【人参湯(にんじんとう)】の解説~冷えと下痢に頻用される漢方薬~

人参湯(にんじんとう)

人参湯(にんじんとう)の解説

下痢に対して頻用されている漢方薬のひとつ。

漢方的には代表的な温裏袪寒剤おんりきょかんざいで、冷えているお腹(消化器)を温めてくれる効能を期待して使われます。

人参湯の別名を理中湯りちゅうとうと言います。
または、蜂蜜で丸剤とした場合は理中丸りちゅうがんと呼びます。

理=治める、中=中焦ちゅうしょう(消化器)を表しますので、消化器機能の低下を治す薬という意味合いです。

消化器のはたらきが悪い場合、食べ物がきちんと消化吸収されず、エネルギー()が生まれにくく、結果、体は冷えやすくなります。

もともとの体質が虚弱な場合(脾胃虚寒ひいきょかん)はもちろんのこと、

冷たいものを摂り過ぎた時や、冷えた環境にいた場合(脾胃実寒ひいじつかん)によっても同様に身体の冷えは起こります。

人参湯は、脾胃ひい気虚ききょに対する生薬「人参」を主薬としますが、

消化器や体全体を温める作用の強い「乾姜」がともに配合されているのが特徴の漢方薬です。

生薬の構成

人参湯に配合される生薬は4種類で、シンプルな構成です。

※⇒白朮と蒼朮の違い

人参と乾姜を配合するという点では、大建中湯だいけんちゅうとうと共通です。どちらもお腹が冷えているときに用います。

ただ、大建中湯は冷えたときの「お腹の痛みを緩和」することに重点を置いているのに対し、こちらは利水健脾りすいけんぴの白朮が配合されるので「止瀉ししゃ作用」に優れていることになります。

また、甘草と乾姜を含むという点では、甘草乾姜湯かんぞうかんきょうとうのグループと考えることもできます。

甘草乾姜湯に附子を加えると四逆湯しぎゃくとう
甘草乾姜湯に茯苓・白朮を加えると苓姜朮甘湯りょうきょうじゅつかんとう
そして甘草乾姜湯に人参・白朮を加えたのが人参湯。

苓姜朮甘湯と人参湯の構成の違いは、茯苓↔人参だけです。

効能・適応症状

添付文書上の効能効果

【ツムラ】

体質虚弱の人、或いは虚弱により体力低下した人の次の諸症:
急性・慢性胃腸カタル、胃アトニー症、胃拡張、悪阻(つわり)、萎縮腎

【コタロー】

貧血、冷え症で胃部圧重感あるいは胃痛があり、軟便または下痢の傾向があるもの、あるいはときに頭重や嘔吐を伴うもの。
慢性下痢、胃炎、胃アトニー症、貧血症、虚弱児の自家中毒、小児の食欲不振。

【クラシエ】他

手足などが冷えやすく、尿量が多いものの次の諸症:
胃腸虚弱、胃アトニー、下痢、嘔吐、胃痛

【薬局製剤】

体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすいものの次の諸症:
胃腸虚弱、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、急・慢性胃炎

消化器が冷えている時の特徴

基本的には、人参湯は冷え(特にお腹の冷え)ていて、消化器の機能が低下しているときに用います。

そういう状態のときにみられる症状をまとめると下のようになります。

  • 冷たい飲み物を嫌い、飲むならば暖かいものを選ぶ
  • 口の渇きはない
  • 口の中に薄い唾液(生つば)がわずらわしいくらい溢れてくる
  • 胸やみぞおちあたりに痞えるような感じがある
  • 声に力がない
  • 尿の量は多く、尿の色は薄い
  • 軟便、下痢(ベトベトの泥状の便)の傾向
  • 下痢して出したとしても疲労感がありスッキリしない
  • お腹を温めてあげると少し和らぎ、冷やすと増悪する

人参湯の関連方剤

人参湯と同様に、冷えていて下痢している時に用いられる代表的な漢方薬に「真武湯しんぶとう」があります。

人参湯と真武湯の違いを、比べてみますと、

人参湯:人参・白朮・乾姜・甘草
真武湯:附子・茯苓・白朮・芍薬・生姜

人参湯は、冷えを改善することが主体なのに対し、

附子や、利水薬である茯苓が配合される真武湯は、新陳代謝や水分の代謝を改善する目的が強くなります。

真武湯の解説ページ

ただし、実際には、人参湯と真武湯が併用されるケースもあります。

人参湯と真武湯を合方した場合、エキス製剤にはありませんが、茯苓四逆湯ぶくりょうしぎゃくとうという方剤に近くなります。

また、たんに附子のみを加えて、附子人参湯ぶしにんじんとう附子理中湯ぶしりちゅうとうとして使われことも多いです。

他に、発熱や頭痛、のぼせなどの表証ひょうしょうをともなときには桂枝または桂皮を加えて、桂枝人参湯けいしにんじんとうとなります。

(なお、白虎加人参湯びゃっこかにんじんとうとか人参養栄湯にんじんようえいとうなどは、名前に人参が入りますが、人参湯とは内容が異なる、全然別の漢方薬です。)

副作用・注意点

  • お腹を温めた方が良いので、必ず、お湯で服用するか、エキス剤ならお湯に溶かして服用しましょう。ショウガ湯のような味です。
  • 原典でも、作用は湯液(人参湯)の方が優れているとしており、わざわざ丸剤(理中丸)でなくても良いようです。
  • それとともに逆に冷たいものの摂取は控えるべきです。
  • 甘草の配合量が多いです。長い期間服用する場合は特には偽アルドステロンなど、甘草による副作用に気をつけてください。
  • 脾胃の虚寒きょかん(お腹の冷え)が原因ではなく、脾胃の陰陽不和による腹痛・下痢(いわゆる過敏性腸症候群のような下痢)には桂枝加芍薬湯けいしかしゃくやくとうの方が適します。

人参湯・理中丸の原典

『傷寒論』(理中丸)

霍乱、頭痛、発熱、身疼痛し、熱多く水を飲まんと欲す者は五苓散之を主る。寒多く水を用いざる者は理中丸之を主る。

→頭痛・発熱・疼痛を伴う嘔吐下痢症で、熱多く(口渇があり)水を飲もうとする者は五苓散。一方、寒多く(口渇がなく)水を欲しがらない者は理中丸です。

大病差えて後、喜唾、久しく了了たらざるは胸上に寒有り、当に丸薬を以て之を温むべし理中丸に宜し。

→大病が治った後に、水のような唾液が溢れてきて口に溜まるのは、胸部(肺脾)に寒があるためなので理中丸で温めるのが良い。

『金匱要略』(人参湯)

胸痹、心中痞し、留気結して胸に在り、胸満し脇下より心に逆槍するは、枳実薤白桂枝湯之を主る。人参湯もまた之を主る。」

→胸中が(陽虚で気滞や寒飲が生じていて)閉塞して痞えて痛い、みぞおちが張って脇の下の方から突き上げるような痛みが起こる。こんな時は(標治で)枳実薤白桂枝湯が適する、または(本治で)人参湯も適する。

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