防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)の解説
防已黄耆湯は、
胃腸が弱く、疲れやすい、汗をかきやすいなどがある人で、
下半身がむくんだり、膝などの関節が痛くなったときなどに用いられる漢方薬です。
また一般には、いわゆる「水太り」を改善する漢方薬としても知られています。
構成生薬
※⇒白朮と蒼朮の違い
防已が主薬です。
袪風湿と利水消腫の効能をもちます。
風湿邪を発散させて関節の痛みや腫れをおさえたり、身体の余分な水を利尿させたりする作用です。
黄耆と朮も、利水作用を助けています。
朮・生姜・大棗・甘草などの、脾(胃腸)のはたらきを整える生薬で気の生成を補い、
さらに黄耆は、皮膚の機能を高めて発汗を調節させるほか、気が体表から漏れないようにしています。
すなわち、
疲れやすいといった、気の不足のある虚証向きで、
- 汗かき
- むくみやすい
- 関節が痛い
などに応用ができる生薬構成となっています。
効能効果
【医療用エキス製剤】
[ツムラ]色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質で疲れやすく、汗が多く、小便不利で下肢に浮腫をきたし、膝関節の腫痛するものの次の諸症:腎炎、ネフローゼ、妊娠腎、陰嚢水腫、肥満症、関節炎、癰、せつ、筋炎、浮腫、皮膚病、多汗症、月経不順
[コタロー]水ぶとりで皮膚の色が白く、疲れやすくて、汗をかきやすいか、または浮腫があるもの。関節炎、関節リウマチ、肥満症、多汗症。
[クラシエ他]色白で疲れやすく、汗のかきやすい傾向のある次の諸症:肥満症 (筋肉にしまりのない、いわゆる水ぶとり)、関節痛、むくみ
【薬局製剤】
体力中等度以下で、疲れやすく、汗のかきやすい傾向のあるものの次の諸症:肥満に伴う関節の腫れや痛み、むくみ、多汗症、肥満症(筋肉にしまりのない、いわゆる水ぶとり)
防已黄耆湯のポイント
防已黄耆湯が使われることが多い特徴点(このようなタイプに防已黄耆湯が合うとよく言われている内容)をまとめておきます。
- 筋肉が軟らかい、肌のしまりがない、湿っていることも多い
- 上半身に汗をかきやすい、冷え症なのに暑がり
- だるい、疲れやすい、食事量が少ない
- 体が重い、家事なども面倒、外出時はかならず車、歩くのがおっくう、すぐに座りたくなる
- 下肢がむくみやすい、とくに夕方以降だるくなってくる、夕方以降に靴がきつくて履けない
- 関節に水がたまる、体重が重いので膝に負担がかかって痛い、ただし炎症や熱感はほとんどない
- 血圧は低いことが多い
概して、がっしりタイプではなくて、ぽっちゃりタイプ。
水の代謝が悪く、むくみやすい。
しかも汗かきなので、飲んだ水は汗と浮腫にむかい、尿量は少ない傾向があります。
尿量が少なくても、脱水しているわけでないので、口渇はあまりみられません。
補足・注意点
「あまり食べていないのに太る」「水でも太る」と言われる方が時々おられますが、実際に、食事の量は少なくても(ときには1食抜くことも平気だけど)、お茶を飲むのが好きで、水分をたくさん(自分の代謝の限界以上に)取り過ぎていたり、水分含有の多い食べ物をたくさん食べていたりするのかもしれません。
防已黄耆湯は、虚証向きの漢方薬なので、食事を3食しっかり食べられていて元気があるのであれば、体の水分(むくみ)を抜く効果のある漢方薬は他にも様々あるわけですし、ただ痩せたいというだけならわざわざ防已黄耆湯の服用にこだわる必要はありません。
服用するときは、肥満者であっても本来は気虚で冷えやすい人向けの漢方薬なので、温服が望ましいです。
水の代謝の改善がメインとなるので、痛みをとるという点では、防已黄耆湯の作用は、弱いです。スーパーの生鮮コーナーで体が冷えて関節が痛くなったとか、雨の屋外の作業のあとで痛くなった、とかでは使えますが、もっと慢性的な痛みとなってくると、他の漢方薬が良い(あるいは併用で使用する)場合があります。
出典
『金匱要略』(3世紀)
風湿脈浮、身重く汗出で悪風する者、防已黄耆湯之を主る。
(中略)服して後当に虫の皮中を行くが如かるべし。腰従り下氷の如きは後被上に坐し、又一被を以て腰以下を繞し、温め微かに汗せしむれば差ゆ。[痓湿暍病篇]
⇒風邪と湿邪に侵され、体が重く、汗が出ていて、悪風する者は、防已黄耆湯が良い。服用した後に、皮中を虫が這うように感じられるはずである。腰から下が氷のように冷たい人は、敷物(座布団)の上に座らせ、さらに腰以下に布を一枚巻いて、わずかに汗ばむくらいに温めれば治ります。
脈浮は表証。そしてすでに汗が出ているので表虚証です。重だるくさせている風湿の邪を、防已で発散させ、かつ黄耆で表虚を補い(表の衛気を固めて)発汗を調節します。体表にゾワゾワと虫が這う感覚がするのは薬が効いてきていることを示すとされています。少し汗が出る程度が良いので、麻黄や桂枝で大量に発汗させる必要はありません。
ちなみに中略の部分は、咳があれば麻黄を、腹痛があれば芍薬を、気が上衝すれば桂枝を、寒湿があれば細辛を加える、といった内容です。
もし、汗が出ていなくて悪風していたら表実証であり、表実の風湿に使われるのは麻杏薏甘湯です。
風水脈浮、身重く汗出で悪風する者、防已黄耆湯之を主る。
腹痛めば芍薬を加う。[水気病篇]
風水(風邪による四肢や顔面の浮腫)のときも同様で、汗がだらだらと出て寒気がするときは防已黄耆湯で治します。
ほとんど上と同じ条文ですが、
風湿の場合は、風湿という外邪に体表が侵されたもの、風湿の邪が体表にあるものを言っています。
風水の場合は、風邪が体表を侵した結果、肺の宣発機能が失調するなどして、身体の水が浮腫として皮下に滲出してきているものを言っています。
ですので、主薬となる防已の役割としても、前者は袪風湿、後者は利水のはたらきが大きいかと思われます。
もし風水で、内熱や湿熱など熱症状も混じっているときに使われるのは越婢加朮湯です。防已黄耆湯の「防已・黄耆」のペアを、清熱と利水の作用が強力な「麻黄・石膏」のペアに入れ替えたものです。
『外台』防已黄耆湯は、風水、脈浮は表に在ると為し、其の人或は頭汗出でて表に他病無く、病者ただ下重く、腰より以上は和を為し、腰以下は当に腫して陰に及ぶべく、以て屈伸し難きを治す。[水気病篇]
⇒防已黄耆湯は、頭から汗が出る以外に、腰より上には異常がなく、ただ腰から下が重く、浮腫によって屈伸がし難いものを治します。
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