【麻杏薏甘湯】の解説~筋肉痛や関節痛などに使われる漢方薬~

麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)の解説

配合されている生薬は「麻黄湯」(まおうとう)に近い漢方薬です。

麻黄湯」(まおうとう)の麻黄と杏仁の量を減らし、桂枝の代わりに薏苡仁(ヨクイニン)を加えたものに相当します。

桂枝が配合されませんし、杏仁や薏苡仁と組み合わさった麻黄というのは、発汗薬としてよりも利水薬としての効果の方が期待されます。

薏苡仁も、イボや肌荒れの薬として知られていますが、組織の過剰な水分に対して利水の効果があります。

つまり漢方的に言うところの

麻黄湯を用いるような「風寒の邪」よりも、「風湿の邪」に対して使われることが多い方剤で、

特に湿邪が原因で起こる痛みに効果があり、浮腫(むくみ)を伴う痛みによく用いられています。

別称:「麻黄杏仁薏苡甘湯」または「麻杏苡甘湯」

ネット上では「麻杏よく甘湯」とも書かれます。

構成生薬

構成生薬の頭の文字が一文字ずつ入りますので、分かりやすい名前です。

4種類の生薬が使われています。

ちなみに、

麻黄湯=麻黄・杏仁・桂枝(または桂皮)・甘草
麻杏甘石湯=麻黄・杏仁・甘草・石膏

であり、

麻杏薏甘湯も、麻黄湯から発展してできた仲間の処方ということになります。

「麻杏薏甘湯」=「麻黄湯」-桂枝+薏苡仁

麻黄には、筋肉やふしぶしの痛みを和らげる作用があります。

麻黄と杏仁で、咳を鎮めつつ、体を温めながら、浮腫をとります。

薏苡仁も、麻黄とともに筋肉や関節の水をとって鎮痛します。

また薏苡仁は昔からイボの薬として知られています。

甘草もまた急な筋肉の痛みに効きますので、

全体として、(冷えによって)患部に水が溜まり生じた関節や筋肉の痛みに適した構成になっています。

効能・適応症状

使い方としては、上記の生薬から4通りのパターンが考えられます。

1.風湿による痛みに対して

関節痛、神経痛、筋肉痛、リウマチ、しびれ、腰痛、ねちがい、四十肩・五十肩、肩こりなどに

2.麻黄・杏仁の鎮咳去痰作用を利用して

咳や(夕方に)発熱のあるカゼ、喘息などに

3.麻黄・杏仁・薏苡仁の利水作用を利用して

浮腫(むくみ)などに

4.薏苡仁の効果を期待して

イボ(疣贅ゆうぜい)、手掌角化症、湿疹、皮膚乾燥、肌荒れ、頭部のフケ、水虫などに

どちらかというと、上半身の症状に使われることが多いかもしれません

添付文書上の効能・効果

【ツムラ】【クラシエ】他

関節痛、神経痛、筋肉痛

【コタロー】

関節・筋肉リウマチ、神経痛、イボ

【三和】

筋肉リウマチ、関節リウマチ、いぼ、手掌角化症

【薬局製剤】

体力中等度なものの次の諸症:
関節痛、神経痛、筋肉痛、いぼ、手足のあれ(手足の湿疹・皮膚炎)

出典

『金匱要略』(3世紀)

病者一身尽く疼み、発熱して日哺所劇しき者は、風湿と名づく。此病汗出でて風に当たるに傷られ、或は久しく冷を取るに傷られて致す所なり。麻黄杏仁薏苡甘草湯を与うべし。

訳↓

全身の関節や筋肉が痛み、発熱して、特に日暮れに悪化するものは、風湿の病によるものです。この病は、汗をかいたあとに風にあたったり、あるいは長い時間湿気の多い場所にいて冷えて、湿邪に侵され生じたものです。麻杏薏甘湯を服用するべきです。

使用のポイント

・もともと麻杏薏甘湯は、汗をかいたあとに風にあたったり、長いあいだ湿気の多い場所に居たなどで冷えてしまい、熱が出たり、関節や筋肉に痛みや浮腫が生じたときの方剤です。

・主に、体表に風湿邪が侵入したことによって生じる関節や筋肉の痛みに対して使われています。

その痛みは比較的軽く、初期のしびれ痛、浮腫がみられるような症状です(慢性化している場合は、薏苡仁湯などを検討します)

・痛みのある患部は温めた方が良い場合が多いです。(湿邪は冷やすと痛みを強くする傾向があります)

・風湿邪の影響がある場合、体表の陽気が巡らず、皮下で熱がこもりやすいので、昼過ぎから夕方頃になってくると、カゼのときは発熱したり、関節痛のときは痛みが増したりすると考えられます。

・またこのとき、浮腫はあっても、皮膚に汗はなく、乾燥気味で、カサカサやザラザラしていることが多いです。

汗が出ている場合は、風や寒さにあたって冷えないようにしましょう。

副作用・注意点

麻黄が配合されていますので、高血圧、狭心症や心筋梗塞などの心疾患がある方は慎重に使う必要があります。

特に高齢者の場合、不眠、高血圧、排尿障害、動悸などの麻黄の副作用に注意して下さい。

また、まれに食欲不振、吐き気、下痢など消化器の症状が起こることがあります。

単純に皮膚の症状にだけ使うときは、長期連用は心配ですので、代わりにヨクイニン単味の方が良いかもです。

甘草の副作用によって浮腫を生じる(悪化させる)おそれがあります。(原典ではそれを起こしにくくするため、甘草は炙甘草を用いています)

コメント

タイトルとURLをコピーしました