【小青竜湯】の解説~水っぽいサラサラの鼻水や痰が出るときの漢方薬~

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)の解説

小青竜湯の効能効果、使用のポイント、副作用と注意点などについて、まとめて解説いたします。

効能・適応症状

まず、医療用の小青竜湯の効能・効果は、次のようになっています。

次の疾患における水様の痰、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙

:気管支炎、気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、感冒

ツムラ小青竜湯エキス顆粒(医療用) 添付文書


またそれ以外には

例えば、花粉症、浮腫(むくみ)、湿疹、腎炎、唾液分泌過多症などにも応用されることがあります。

一般的にはアレルギー性鼻炎によく用いられていて、最近は花粉症の薬として使われることが増えているように思います。

鼻アレルギー診療ガイドラインや、咳嗽に関するガイドラインにおいても有効な薬として推奨されています。

最も重要なポイント

効能書きにいくつも症状が書かれているとポイントが分かりづらくなりますが、

最も重要なポイントはどこかということを先に言ってしまうと、

効能の一番初めに書かれている「水様の痰」「水様鼻汁」という症状の「水様」の部分です。

痰であっても鼻水であっても小青竜湯は使えるのですが、

「水様の」ですので、気道などの粘膜から分泌されている痰や鼻水などの液体が「水っぽくて色が薄い」
または「透明」「サラサラしている」ときに使います。

逆に痰や鼻水が「黄色っぽくて濃い」「粘っこい」または「気道からの分泌物が少なく、乾燥している」ときには適していない、ということです。

咳に使うときも、うすい水様の(泡沫状の)痰を伴ってゼーゼーとでる咳です。

湯舟や洗面台で、排水口がふさがって流れが悪いときに、水を出しっ放しにし、さらに水の中に大きな物を投げ込んだりなんかすると、淵から水がいっきに溢れて床が濡れてしまうと思いますが、

体質的に水代謝が悪く、溢れるくらいに水が溜まりやすい人が、寒さ・ウイルス・花粉など、何かが刺激となって、鼻や目や喉からその水が溢れてきて、流れ出てくるような感じの症状です。

小青竜湯の使い方としては、、風邪なのか鼻炎なのか、実証なのか虚証なのかという問題以上に、鼻水など分泌物がうすくて水っぽいのか、という点の方が重要です。

繰り返しますが、黄色~緑色の濃い鼻水や、乾いた咳、粘っこい痰に対しては、小青竜湯は逆効果です。

構成生薬とはたらき

小青竜湯の構成は、麻黄湯まおうとうから杏仁を抜いて、細辛・五味子・半夏・乾姜・芍薬を加えたものに相当します。

各生薬の効果

小青竜湯に配合される各生薬の作用を簡単に書きます。

麻黄・桂枝:発汗作用(体表からの水の発散作用)があります。カゼのときの頭痛、発熱、悪寒をやわらげます。麻黄は咳止めの作用もあります。

半夏・細辛:小青竜湯でいちばん配合量が多いのが半夏です。温めて余分な水を乾かします。吐き気(からえずき)や咳をしずめる効果があります。細辛は鼻の通りをよくする作用もあります。

乾姜・甘草:胃腸を温めて機能をよくすることによって水代謝を改善します。

五味子:鎮咳作用と、鼻水などの水分が漏れるのを防ぐ(収斂)作用があります。酸味があるので小青竜湯は、ちょっとすっぱい味もします。

芍薬・甘草:麻黄・桂枝の発汗作用(の過剰)による脱水を予防するはたらきがあります。

発散性の生薬(麻黄・桂枝)に対して、収斂性の生薬(五味子・芍薬)でバランスをとると同時に、甘草で脾胃を保護し、体力の消耗を防ぐ配慮もされています。

あたためて乾かす

一般的に、水っぽい鼻水が出るのは、体が冷えているときが多いです。

小青竜湯には、体を温める作用の生薬がたくさん使われています。

麻黄・桂枝・乾姜・細辛・五味子によって、体表や肺、脾胃が温められます。

よって小青竜湯は手足が冷たい人、体が冷えた時に症状が悪化するような場合に適します。(逆に熱感があって、冷やしたいと感じるときには小青竜湯は合いません。)

