【当帰芍薬散】の解説~補血と利水の効果を合わせた漢方薬~

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の解説

当帰芍薬散とうきしゃくやくさんは、「けつ」の不足を補う作用があり、

冷え症で貧血ぎみの女性の、月経痛や月経不順によく使われている漢方薬です。

もともとは妊娠時の腹痛のために考えられた方剤で、

そのため今では安胎の漢方薬としても知られています。

ですので、当帰芍薬散は、婦人科の疾患の漢方薬というイメージが強いかもしれないですが、

生薬の構成は、補血ほけつ利水りすいの作用を併せもっており、

非常に応用範囲の広い漢方薬でもあります。

構成生薬

白朮と蒼朮は、目的によって使い分けることもありますが、当帰芍薬散に関しては基本的にはどちらでも問題ありません。

白朮と蒼朮の違いについて

生薬構成の特徴

当帰芍薬とで「けつ」を補いながら、川芎が血行を確保します。

この3種類で、からだ全体に血液をめぐらせます。

とくに当帰は月経周期を整える生薬として欠かせないものです。

芍薬には平滑筋、腹直筋などの緊張をほぐす作用もあるので、

当帰、川芎との組み合わせで、月経時の下腹部の痛みを和らげる効果も得られます。

次に、

のこりの3つ、茯苓、白朮、沢瀉はどれも利水薬りすいやくとして、水のとどこおりを取り去る作用があります。

構成している6つの生薬のうち、利水作用をもつ生薬の割合が多いことが当帰芍薬散の特徴です。

 

補血剤ほけつざいの代表処方が「四物湯しもつとう」(⇒当帰・芍薬・川芎・地黄)

利水剤りすいざいの代表処方が「五苓散ごれいさん」(⇒茯苓・白朮・沢瀉・猪苓・桂枝

であるので、

当帰芍薬散の生薬構成は、

補血四物湯-地黄)

利水五苓散-猪苓・桂枝)

と、あらわすことができます。

当帰芍薬散の6つの構成生薬

当帰と川芎は、婦人科で使う漢方薬に、いっしょに配合されていることが多い組み合わせです。

ともにセリ科の植物です。

セリ科の野菜(ニンジン、セロリ、パセリなど)にも似たような、特有な香りがあります。

当帰芍薬散のポイント

補血と利水の効果を合わせた生薬構成です。

  • やせ型で筋肉が軟弱(柔らかい)
  • 色白または青白い(顔色がすぐれない)
  • むくみやすい

などの人に用いられることが多い漢方薬です。

皮膚が白く見えるのは、水分の滞り(水滞すいたい)によって血管の色が隠れているせいでもあって、必ずしも貧血のせいだけではありません

また、血虚けっきょの(血が不足している)ためにおこる腹痛に用いられます。

血虚の月経痛は、
下腹部全体がシクシクと絞られるように痛み、
出血が始まってからの方が痛む傾向があります。

 

足のむくみのイメージ

利水の効果によって、

冷えるとやはり腸の水分の滞りによって軟便、下痢になりやすい人、

また冷えると足にむくみができやすい人にも適しています。

胃腸の水分停滞を取り去ることで、胃腸機能が改善し、

食べ物からの栄養を吸収する力も助けます。

倦怠感がある、疲れやすいといった、やや虚弱なタイプの方に向いています。

車酔いやめまいなども、水の滞り(漢方的には「水毒すいどく」)と考えます。

頭痛や肩こりが、天気が悪い日に悪化する、気圧の影響を受ける傾向があるのも、水毒の可能性があります。

ですので、月経の前、むくみの他にめまいや頭痛頭が重くなるという症状にも対応します。

また、沢瀉と白朮の組み合わせによって、回転性のめまいにも対応します。

(ただし、水毒の症状がメインのときは、利水薬中心の漢方薬を使用した方が良い場合もあります)

