【桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)】の解説

元気な血管と傷んだ血管のイラスト

~瘀血に使われる漢方薬の代表的処方~

桂枝茯苓丸は、駆瘀血剤の最も代表的な処方。

様々な「瘀血」による症状に対して使われている漢方薬です。

主に血行不良の改善、または血行不良による痛みの緩和にはたらき、血の巡りが悪いことで起こる諸症状に用いることができます。

当帰芍薬散加味逍遙散と並んで、三大漢方婦人薬のひとつとも言われますが、

一般的には「瘀血」に対する処方ですので、

月経不順、不妊症、子宮内膜症、子宮筋腫のほか、男女にかかわらず、打撲、関節痛、痔、頭痛、肩こり、冷えなどに応用されています。

構成生薬とそのはたらき

人体を構成する要素を簡単に「気」「血」「水」と分けたとき、この「気血水」がすべて滞りなく人体を巡っていることが健康な状態だとされます。

「桂枝茯苓丸」に配合されている生薬で考えると、

桂枝茯苓丸という名前ではありますが、「血」の流れを良くする働きを持つ生薬は桂枝・茯苓ではなく、後半の桃仁・牡丹皮・芍薬の方です。

桂枝は「気」の流れを、茯苓は「水」の代謝を改善します。

  • 「気」の巡りを良くする・・・桂枝
  • 「血」の巡りを良くする・・・牡丹皮・桃仁・芍薬
  • 「水」の巡りを良くする・・・茯苓

牡丹皮・桃仁・芍薬の3つが協力して「血」の巡りを良くします。

「血」が巡るためには「気」のはたらきも欠かせません。

血が滞ることで、経脈の気の流れが悪くなり、手足の冷えや、冷えのぼせ、肩こりが起こります。これに桂枝が対応し「気」を巡らせて補助します。

血が流れないと水の流れも良くないので、めまいや頭重感が現れることもあります。これに茯苓が対応し、「血」の流れが悪くなることによって生じる「水」の滞りを予防します。

ということで、桂枝茯苓丸は気血水の巡りを改善するのですが、生薬の配分を考えれば、まず「血」の巡りに重点を置いている漢方薬だということが分かります。

つまり、桂枝茯苓丸は基本的に、血の巡りが悪い、血行不良、微小血管の循環障害の病態などがあるときに使われます。

血の巡りが悪い、または血が一か所に滞っているものを漢方では、瘀血(おけつ)と言います。

瘀血の特徴として、ズキズキとした鋭い痛みを伴います。

桂枝茯苓丸の「効能・効果」に書かれている様々な諸症というのは、瘀血(とそれによる痛み)が関係しているものと考えることができます。

牡丹皮・桃仁・芍薬は、瘀血を解消するとともに、鎮痛効果があります。

牡丹皮と芍薬はともにボタン科の植物の根の部分(牡丹皮は根皮)で、ともに抗炎症作用をもちます。解熱・消炎・鎮痛薬としてはたらきます。

効能・適応症状

  • 月経痛、月経困難、月経不順、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮周囲炎、卵巣炎、不正性器出血、不妊症
  • 動脈硬化症、手足の冷え、冷えのぼせ
  • 更年期障害、血の道症(肩こり、頭痛、めまい、のぼせ、冷え症、精神不安)、更年期の高血圧
  • しもやけ、しみ、にきび、吹き出物、くま・アザができやすい
  • 打撲症(打ち身)、皮下出血、関節痛、腹膜炎、皮膚炎、蕁麻疹
  • 睾丸炎、慢性前立腺炎
  • 痔疾、痔出血

添付文書の効能効果

【ツムラ】

体格はしっかりしていて赤ら顔が多く、腹部は大体充実、下腹部に抵抗のあるものの次の諸症:
子宮並びにその付属器の炎症、子宮内膜炎、月経不順、月経困難、帯下、更年期障害(頭痛、めまい、のぼせ、肩こり等)、冷え症、腹膜炎、打撲症、痔疾患、睾丸炎

【クラシエ】【コタロー】【オースギ】他

比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて足冷えなどを訴える次の諸症:
月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲症)、しもやけ、しみ。

【三和】

のぼせ症で充血し易く頭痛、肩こり、めまい、心悸亢進などがあって冷えを伴い下腹部に圧痛を認めるものの次の諸症:
月経困難、子宮内膜炎、子宮実質炎、卵巣炎、子宮周囲炎、月経過多、痔出血、湿疹、蕁麻疹、にきび、しみ、皮膚炎、凍傷、打ぼく、皮下出血

