【越婢加朮湯】~むくみや熱感のある、関節痛やアレルギー疾患に用いる漢方薬~

むくみ・はれ・炎症・熱感のある急性症状に越婢加朮湯

越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)の解説

越婢加朮湯えっぴかじゅつとうは、

浮腫(むくみ)をひかせる作用と
炎症や熱感をおさえる作用をもつ漢方薬で、

れのある関節痛や、むくみが出ているアレルギー疾患などに用いられます。

実証向きで、一般には急性期に用いられることが多く、即効性がありますが、

麻黄の配合量も多いので使い方には注意が必要な漢方薬でもあります。

構成生薬について

越婢加朮湯は、漢方製剤の中でもとくに麻黄の配合量が多い方剤です。

そして、それよりもさらに分量が多いのが石膏です。

石膏は熱を冷ます力(清熱)がつよく、他に温性の生薬も配合されてはいますが、処方全体としては、冷やす方向にはたらきます。

また、麻黄は一般にカゼに用いる漢方薬の場合では体を温めることと発汗作用が期待されますが、

石膏の清熱作用がそれを打ち消していますので、

越婢加朮湯のおける麻黄は、「利水・消腫」の目的で配合されていることになります。

そこに、朮を足すことで、水の代謝がより強化されます。

麻黄・石膏(・甘草)で、炎症を鎮めて熱症状を抑えるとともに、

麻黄・朮で、体に溜まっているむくみや腫れの水分を抜いていきます。

ということで、

むくみ、または腫れや熱感のある症状に応用することができる構成となっています。

甘草・生姜・大棗は、胃腸を助けて、麻黄や石膏による胃腸障害に対してフォローします。

白朮と蒼朮に関しては、
・医療用エキス製剤⇒蒼朮
・一般用エキス製剤⇒白朮
が配合されています。理論的に使い分けるとしたら、風湿邪による痛みをとるのが主なら蒼朮、利水が主なら白朮、となりますが、どちらでも大きな違いはないと思います。(⇒白朮と蒼朮の違い

ちなみに、

虚証だし炎症も熱感もひどくないので[麻黄・石膏]は必要ではないというのであれば、もっと虚証向きの水を抜く生薬である[防已・黄耆]に入れ替えます。そしたら⇒「防已・黄耆・甘草・生姜・大棗・朮」となって、これが防已黄耆湯ぼういおうぎとうです。関節の腫れや痛みに用いる虚証向きの漢方薬に変わります。

効能効果

越婢加朮湯の添付文書に書かれている効能効果を読むだけでは、どういう漢方薬なのか、逆によく分からなくなるのではないかと思いますが、一応載せておきます。

添付文書上の効能効果

【医療用エキス製剤】

[JPS]浮腫、尿利減少などがあるものの次の諸症:
腎炎、ネフロ−ゼなどの初期の浮腫、脚気の浮腫、変形性膝関節症、関節リウマチ、急性結膜炎、フリクテン性結膜炎、翼状片、湿疹

[ツムラ]浮腫と汗が出て小便不利のあるものの次の諸症:
腎炎、ネフローゼ、脚気、関節リウマチ、夜尿症、湿疹

[コタロー]咽喉がかわき浮腫または水疱が甚だしく尿量減少または頻尿のもの、あるいは分泌物の多いもの。腎炎、ネフローゼ、湿疹、脚気。

【一般用医薬品】

体力中等度以上で、むくみがあり、のどが渇き、汗が出て、ときに尿量が減少するものの次の諸症:
むくみ、関節のはれや痛み、関節炎、湿疹・皮膚炎、夜尿症、目のかゆみ・痛み

 

とても分かりにくい記載なので、

越婢加朮湯の服用を勧められて、説明書などで薬の効能を確認したときに、

いろんな病名が載っていて、薬が間違っているのではないかと心配になることがあるかもれません。

効能効果の補足

少し整理させていただきますと、

越婢加朮湯の応用パターンは大きく3つに分けることができます。

  1. はれや熱感のある、関節炎、関節リウマチなどの痛み
  2. はれや熱感のある、急性のアレルギー性症状(花粉症、湿疹)
  3. 汗・口渇・尿量減少をともなう全身性の浮腫(腎炎、ネフローゼ)

 

最近の実際の使用頻度(の印象として)で一番増えているのは、添付文書には載っていないですが、「花粉症」のような気がします。

実証タイプで、花粉症の時期に瞼(まぶた)がれる人、

アレルギー性結膜炎を起こし、目が充血して(赤くて)かゆい人、

鼻粘膜は熱をもって、むくみ、鼻の通りが悪くなる人などによく用いられています。

花粉症だから越婢加朮湯、などという使い方はいけませんが、

上のような、腫れや熱感というポイントをおさえて越婢加朮湯を用いるのは理にかなった応用方法です。

副作用・注意点

実証向き(体力中等度以上)で、どちらかというと急性期に用いられる漢方薬です。炎症がつよいときや、熱感がつよいときなど。

小児にもよく処方されることはあります。ですがあまり長期連用には向いていません。

麻黄が配合されています。しかも配合量が多いです。
動悸・頻脈・不眠・悪心・血圧上昇・排尿異常などが起こることがあります。とくに狭心症など循環器系の疾患がある方は慎重にお使いください。

効能の一部に「夜尿症」などもありますが、これも麻黄のエフェドリンの作用で説明できます。覚醒作用によって、尿意がくれば目が覚めやすい(覚めてしまう)ということもありますし、連用によって体質を改善させているものではありません。⇒麻黄のエフェドリンの作用と副作用

また石膏も配合されますので、胃腸障害(食欲不振・胃部不快感・悪心・下痢)にも注意が必要です。

必用に応じて、適宜減量してください。

浮腫に対しての服用後は、(効果があれば)浮腫の水が小便となって出ますので、尿量が増えることがあります。

 

