麻子仁丸と潤腸湯の特徴を比較解説します
一般に、慢性の便秘・便が硬くて出ない便秘・高齢者の便秘などには、
「麻子仁丸」(ましにんがん)や「潤腸湯」(じゅんちょうとう)が有効とされています。
麻子仁丸も潤腸湯もともに
腸内の乾燥を潤しながら便通を改善させる、という効能をもっていますが、
使い分けるとすると↓のような違いがあります。
「麻子仁丸」の方が瀉下作用がやや強めで、便通を改善することに重点を置いている漢方薬。
「潤腸湯」の方が瀉下作用はマイルドですが、便秘になりやすい根本にある潤い不足も同時に治すことを目標にしている漢方薬。
「麻子仁丸」と「潤腸湯」の生薬
生薬構成の違い
「麻子仁丸」の構成生薬は6種類
当然ですが、「麻子仁丸」という名前になっている麻子仁という生薬が配合される漢方薬です。
「潤腸湯」の構成生薬は10種類
「潤腸湯」という名前は、腸を潤して便を軟らかくするという意味で、それによって便の動きをよくして、排便を助ける漢方薬です。
下線部は麻子仁丸と共通の生薬であり、「麻子仁丸」の芍薬以外の生薬は「潤腸湯」にも配合されているわけです。
混乱しそうですが、潤腸湯にも麻子仁は配合されています。
生薬配合量の違い
麻子仁・杏仁・大黄・枳実・厚朴は共通して配合される生薬ですが、
配合量に関して、特徴的な違いがあります。
「麻子仁丸」中の麻子仁はやはり主薬であるので「潤腸湯」よりも配合量が多いです。
そして、瀉下作用のある重要な生薬である大黄の配合量も「麻子仁丸>潤腸湯」です。
一方、「潤腸湯」において配合量が多いのは、当帰・地黄です。
麻子仁丸は『傷寒論』ですので3世紀には存在しています。
潤腸湯は『万病回春』なので16世紀。歴史的にはぜんぜん違う時代のものです。
麻子仁丸の特徴
「麻子仁・杏仁・大黄・枳実・厚朴・芍薬」の6つの生薬のはたらきを整理します。
麻子仁・杏仁の「仁」の効果
「仁」と付く生薬は、種子を表しています。
ご存知の通り、菜種であったりゴマだったり、植物の種には油分が豊富に含まれています。
よって麻子仁・杏仁などをダブルで配合すれば、その油分によって腸の中の乾燥を防ぐとともに、潤滑油の働きで、便がよりスムーズに動きます。
大黄・枳実・厚朴の効果
大黄・枳実・厚朴の3つで「小承気湯」という方剤になります。
この小承気湯(大黄・枳実・厚朴)は、「潤腸湯」「麻子仁丸」だけでなく、「大承気湯」や「通導散」などにも共通して組み込まれてます。
方剤によって配合量に差はありますが、いずれも胃腸の蠕動運動を高めるためのベースになっている配合です。
食物が腹部に停滞しているのを解消し、つかえや、腹部膨満感を除きます。
あと、芍薬が加わりますので、お腹の張った痛みを和らげる効果があります。
潤腸湯の特徴
潤腸湯は「麻子仁丸」から芍薬を抜いて、桃仁・当帰・地黄・甘草・黄芩が加わった配合です。
麻子仁丸の、麻子仁・杏仁のみならず、さらに桃仁が加わります。「仁」がトリプルです。
しかもその他に、当帰・地黄という体に潤いを与える生薬(補血薬)などもたくさん配合されています。
当帰・地黄 →「血」を補い
桃仁 →駆瘀血作用で胃腸への血の流れを改善
大黄・厚朴・枳実 →蠕動運動を促進し
黄芩(・大黄・甘草)→腸管の熱を除く
というように、総合的にはたらいて便通が改善します。
まとめ
「麻子仁丸」「潤腸湯」どちらも、乾燥によって腸内には熱がこもり、潤いがなくなっていることで生じる便秘に使える漢方です。
「麻子仁丸」は
「腸内を潤す生薬」+「蠕動運動を高める生薬」で構成されている。
しかもその「腸内を潤す生薬」の中の麻子仁と、「蠕動運動を高める生薬」の中の大黄は、ともに「潤腸湯」よりも配合量が多い。
↓
つまり「潤腸湯」よりも、腸内を潤して便通を改善する、ということに重点がある。
それに対して
「潤腸湯」は
「麻子仁丸」より大黄や麻子仁の配合量が少なめ。
しかも調和・緩和作用のある甘草が含まれるので、瀉下作用はマイルド。
その代わりに血虚や瘀血の改善効果のある生薬が加わる。
↓
つまり便秘をその根本にある原因と同時に治すことを目標にしている。
どちらも、慢性の便秘、高齢者の便秘、コロコロ便に使われることが多いですが、
体液が不足しやすい病後・産後・月経後などの便秘には「潤腸湯」の方が適します。
エキス剤に関して
医療用エキス製剤
「麻子仁丸(料)」:ツムラ・コタロー・オースギのものがあります。
「潤腸湯」:ツムラ・太虎湯のものがあります。
市販薬(OTC)のエキス製剤
「麻子仁丸(料)」:割と多くの商品が販売されていて、比較的簡単に購入することができると思います。
「潤腸湯」:見つかりませんでした。
Amazonとかで「潤腸湯」を検索したときに出てくる「潤腸丸」という製品は、「潤腸湯」とは生薬構成が異なる別物ですので、混同しないようにお願いします。
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