適応症の補足説明

血流の改善、抗炎症を目標に、幅広く適応されます。

当帰芍薬散が筋肉の軟弱な人に用いるのに対して、桂枝茯苓丸は筋肉質の人に用いられる傾向があります。

更年期障害ののぼせに伴う精神不安にも効果があります。

瘀血は男女を問わず、全身に起こりうるものですので、婦人科における代表的な薬ですが、男性でももちろん使えます。 例えば打撲による内出血、睾丸炎、痔など。

瘀血による月経痛などの痛みは、刺すような痛みで、いつも同じ部分が痛むのが特徴です。

桂枝茯苓丸の適応で、さらに皮膚症状があるときや、浮腫がみられるとき、痛みが強いときには、薏苡仁(ヨクイニン)を加えた桂枝茯苓丸加薏苡仁けいしぶくりょうがんかよくいにんが使われます。

便秘の傾向が強い場合は、桃核承気湯とうかくじょうきとうの方が適するかもしれません。

副作用・注意点

  • 月経不順や月経痛に使用した際、一過性に、経血量や血の塊が増えることがあります。
  • 長期に服用する際には胃腸障害の発現に注意してください。
  • 月経痛など下腹部の痛みが強い場合は、「芍薬甘草湯」や「当帰建中湯」などが併用されることがあります。
  • 瀉下作用は弱いですが、軟便ぎみの方は悪化することがあります。
  • 桂枝茯苓丸という名前が示すように、本来は丸薬ですので、丸薬ではない煎じ薬やエキス剤の場合は「桂枝茯苓丸料」と言った方が正確です。
  • 医療用であっても美肌目的の使用には保険は利きません。

※「瘀血」が結果であって、瘀血を引き起こした原因が別にある場合は、その原因に応じた治療も必要です。

他の漢方薬との併用の必要性

桂枝茯苓丸は、瘀血に対しての基本的な構成に過ぎません。

桂枝茯苓丸は、瘀血を改善できる漢方薬と説明しましたが、少し言い方を変えると、瘀血を改善するだけの漢方薬だと言ってもいいかもしれません。

瘀血の改善以外に、「気」や「血」を増やす作用や、胃腸の働きを良くする作用がそれほど期待できないのです。

桂枝茯苓丸の「効能・効果」を読むと、必ず書き出しに「比較的体力があり・・・」とか「体格がしっかりしていて・・・」とあるのは、体力がない人に対しての配慮が足りない漢方薬ということでもあります。

体力がない人には使えないということではありませんが、疲れやすい、胃腸が弱い、貧血があるなどの方は、それに応じた補気剤や補血剤などの併用を考慮する必要があります。

桃核承気湯などと比べると、長期的に処方されることのある漢方薬ですので気をつけて下さい。

妊娠と駆瘀血剤

瘀血を改善するいわゆる「駆瘀血剤」に分類されるものは、(古い書物では)すべてひっくるめて、流産や早産を起こすおそれがあるとされていました。

実際には、医療用で使われている漢方薬において、そのようなデータがあるというわけではないのですが、もし心配であれば妊娠中の服用は控えてください。

通常は、桂枝茯苓丸を服用されていたとしても、妊娠が分かった時点で中止すれば問題ありません。催奇形性も知られていません。

ただし、不妊症や高齢妊娠などの場合、瘀血が問題になっていることも考えられます。
最近は、不妊治療(例えば多膿疱性卵巣)や、高齢妊娠の安胎のために、駆瘀血剤が積極的に用いられることも増えています。
漢方治療の経験が少ない医師や薬剤師からは、もしかしたら、桂枝茯苓丸は駆瘀血剤だから妊娠したら服用は絶対ダメ、と言われることがあるかもしれません。
ですが、不妊相談の経験が豊富な専門家ほど、妊娠中であっても様々な駆瘀血剤を必要に応じて割と駆使しているものです。
不妊治療で駆瘀血剤を処方されている場合、いつまで継続するかは、処方元の専門家とよく相談されてください。(ネットの情報だけで自己判断で中断されないように)

出典

『金匱要略』(3世紀)

金匱要略では、婦人の「癥痼」を治す処方。元々は、腹腔内の腫瘤(例えば子宮筋腫や卵巣膿腫など)があって、それが原因で月経異常、不正出血、下腹部痛が起こっているときに、桂枝茯苓丸が使われていたということです。

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