 

以下は、漢方理論的な補足説明です。

麻黄-石膏の組み合わせについて

麻黄⇒発汗作用、と考えてしまわれがちですが、

麻黄湯や葛根湯の強い発汗作用は「麻黄+桂枝」によるものです。

桂枝の血管拡張作用、体表を温める作用と組むためによく発汗します。

「越婢加朮湯」(「麻杏甘石湯」も同様)で、最も配合量が多いのは石膏です。

石膏は逆に冷やす作用のある生薬ですので、

桂枝を石膏に入れ替えただけで、寒熱の作用が逆になります。

このときは、体の水分は汗としてではなく、尿としてよく出るようになります。

麻黄-石膏は、主に(漢方的な)肺の炎症や、腫れを抑える効果が期待されて、

そこに朮が加われば、さらに浮腫を(尿として)引かせる薬になります。

ちなみに

麻黄+桂枝 ⇒ 発汗

麻黄+石膏 ⇒ 利水(浮腫の除去)

そして、

麻黄+桂枝+石膏だと ⇒ 発汗+利水 です。

医療用エキス製剤にはありませんが、「大青竜湯だいせいりゅうとう」は「麻黄+桂枝+石膏」の代表的な方剤です。

もし、[麻黄-石膏]の組み合わせをもつ漢方薬と、[麻黄-桂枝]の組み合わせをもつ漢方薬を併用した場合、

麻黄が重複するというだけでなく、体の水分を喪失しやすい「麻黄-桂枝-石膏」の組み合わせとなってしまいます。

例えば、「越婢加朮湯」+「小青竜湯」などは注意が必要な組み合わせです。

体質をよく考慮して、短期間のみの使用にとどめなくてはいけません。

※越婢加朮湯は特にエキス製剤の中でも麻黄の配合量が多い方剤ですので、単独であっても麻黄による副作用の発現に注意が必要です。

なぜ目の症状にも使えるのか?

次に、越婢加朮湯の効能書きに載っている疾患、

腎炎、関節リウマチ、湿疹などと、花粉症による結膜炎が、なぜ同じ薬で治療できるのか。

水の代謝は、東洋医学的においては「脾」「肺」「腎」が関わり合っています。

つまり、一見バラバラな症状について書かれているように感じますが、

すべて炎症があって、「脾」「肺」「腎」いずれかの水の代謝に影響が表れたために起こっている病態だと、理屈をつけることができます。

では、まぶたの腫れ、結膜の炎症はどうか。

まぶたの内側には(涙を送り出している)涙腺があり、腫れやすいところです。まぶたは当然、眼球とは組織が別です。

結膜は、黒目をおおう角膜と同じように、まぶたの裏~白目をおおう一番外側にある膜。

まぶたの裏に一部は隠れていますが、やはり眼の中にあるわけではなく表面にあるわけなので、自然界の花粉や菌などの異物が直接触れてしまう場所です。

よって東洋医学的な分類では、

まぶた(肌肉)は「脾」の範囲

結膜は鼻(粘膜)と同様、外界と接している「肺」の範囲

と考えて差し支えありませんので、

麻黄剤であって、「脾」や「肺」に作用にする生薬が配合された越婢加朮湯が、

花粉症やアレルギー性結膜炎に使われてもまったく問題はなさそうです。

出典

『金匱要略』(3世紀)

『千金方』越婢加朮湯は、肉極を治す。熱すれば則ち身体津脱し、腠理そうり開き、汗大いに泄すれい風気は、下焦と脚弱る。(中略)悪風する者には附子を加え炮ず。[中風歴節病篇]

⇒身体の一部の肉が腫れて熱が出て、津液が漏れ、腠理が開き、たくさん汗がでると、脚気のようになって足腰を弱らせる。

越婢加朮湯は、石膏で消炎させるとともに、麻黄+石膏で汗を止めることができます。

裏水の者、一身面目黄腫し、其の脈沈、小便利せざるが故に水を病ましむ。もし小便自利するが如きはこれ津液を亡すが故に渇せしむなり。越婢加朮湯之を主る。[水気病篇]

⇒裏水のある者、顔面も全身も腫れ、脈が沈んでいる。尿が出ないから水が全身に溜まっているのだ。もし尿がきちんと出るようであれば脱水してきて渇きがでる。

尿が出なくて水が溜まっている状況なので、汗を止めるだけでなく、麻黄+石膏+朮で、利水を強めることができる越婢加朮湯が良い。

風水、悪風し、一身ことごとく腫れ、脈浮にして渇せず、続いて自汗出で、大熱無きは、越婢湯之を主る。(中略)悪風する者には附子を炮じて加う風水は朮を加う。[水気病篇]

風水とは、発熱・悪寒などの表証に、全身(特に顔や上半身)の浮腫が同時に起こったものです。一種のアレルギー症状に似たものです。

風水で、顔や四肢など全身に浮腫があるときは、「越婢湯えっぴとう」に「朮」を加えて用いる、とされているので、それが「越婢加朮湯」です。

この時代はまだ白朮と蒼朮の使い分けがされていませんので、「朮」はどちらでも構いません。

条文にもあるように、さらに附子を加えると「越婢加朮附湯えっぴかじゅつぶとう」となります。附子は、寒気が強いときだけではなく、痛みが強いときにも加えられることがあります。

裏水は越婢加朮湯之を主る。甘草麻黄湯も亦た之を主る。[水気病篇]

裏水証には、熱証(裏熱)をともなうものと、そうではないものがあって、

熱証の場合は石膏を含む越婢加朮湯が適しますし、そうでなければ甘草麻黄湯で良いです。

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