【苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)】の解説

苓甘姜味辛夏仁湯 (りょうかんきょうみしんげにんとう)

胃腸虚弱で冷え症の人の、咳や鼻水に用いられる漢方薬

苓甘姜味辛夏仁湯りょうかんきょうみしんげにんとう

少し覚えづらい名前かもしれませんが、配合されている7種類の生薬の名前から一文字ずつとって並べた名前になっています。

小青竜湯しょうせいりゅうとうの裏の処方」と呼ばれることがあります。

医療用エキス製剤の製剤番号も、小青竜湯が19番に対して、苓甘姜味辛夏仁湯が119番です。

小青竜湯と同じような症状に用いることができますが、

麻黄まおう(と桂皮けいひ)が配合されていない、というのが特徴になります。

構成生薬

各生薬から一文字ずつとって並べると「苓甘姜味辛夏仁」になります。

乾姜・甘草・五味子・細辛・半夏の5つが、小青竜湯しょうせいりゅうとうと共通の生薬です。

小青竜湯から[麻黄・桂皮・芍薬]を抜いて、

代わりに[茯苓・杏仁]を加えたのが、苓甘姜味辛夏仁湯です。

麻黄は、平喘へいぜん利水りすいのはたらきですが、もうひとつ、桂皮と一緒に使うと発汗(解表)作用がつよくなります。

それで麻黄+桂皮は、悪寒・発熱をともなう、風寒ふうかん表実証ひょうじつしょうによく用いられます。

その表証に用いる生薬を抜いていますので、

小青竜湯とは異なり、苓甘姜味辛夏仁湯では表証がない、寒邪による急性症状ではない、ということです。

また発汗作用のつよい麻黄・桂皮を抜いたことで、営衛の調和をとる芍薬も外されます。

しかしこれらの生薬を抜いただけだと、平喘と利水のはたらきも弱くなります。

それで、利水作用で水をさばく茯苓と、気を降ろして鎮咳去痰にはたらく杏仁が加わり強化されています。

苓甘姜味辛夏仁湯を用いるのが表証ではないということは、裏証りしょうです。

苓甘姜味辛夏仁湯が、「小青竜湯の裏処方」と呼ばれるはこのためです。

麻黄・桂皮を抜いたとしても、それでも乾姜・細辛・半夏など(脾や肺を)温める生薬が多いので、冷えているときに適しています。

効能効果

医療用エキス製剤(ツムラ・コタロー)

貧血、冷え症で喘鳴を伴う喀痰の多い咳嗽があるもの。
気管支炎、気管支喘息、心臓衰弱、腎臓病

【補足】

「貧血、冷え症で…」とありますが、

脾(胃腸)が虚弱なので、冷えるとそのはたらきがさらに悪くなって、気血が産生されず、貧血の傾向になりやすかったり、冷えやすい人、ということであって、貧血は必須の症状ではありません。

胃腸虚弱な虚証向きの薬という意味合いでいいと思います。

むしろ重要なのは、

喀痰の多い咳嗽がある」という部分です。

水様の白い(透明な)痰が多く出ていることが、漢方的に、「いま(水貯留)+(冷え)がある」ことの証拠になります。

もし、アレルギー性鼻炎や花粉症などで処方されることがあっても、苓甘姜味辛夏仁湯の適するのは、鼻水は透明で水っぽい状態です。

胸部に水の貯留があって喘鳴をともなう咳があっても、冷えがなくて、口渇や口内乾燥がみられるときに用いるのは、石膏を配合した「木防已湯もくぼういとう」です。

 

比較的、長期での使用も可能であり、(身体に水の貯留がみられる)慢性的な症状に使われます。

または、小青竜湯を使いたい症状だけど、配合されている麻黄が適さない場合に、その代わりの薬として用いられることがあります。

麻黄は、胃腸障害・動悸・不眠などを起こすことがありますので、もしそういったことで小青竜湯が服用できないときは、変更されてみてください

麻黄による副作用について

出典

『金匱要略』(3世紀)

「水去り嘔止み、其の人形腫るる者は、杏仁を加えて之を主る。其の証まさに麻黄を内るるべくも、其の人遂に痺するを以ての故に之を内れず。若し逆らいて之を内るれば必ず厥す。然る所以は其の人血虚するを以て、麻黄其の陽を発すが故なり。」

『金匱要略』では、苓甘姜味辛夏仁湯は、小青竜湯を用いてダメだったあと、茯苓・五味子・甘草をベースにした方剤へシフトし試行錯誤している流れの中の方剤の一つです。

苓桂味甘湯
苓甘五味姜辛湯
苓甘姜味辛夏湯
苓甘姜味辛夏仁湯
苓甘姜味辛夏仁黄湯

これらは「支飲」に用いられています。

支飲とは、肺や心下部に痰濁(水飲)が貯留し(肺の宣発・粛降を妨げられるので、)咳嗽や呼吸困難(起坐呼吸)、浮腫が生じたもの。

苓甘姜味辛夏仁湯の条文は、そのひとつ前の処方である「苓甘姜味辛夏湯」を用いて、半夏によって嘔吐は止んだものの、浮腫が残っている状態です。

ここで本来は麻黄を入れたいところではありますが、もし実際に入れてしまったら(麻黄のエフェドリンの作用によって)其の人遂に痺する(振戦を起こす)こともあるし、必ず厥す(血管が収縮して冷える)。

なぜなら麻黄は陽気を損傷するからで、ますます陰血も虚してしまいます。

そこでこの場合は杏仁を加えるのが良い、と言っています。

ちなみに、次に出てくる「苓甘姜味辛夏仁黄湯」の最後の「黄」は、麻黄ではなくて、大黄です。乾姜や半夏の温性を抑えたいときは、寒性の大黄が加えられます。

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