湯船の水でいうと、溢れる水を温めて発散させたり、乾かしたりして、床が濡れないようにしています。

体を冷やさないようにすることや、体を冷やす食べ物や飲み物を摂りすぎないことも小青竜湯の効果を高めるうえで大事です。
また、体質的に水代謝が悪く、水分が過剰になっている人が多いので、水分の摂り過ぎも避けた方が良いです。

副作用、その他注意点

特に気をつけるべき3つの副作用

  1. 発汗過多、動悸、頻脈、血圧上昇が起こることがあります。特に高齢者や、狭心症・心筋梗塞などの循環器系に不安がある方は、慎重に使わなくてはいけません。
  2. 「他の花粉症の薬とは違って眠くなる成分は含まれていません」と紹介されます。確かにそうですが、麻黄には交感神経刺激作用(覚醒作用)があります。つまり「眠くなりにくくなる成分が含まれています」ので逆に眠れなくなることがあります。
  3. 胃腸虚弱の方は、胃もたれ、悪心、食欲不振を起こすことがあります。

気になる症状があらわれた時は速やかに減量または服用を中止して下さい。

その他、前立腺肥大症のある方では、尿が出にくくなるおそれもありますので、持病があって心配な方はあらかじめ専門家にご相談ください。

妊娠中の服用可否について

漢方薬だから妊娠中でも服用できる薬、というイメージがあるかもしれません。

小青竜湯には妊婦さんに禁忌とされる生薬は使われていませんので、服用することは可能です。

胎児の成長に影響してしまうような作用も知られていません。

しかしながら、上記のような副作用の発現の可能性を考慮しておかないといけませんから、

安全を期するためには、産婦人科医や漢方の専門家の指示のもと、慎重に使用した方がいいと思います。

他の漢方薬との併用時の注意

他の漢方薬を併用するときには

麻黄(マオウ)細辛(サイシン)甘草(カンゾウ)に特に注意しておいて下さい。

服用量が多くなるほど副作用が起こりやすい生薬ですので、重複がないかを確認しましょう。

小青竜湯で効果が不十分なときに有効とされている併用法について

 

小青竜湯だけでは効かないとき

例えば、冷えが強いため、体を温める作用を強化したいときに、小青竜湯に附子を加えて「小青竜湯加附子」

また、咳がひどい場合、
小青竜湯に杏仁・石膏を加えて「小青竜湯加杏仁石膏」という手が有効とされています。(小児喘息によく用いられていたことがある処方です。)

どちらも医療用エキス製剤にはありません。

そこで、少し荒業的な感じですが、
「小青竜湯加附子」を「小青竜湯」+「麻黄附子細辛湯」で代用する方法があります。

つまり、麻黄附子細辛のうち、麻黄・細辛はすでに小青竜湯に含まれている生薬なので
結果的に、構成内容としては小青竜湯に附子を加えたものに相当します。

同様に「小青竜湯加杏仁石膏」の場合は、「小青竜湯」+「麻杏甘石湯」という方法です。

麻杏甘石湯のうちの、麻黄・甘草はすでに小青竜湯に含まれているので、
構成内容としては、小青竜湯に杏仁・石膏を加味したかたちになります。

さらに桑白皮を加えるかたちで、「小青竜湯」+「五虎湯」ということも考えられます。
「竜🐉」+「虎🐯」ですから、とても強そうな構成です。

小青竜湯・麻黄附子細辛湯・麻杏甘石湯・五虎湯の構成生薬の関連図
構成生薬の関連図

その他、炎症や熱証または浮腫が強い場合に、石膏をプラスする意味で「小青竜湯」+「越婢加朮湯」もあり得るかもしれません。

しかし、いずれにしても、麻黄(や細辛、甘草)が重複してしまいますので、
良い言い方をすれば、作用がパワーアップされて切れ味が良くなる組み合わせ、ということですが、
その分、副作用の発現のリスクが確実に高まるということを理解した上で併用しなければいけない組み合わせです。

切り札として知っておくといいかもしれませんが、小青竜湯自体が副作用に注意を要する漢方薬なので、併用する場合は、短期間のみにする、または症状・体質に応じて服用量を適宜加減するなど、慎重にお願いします。

