種類の生薬が配合されます。
- 呉茱萸(ごしゅゆ)
- 桂枝(けいし)または桂皮(けいひ)
- 当帰(とうき)
- 芍薬(しゃくやく)
- 川芎(せんきゅう)
- 牡丹皮(ぼたんぴ)
- 阿膠(あきょう)またはゼラチン
- 人参(にんじん)
- 麦門冬(ばくもんどう)
- 半夏(はんげ)
- 生姜(しょうきょう)
- 甘草(かんぞう)
温経湯のポイント
構成している生薬のはたらきをおおまかに整理すると↓のようになります。
呉茱萸・桂枝・生姜 ⇒ 温めて気を巡らせる
当帰・芍薬・川芎・牡丹皮 ⇒ 血を補い、血を巡らせる
人参・甘草・阿膠・麦門冬 ⇒ 乾きを潤す
半夏・人参・甘草・生姜 ⇒ 胃腸機能を高め、気血の産生を助ける
芍薬・甘草 ⇒ 痛みを止める
体をあたためる生薬がたくさん入っているので、基本的には、冷えのある方向きの薬です。(下腹部が冷えて痛むなど)
一方で、血が十分巡っていないことで、皮膚が乾燥しやすく、手荒れ、肌荒れ、(冬はあかぎれ)、または、手足のほてり、手の平に不快な熱感があり、唇や口がよく乾燥する、などが起こりやすく、これに滋潤効果のある生薬が対応します。
それに加えて、月経トラブルの常用薬である当帰や芍薬などにより月経不順(周期の延長または短縮、無月経)、月経過多、不妊などのときに適しています。
温める薬とともに牡丹皮を配合することで、冷えによって生じる瘀血をとっていきます。
止血作用のある阿膠も入っているので不正出血でも使われます。
温経湯の効能効果
- 大きく分けると、婦人科系の症状と、皮膚の症状と、2通りの応用の仕方があります。
- 月経周期に関連して良くなったり悪くなったりすることが多い、というのも特徴です。
【ツムラ】
手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:
月経不順、月経困難、こしけ、更年期障害、不眠、神経症、湿疹、足腰の冷え、しもやけ
【コタロー】
冷え症で手掌がほてり、口唇が乾燥しやすいつぎの諸症に用いる。
指掌角皮症、更年期神経症、月経不順、月経過多、月経痛、頭痛、腰痛、帯下。
【薬局製剤】
体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:
月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ(手の湿疹・皮膚炎)
副作用や注意点
温経湯は、冷えがあり、(または不正出血があって)月経不順、月経痛、あるいは更年期障害や不妊症に使用される処方となっています。
加えて、血や津液(陰血)による滋潤作用が行き届いておらず、手足のほてり・唇の乾燥があるというのが前提になります。
ほかによく似た適応をもつ漢方薬に、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)がありますが、こちらはむくみやすい人向きの薬ですので、乾燥傾向のある人向きの温経湯とは、きちんと使い分ける必要があります。
体を冷やさないように、温経湯も温かくして服用するのが基本ですし、普段からもなるべく冷飲食には注意して、下腹部や下半身を冷やさないようにこころがけましょう。
胃腸の弱い人は、食欲不振、吐き気、下痢など起こすことがあります。心配なときは少量から試してください。
長期間服用されるときは、甘草の副作用に注意してください。
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