【桂枝加朮附湯】の解説~関節痛・神経痛に用いられる漢方薬~

桂枝加朮附湯

桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)の解説

桂枝加朮附湯けいしかじゅつぶとう

桂枝湯けいしとうに、そうじゅつぶしえたもの。

急性または慢性の痛み(神経痛や関節痛)に用いられます。

漢方的には桂枝湯の証である表寒・表虚に、寒湿をともなったときに対応する方剤であるので、

とくに虚証で、冷えをともなう痛みによく適します。

構成生薬

※⇒桂枝と桂皮の違いはこちら
※「湿」による関節や筋肉の障害・痛みのときに用いる「朮」は、白朮ではなく蒼朮の効能が適するとされてきた歴史的背景があり、以下蒼朮として書きます。⇒白朮と蒼朮の違いと使い分けはこちらで解説

 

桂枝加朮附湯は、桂枝湯に蒼朮と附子を加えた構成です。

桂枝湯は一般に虚証の方の、カゼ(感冒)の初期に用いられる漢方薬で、身体を温め、臓腑の機能を高めます。

蒼朮も辛温性の生薬で、温めて寒湿の邪を発散させます。

附子も熱性であり、経絡を温め、寒を散じ、湿を除き、そして痛みを止めます。

つまり、蒼朮と附子を加えることによって

  • 冷えをともなう痛み、
  • または寒冷によって悪化する痛み

に適した配合になっています。

生薬の構成や命名的には、桂枝湯が主でそこに蒼朮と附子を加えたものですが、

効能的には、蒼朮と附子の作用が主で、それを桂枝湯によって補強されている、と言ってもいいかもしれません。

桂皮と附子の組み合わせは、八味地黄丸はちみじおうがん牛車腎気丸ごしゃじんきがんにもあり、関節痛・神経痛・シビレに対する作用がある点は共通しています。

適応症状

添付文書上の効能効果

医療用エキス製剤

【ツムラ他】

関節痛、神経痛

【コタロー】

冷え症で痛み、四肢に麻痺感があるもの、あるいは屈伸困難のもの。
神経痛、関節炎、リウマチ。

【三和】

悪寒をおぼえ尿快通せず、四肢の屈伸が困難なものの次の諸症
急性および慢性関節炎、関節リウマチ、神経痛、偏頭痛

薬局製剤

体力虚弱で、汗が出、手足が冷えてこわばり、ときに尿量が少ないものの次の諸症:関節痛、神経痛

補足

桂枝加朮附湯は、関節痛や神経痛に用いられることが多いですが、

生薬の構成から考えれば、

やや虚証向きで、冷えをともなう、または寒冷で増強する、というのがまず一番のポイントになります。

ですのでそのような特徴があれば、関節痛や神経痛以外にも、

例えば、偏頭痛、急性の筋肉痛、肩こり、麻痺症状、帯状疱疹後神経痛、顎関節症、花粉症

などに応用されることはあり得ます。

桂枝加朮附湯の特徴

漢方的に解説しますと、

桂枝湯がベースなので → 表虚証向き

そして、

桂枝+附子 → 体をあたため血行を促進し

附子+蒼朮 → 寒湿を除く

附子+芍薬 → 鎮痛効果

総合的に、散寒袪湿の作用によって、風湿の痛みを治療します。

要するに、寒冷や湿気によって気血の流れが悪くなり生じる、痛みや痺れ(しびれ)に効果があります。

桂枝加朮附湯を用いることが多いのは、冷えをともなう、または冷えると痛むものなので、

例えば…温かい飲み物を好む人、お風呂が好きな人、痛みがあるとき温泉にじっくりつかりたくなる人、

そのような人の、温まるとラクになるような痛みに使われます。

また、朮には健脾作用があるので、痛み止め(消炎鎮痛剤)で胃腸の具合が悪くなり使えないときに代用されることがあるかもしれません。

副作用や注意点

炎症があり腫れて熱感のある関節痛で、患部を冷やしたいときの痛みには清熱作用のある漢方薬を用いる必要があります。

熱性薬や新陳代謝を高める附子が配合されています。体力が充実していて元気があり、暑がり、のぼせやすい、赤ら顔、血圧が高い、心悸亢進(動悸)など、体質や症状によっては適さない可能性があるので、専門家に相談のうえ、慎重に使用されてください。

冷え症の人であっても、温める効能によって、もし発汗が強するぎ場合には減量が必要です。服用後に汗が出た場合は、汗をきちんとぬぐい、体を冷やさないようにしてください。

ほかの附子を配合する漢方薬と併用する際は、作用が増強されることがありますので注意してください。

ただし、漢方外来などでは、鎮痛効果を高めるために、あえてブシ末を追加(増量)して処方されることはあり得ます。

長期服用するとき、他の漢方薬と併用するときは、甘草による偽アルドステロン症の副作用(浮腫、脱力感、筋肉痛、しびれ)にも注意してください。

関節周囲の組織に水滞(浮腫)がある場合や、めまい・ふらつき・動悸などで水毒症状をともなう場合、桂枝加朮附湯に、さらに利水薬茯苓ぶくりょうを加えた「桂枝加苓朮附湯けいしかりょうじゅつぶとう」が使われることがあります。またこのとき、桂枝加朮附湯の代わりに、「桂枝加朮附湯+苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう」あるいは「桂枝湯+真武湯しんぶとう」の合方で代用されることがあるかもしれません。

市販薬

出典

吉益東洞よしますとうどうの『方機ほうき』(18世紀)が出典とされています。

『傷寒論』(3世紀)にある桂枝加附子湯けいしかぶしとうをもとにして、江戸時代の古方派の医師である吉益東洞が創った方剤ということになります。治療に附子と(白朮でなく)蒼朮をよく用いたという点は吉益東洞の特徴でもあります。

湿家、骨節疼痛する者、或は半身不遂、口眼喎斜する者、或は頭重の者、或は身体麻痺する者、或は頭痛劇しき者、桂枝加朮附湯之を主る。(方機)

ちなみに、

太陽病、汗を発し、遂に漏れて止まず、其人悪風し、小便難く、四肢微急して、以て屈伸し難き者、桂枝加附子湯之を主る。(傷寒論・太陽病上)

もともと『傷寒論』で桂枝湯に附子を加えているのは、虚証の人が発熱して汗が止まらなくなり、発汗過多によって陽気を失ってしまったのを救うためです。

で、この条文の「桂枝湯の証で、尿量が減少し、四肢の麻痺、屈伸が難しい者に桂枝加附子湯」という部分の解釈を発展させ、

さらに蒼朮で利水をつよめ、湿を燥かすことで、運動麻痺や疼痛に応用させていったのが吉益東洞ということです。

『方機』の条文を読むとかなり重症の人に用いる方剤のように感じますが、最初の「湿家」には、当時治療が難しかった梅毒や帯状疱疹の患者が含まれているようです。

 

その他、風寒湿邪の痛みに用いる漢方薬

五積散ごしゃくさん、⇒麻杏薏甘湯まきょうよくかんとう、⇒薏苡仁湯よくいにんとう、⇒二朮湯にじゅつとうなど

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