高齢者や虚弱な方では、小青竜湯の発散作用によって、体に必要な(腎の)陽気も消耗してしまいます。腎陽虚には確かに附子を用いるのですが、この場合、小青竜湯に附子を加えるよりも、副作用を防止するためには、そもそもの小青竜湯の量を加減して使うべきです。

体質的に水毒の傾向が強い場合

小青竜湯には、体の水を捌く生薬として、麻黄・半夏が含まれています。

ですが、手足のむくみ(浮腫)がある、まぶたの下が腫れているなどがあって、

もともと体質的に水毒が強い場合には、小青竜湯の利水作用だけでは効果が不十分な可能性があります。


そのときは、茯苓や白朮などの配合された方剤(例えば、五苓散苓桂朮甘湯当帰芍薬散など)の併用を体質に応じて検討してください。

麻黄が配合されない「苓甘姜味辛夏仁湯」

体力がない、胃腸が弱いなどで、麻黄が使えない場合に、

19番の小青竜湯の代わりとして
119番の苓甘姜味辛夏仁湯が使われることがあります。

小青竜湯と構成生薬が似ていますが、麻黄が配合されていません。小青竜湯の裏処方と言われます。

もし、小青竜湯を服用して食欲が落ちてしまうようなときは、こちらをお試しください。

長期服用に関して

小青竜湯も基本的には「葛根湯」や「麻黄湯」と同じで、もともとは急性の症状に対して使う(対症療法の)漢方薬です。

気管支喘息や花粉症に対して長期間服用しなければいけないケースもありますが、症状が落ち着いているときには必要以上に服用するのは控えて下さい。

体質改善を目的として症状がないのに漫然と飲み続ける漢方薬ではありません。
小青竜湯のおかげで症状が治まったとしても、頑張って飲み続ければ、次の年からは花粉症を起こさずに済む、なんてことはありませんので。

花粉症の症状を軽くするために、予防的に長期的に飲むとするならば、体質に応じた別の漢方薬をご相談ください。

出典

傷寒論(3世紀)

傷寒、表解せず、心下に水気あり、乾嘔、発熱して欬す、或いは渇し、或いは利し、或いは噎し、或いは小便利せず少腹満し、或いは喘する者は、小青竜湯之を主る。

太陽病中篇 第40条

→発熱・悪寒・無汗などの傷寒の症状があり、体質的には水分過剰です。心下に水飲の停滞があるために、嘔気を生じる、咳が出る、あるいは口が渇く、あるいは下痢する、あるいは喉がつまる、あるいは尿が出ず下腹部が張る、あるいは呼吸が苦しい、そのような者は小青竜湯で治療します。

傷寒、心下に水気あり、欬して微かに喘し、発熱して渇せず。(湯を服し已り渇する者は此寒去りて解せんと欲すなり。)小青竜湯之を主る。

太陽病中篇 第41条

→ 傷寒で、心下に水飲が停滞しているので、咳や少し息切れがします。発熱はするけれども、体内に水飲があるために、のどは渇きません。これを小青竜湯で治療します。(小青竜湯を服用したあと、寒飲・心下の水気が去ると、口渇して水を飲みたくなる)

金匱要略(3世紀)

溢飲を病む者は当にその汗を発すべし。大青竜湯之を主る。小青竜湯もまた之を主る。

痰飲欬嗽病篇

→汗として排泄すべき水飲が皮下に停滞している者には、大青竜湯か小青竜湯を用います。

欬逆倚息(がいぎゃくきそく)して、臥するを得ざるは、小青竜湯之を主る。

痰飲欬嗽病篇

→気管支喘息の発作など、咳や呼吸困難で横になっていられないときは、小青竜湯で治療します。

婦人、涎沫を吐するに、医反って之を下し、心下即ち痞するは、まさに先ずその涎沫を吐するを治すべし。小青竜湯之を主る。 涎沫止めば乃ち痞を治せ、瀉心湯之を主る。

婦人雑病篇

→ 涎沫を吐く症状があるのに下す処方を用いれば心下痞が現れることがあります。まず小青竜湯で寒飲を温めて涎沫を吐く症状を治します。それから瀉心湯を用いて心下痞を治しなさい。

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