冷え症(特に腰から下)、または冷えると症状が悪化するものに用いる場合は、
服用とともに、日常生活でも体を冷やさないようにすることが大事です。

副作用・注意点

秋の公園でマスクをつけてバツを作る女性

利水作用の成分が多いので、唇や皮膚の乾燥感が強い、口の中が乾燥している、尿の色が濃い、便秘傾向の方には向いていません。

むくみの傾向がなく、反対に皮膚の枯燥傾向のあるときは四物湯しもつとう温経湯うんけいとうなどを検討されてください。

また処方全体として体をやや温める方向へはたらきますので、暑がり、のぼせる、例えば月経周期の高温期が37℃を超えるような場合とかも向いていません。

昔から安胎薬として、妊娠中でも服用して安全な薬だとされていますが、体質に合っていない場合はわざわざ服用する必要もありません。 (不妊症に用いる場合も同様です)

当帰、川芎が合わない人は、胃部不快感、悪心、食欲不振など胃腸障害を起こすことがあります。心配な方は、少量から試しても構いません。空腹時ではなくて食後に服用すれば大丈夫な場合もあります。または、人参湯安中散六君子湯半夏瀉心湯などを併用する手もあります。

当帰芍薬散に、胃腸のはたらきを助ける人参を加えたものは「当帰芍薬散加人参」。
市販薬では「ルビーナめぐり 」などがそうです。

とくに冷えが強い場合に使われる、当帰芍薬散に附子(ブシ)を加えた「当帰芍薬散加附子」というものも医療用にはあります。(三和)

効能・適応症状

さいごに適応症をまとめておきますが、
適応外も含めて、当帰芍薬散はさまざまな症状に応用されています。

  • 月経異常(月経不順、月経痛)、子宮内膜症、更年期障害、血の道症
  • 冷え症、四肢冷感、しもやけ、むくみ、月経前浮腫、めまい、立ちくらみ、車酔い、耳鳴り
  • 貧血、産前産後または流産による貧血・疲労倦怠感、
  • 頭痛、頭重感、肩こり、腰痛、高血圧、低血圧、動悸、自律神経失調症、心臓弁膜症
  • 妊娠時の腹痛、習慣性流産、リトドリンによる副作用(動悸、頻脈、ふるえ)の軽減、不妊症、つわり、吐き気
  • 花粉症、にきび、気管支喘息、腎疾患、習慣性膀胱炎、脱肛、痔核、脚気、半身不随、嗅覚障害

添付文書上の効能・効果

【ツムラ】

筋肉が一体に軟弱で疲労しやすく、腰脚の冷えやすいものの次の諸症:
貧血、倦怠感、更年期障害(頭重、頭痛、めまい、肩こり等)、月経不順、月経困難、不妊症、動悸、慢性腎炎、妊娠中の諸病(浮腫、習慣性流産、痔、腹痛)、脚気、半身不随、心臓弁膜症

【コタロー】

貧血、冷え症で胃腸が弱く、眼の周辺に薄黒いクマドリが出て、疲れやすく、頭重、めまい、肩こり、動悸などがあって、排尿回数多く尿量減少し、咽喉がかわくもの、あるいは冷えて下腹部に圧痛を認めるか、または痛みがあるもの、あるいは凍傷にかかりやすいもの。
心臓衰弱、腎臓病、貧血症、産前産後あるいは流産による貧血症、痔核、脱肛、つわり、月経不順、月経痛、更年期神経症、にきび、しみ、血圧異常。

【クラシエ】【オースギ】他

比較的体力が乏しく、冷え症で貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴える次の諸症:
月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害 (貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ

【三和】

貧血、冷え症で顔色が悪く、頭重、めまい、肩こり、動悸、足腰の冷え等の不定愁訴があって、排尿回数が多くて尿量が少なく、下腹部が痛むものの次の諸症:
貧血症、冷え症、婦人更年期症、不妊症、流産癖、妊娠腎、ネフロ—ゼ、月経不順、子宮内膜炎、血圧異常、痔脱肛、尋常性ざ瘡

【薬局製剤】

体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向があり疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの次の諸症:
月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭重、肩こり、腰痛、足腰の冷え症、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴り

 

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