【収渋薬】~五味子・五倍子・烏梅・訶子・麻黄根・浮小麦・肉豆蔲・赤石脂・蓮子/蓮肉・山茱萸~

18 収渋薬(しゅうじゅうやく)

収渋薬は、収斂・固渋の作用をもつ薬物のことです。
収納させておくとか、漏れないようにコントロールする、というような作用のことです。
収斂薬、固渋薬と呼ばれることもあります。

正気や体液(気・血・津液(水)・精など)の物質が漏れる症状(滑脱証といいます)に応用されます。

固く引き締める作用を有することから、生薬の味は酸味や渋味をもつ特徴があります。

帰経(作用する臓腑)によって、収渋薬のはたらきは主に3つに分類することができます。

  1. 斂肺止汗
    帰経:肺・心(主に上焦
    作用:止咳・止汗
  2. 渋腸止瀉
    帰経:脾・胃・大腸(主に中焦
    作用:止瀉(下痢をとめる)
  3. 固精縮尿止帯
    帰経:腎・肝(主に下焦
    作用:遺精、遺尿(尿漏れ)、頻尿、帯下(おりもの)、崩漏(不正性器出血)などを止める

留意しておく点として、滑脱証に収渋薬を使うというのは、症状の治療(標治)の手段であることです。

滑脱証の根本的な原因に、何かしらの虚の部分(正気虚弱)がありますので、実際にはその根本的な原因を探って、それに応じた補益薬を一緒に配合し、標治と本治(根本の治療)を同時に行われることが理想的です。

例えば、気虚による自汗、陰虚による盗汗(寝汗)にはそれぞれ補気薬や滋陰薬を配合するべきですし、腎虚による遺精、遺尿、頻尿であれば補腎薬を配合したり、慢性的な下痢などでは脾腎を補益する薬の併用が必要です。

もし、急性の症状で、外邪がまだ残存しているときに収渋薬を用いると、その邪を留まらせて症状を長引かせることがあるのでその点も注意が必要です。

五味子(ごみし)

マツブサ科チョウセンゴミシの果実

【性味】酸 温
【帰経】肺 腎 心
【効能】収斂滋腎 生津斂汗 渋精止瀉 寧心安神

気・津液・精を固渋する作用に優れており
また臓的には肺・腎・心の気陰を収斂させる作用に優れています。
①収斂滋腎
上は肺気をおさめ、下は腎陰を滋養する効能があります。
そのため、肺虚あるいは肺腎両虚の慢性咳嗽、呼吸困難に用いられます。
よく六味丸に加味したり(→都気丸)、麦門冬とともに加味したり(→味麦地黄丸)されます。
肺寒に属する咳嗽には乾姜細辛などと配合されます。⇒小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯
②生津斂汗
酸渋の味は汗を留めるとともに津液を生じるもので、口渇や汗の多い証に適用します。
熱病や炎症で気陰がともに傷ついた気陰両虚証(口渇、多汗、倦怠感、動悸など)によく人参麦門冬とともに配合されます。⇒生脈散、清暑益気湯
陰虚の盗汗(寝汗)や陽虚の自汗には、柏子仁酸棗仁人参牡蛎などと用いられます。
その他、陰虚内熱の消渇証に黄耆生地黄麦門冬天花粉など益気生津の薬と配合して応用されます。
③渋精止瀉
腎を補うことによって精を留めたり瀉(下痢)を止めたりする作用があります。
腎虚の遺精や滑精には竜骨菟絲子などと、脾腎陽虚の五更泄瀉(夜明け前の下痢)や慢性の下痢には補骨脂呉茱萸などと(→四神丸)応用されます。
④寧心安神
心神を落ち着かせて安んずる作用によって、心腎陰虚の心煩、動悸、不眠、多夢などに利用されることがあります。

五倍子(ごばいし)

ウルシ科ヌルデ等の木の葉に寄生するアブラムシ(ヌルデノミミフシ;ヌルデシロアブラムシ)により形成された虫こぶ
※収斂や固渋にはたらくタンニンを多く含み、薬用のほかに昔から天然染料(五倍子染め;ふしぞめ)としても使われています。

【性味】酸 渋 寒
【帰経】肺 大腸 腎
【効能】斂肺降火 渋腸固精 斂汗止血

五味子と似た効能をもっています。
五倍子は寒性なので、収斂と降火にはたらき、熱を兼ねる肺陰虚の慢性咳嗽に適します。
また、収斂して血を止める効能もあり、崩漏証(性器出血)などにも応用ができます。

烏梅(うばい)

バラ科ウメの(成熟に近い)未成熟果実(をくん製としたもの)

【性味】酸 平
【帰経】肝 脾 肺 大腸
【効能】斂肺 渋腸 生津 安蛔

有機酸(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸)やトリテルぺノイド(オレアノール酸)などを含有します。
収斂にはたらくことから民間的にもウメは、咳止め、下痢止め、生津止渇(唾液を出す)に利用されるとともに、抗菌作用を有することも知られています。
漢方では、よく肺虚の久咳(慢性咳嗽)に用いられます。⇒杏蘇散
その他、駆虫作用があることから、蜀椒などとともに回虫の駆除に使われることがあります。⇒椒梅湯

訶子(かし)

シクンシ科ミロバランの成熟果実
(草木染めの染料としても知られているものです)

【性味】苦 酸 渋 平
【帰経】肺 大腸
【効能】渋腸 斂肺 利咽

収斂、止瀉にはたらくタンニンを多く含みます。
斂肺と利咽の(咽喉を利し声が開かれる)効果で、慢性咳嗽のほか、失音証(嗄声、しわがれ声、かすれ声)に応用されています。⇒響声破笛丸

麻黄根(まおうこん)

マオウ科マオウ属植物の根および根茎
(※解表薬麻黄の使用部位は地上部のみ)

【性味】甘 平
【帰経】肺
【効能】止汗

地上部の麻黄が発汗解表にはたらくのに相対して、地下の麻黄根は止汗させます。
しかも専ら、止汗の効能だけを備えます。
主に虚による多汗証に使われます。
例えば黄耆白朮と配合して気虚の自汗に、地黄や山茱萸と配合して陰虚の盗汗(寝汗)に。

浮小麦(ふしょうばく)

イネ科のコムギの(水に浮かぶ)未成熟の果実

【性味】甘 涼
【帰経】心
【効能】益気 除煩 止汗

甘で気を益し、涼で熱を除くことによって、汗を止めます。
気虚の自汗や、陰虚の盗汗(寝汗)に適用します。
中医学的には「汗は心の液」とされますので、心気を補うことで汗が止まるという理解もできます。
また、生地黄地骨皮などと配合して、虚熱(陰虚内熱)の骨蒸潮熱に用いることができます。

成熟したコムギの果実は生薬では「小麦(しょうばく)」といいます。
養心除煩(心陰を養い、心神を安定させる)の効能に優れて、特に婦人の臓躁など(感情が抑制できず、精神興奮がはなはだしいもの)に応用されます。⇒甘麦大棗湯

肉豆蔲(にくずく)

ニクズク科ニクズクの成熟種子(種皮を除いたもの)
※香辛料としては「ナツメグ」とよばれるもの

【性味】辛 温
【帰経】脾 胃 大腸
【効能】渋腸止瀉 温中行気

中焦を温めて、腸を渋らせ、泄瀉(下痢)を止めます。
漢方では主として脾腎陽虚の五更瀉(夜明け前の下痢)に補骨脂や五味子などと応用されます。⇒四神丸
また桂皮白朮などと配合して脾胃虚寒の慢性下痢にも使用することができます。
胃寒(による気滞)で食が少ない、嘔吐、腹痛、腹満などにも適します。このときは木香生姜半夏などと用いられます。

赤石脂(しゃくせきし)

酸化第二鉄などを含有する雲母源の粘土塊

【性味】甘 酸 渋 温
【帰経】大腸 胃
【効能】渋腸止瀉 止血 生肌斂瘡

肉豆蔲と同様の渋腸止瀉の効能をもち、主として虚寒性の下痢に使用されます。
乾姜、粳米と配合して、虚寒証の膿血便を伴う下痢、腹痛に応用されます。⇒桃花湯(傷寒論の少陰病)
その他、外用としては生肌斂瘡にはたらき、慢性の瘡瘍に使われます。

蓮子(れんし)/蓮肉(れんにく)

スイレン科(APG分類ではハス科)ハスの(内果皮の付いた)成熟種子(で時に胚を除いたもの)
※ハスの種子を蓮子といい、堅い殻のつけたもの→石蓮子、殻をとったもの→蓮肉と称する

【性味】甘 渋 平
【帰経】脾 腎 心
【効能】補脾止瀉 養心安神 益腎固精

①補脾止瀉
脾を補うことで泄瀉(下痢)を止めますので、主として脾虚による慢性下痢や食欲不振に適します。
人参白朮茯苓山薬など、脾胃を補う生薬と併用して応用されます。⇒啓脾湯、参苓白朮散
②養心安神
腎を補いながら心を養う(心神を安定させる)、いわゆる心腎を交通させる効能があます。
心腎不交(腎陰虚によって心陰が養えず、相対的に心陽が盛んになることで、心火が生じる)による不眠、動悸などに応用することができます。⇒清心蓮子飲
③益腎固精
沙苑子菟絲子などと配合して、腎虚の遺精、滑精に用いることができます。

関連生薬
【芡実(けんじつ)】:スイレン科オニバスの成熟種子
蓮子と同様に補脾止瀉、益腎固精にはたらきますが、
蓮子が補脾止瀉に優れるのに対して、芡実は補脾袪湿止帯に優れます。
主として脾虚の(水っぽくて量が多い)帯下(おりもの)に応用されます。

山茱萸(さんしゅゆ)

ミズキ科サンシュユの偽果の果肉

【性味】酸 微温
【帰経】肝 腎
【効能】補益肝腎 収斂固渋

肝腎の精血(肝血と腎精)と、腎陽をともに補う効能があって、肝腎陰虚にも腎陽虚にも応用できる点が優れています。
肝腎不足の、腰や膝がだるい、めまい、ふらつき、耳鳴り、視力低下、遺精、頻尿などに用いられます。⇒六味丸八味地黄丸

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