【桂枝湯(けいしとう)】の解説

桂枝湯の解説

感冒(カゼ)の初期に用いられる桂枝湯

中国の最古の医学書といわれる『傷寒論』(しょうかんろん)という書物の一番最初に登場する、漢方の最も基本となる薬です。

この桂枝湯をベースにして組み立てられている漢方薬もたくさんあります。

比較的体力が低下している人で、自然発汗(自汗)のある(いわゆる表虚証の)カゼの初期に用いられることが多い薬です。

急性熱性疾患(初期の感冒)においては、「自汗があるかないか」というのが「虚証か実証か」の一つの判断基準になっており、

この点で、自然発汗がない、つまり「実証」に用いられる「葛根湯」や「麻黄湯」との使い分けが必要です。

桂枝湯とは

最も基本となる漢方薬

中国の後漢、西暦200年頃から伝えられている『傷寒雑病論(しょうかんざつびょうろん)』(→のちに『傷寒論(しょうかんろん)』と『金匱要略(きんきようりゃく)』の2部になる)という医学書があり、

その『傷寒論(しょうかんろん)』の傷寒(急性の熱性の病、伝染病)について書かれた中で、いちばん最初に登場する方剤が「桂枝湯」です。

桂枝湯から発展させた処方は数多く、急性の熱性症状に使う処方の、もっとも基本となる処方です。

感染症の初期にみられるゾクゾクとした悪寒や頭痛などは、風寒(ふうかん)の邪が、体表を侵したときの症状と考えています。

このときは、身体を温め発汗させることで病邪を除去する、というのが漢方的な原則です。

構成生薬

桂枝湯には以下の5種類の生薬が使われます。

桂枝湯という名前ですが、日本では基本的に桂枝(けいし)ではなく桂皮(けいひ)が使われます。→桂枝と桂皮の違い

桂枝湯を使う症状のポイント

桂枝湯が使われるカゼ

カゼの初期、悪風(軽度の悪寒)をともなって熱が出る、頭痛がしたり、鼻水、鼻づまりがするカゼ、つまり一般的な感冒(鼻カゼ)に用いられます。

汗の出やすい人(虚弱者)向きの漢方薬です。

カゼの引きはじめで、すでに軽度の発汗があり、額や背中がしっとり汗ばんでいる状態です。

葛根湯や麻黄湯を使うと(麻黄が含まれているため)、汗が出過ぎたり、動悸がしたり、胃がムカムカしたりしてしまうような、虚弱な方に用いられます。

また、妊婦さんや小児のカゼに使われることがあります。

「桂枝湯」単独では、効き目はマイルドです。適度な発汗を促すため、服薬するだけではなくて、温かいうどんや粥などを食べて、体を温めるようにした方がより効果的です。

「汗」について

すでに汗がある初期のカゼ、というのが、桂枝湯を選択する大事なポイントとされています。

この「汗」とは、だらだらと流れ出ている汗ではなく、皮膚がわずかに湿っている状態です。

汗の出やすい額や背中を直接手で触れてみるのが一番分かりやすいです。それで乾燥してなくてジットリとしていれば汗は出ている(自汗がある)と判断できます。

この時、体を温め、適度に発汗させ、解熱に向かわせ治療します。が、過度の発汗は避ける必要があります。

構成生薬のうち、桂枝・大棗・生姜はどれも体を温めますが、それほど強い発汗作用はありません。

甘草・芍薬は、逆に発汗のし過ぎを防ぐ働きをしています。

全身に穏やかにしっとりと汗をかかせるため、桂枝湯を服用する際は、(薬の働きを助けるように、)「衣服で身体を温かく覆い、お粥などをすすって」と原典では指示されています。それは、お粥を食べて、消耗した体力と水分を補うためでもあります。

そして、汗がしっかり出はじめて熱が下がれば、桂枝湯の効果がすでに出た(役目は終わった)と考え、汗が出すぎないよう以後の服用はいったん中止して構いません。

効能・適応症状

桂枝湯は、シンプルな基本処方になりますので、実際にはカゼ以外の症状に応用されることもあります。

  • 自然発汗があるカゼの初期(急性の症状)
  • 悪寒を伴う発熱、のぼせ
  • 悪風(風にあたったり肌を露出すると寒気を感じる)
  • 軽い咳・軽い鼻づまり(鼻閉)・鼻水・くしゃみ
  • 皮膚の痒み、じんましん
  • 頭痛・身体痛・神経痛・筋肉痛・関節リウマチ
  • 神経衰弱、自律神経失調症

添付文書上の効能効果

【ツムラ】【オースギ】他

体力が衰えたときの風邪の初期

【コタロー】

自然発汗があって、微熱、悪寒するもの。
感冒、頭痛、神経痛、関節・筋肉リウマチ、神経衰弱。

【薬局製剤】

体力虚弱で、汗が出るものの次の症状:かぜの初期

副作用・注意点

  • じっとりと汗をかいて、熱や頭痛などの症状が治まったら服用を止めて構いません。
  • 汗をかいた後は冷たい風に当たらないようにしましょう。
  • ごくまれに桂皮で湿疹(過敏症)が起こることがあります。シナモンが合わない人は注意してください。
  • 感冒のときは短期間だけの服用になりますが、感冒以外に用いるときは長期の服用が必要なこともあります。
  • 長期に服用するときや、他の漢方薬と併用するときは、甘草による偽アルドステロン症の副作用(血圧上昇、浮腫、低カリウム血症など)に気をつけてください。
  • さらに虚弱な方、小児や高齢者で、桂枝湯でも発汗が多くなってしまう場合は、桂枝湯の芍薬の量を増やした桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を検討してください。
  • 保険診療の場合、医療用エキス製剤で、関節リウマチや神経痛、関節痛、神経衰弱など、風邪以外への適応症がついているのはコタローの桂枝湯だけ(ツムラは「風邪の初期」のみ)ですのでご確認ください。

漢方理論的な解説

『傷寒論』の始まりの方剤がなぜ桂枝湯で、なぜこの桂枝湯が他の漢方薬のベースとなり得るのか。

桂枝湯の構成の理論的な解説を補足しておきます。

まずおさらいですが、
桂枝湯の構成生薬は、桂枝・芍薬・大棗・甘草・生姜です。
風寒(ふうかん)の邪気(じゃき)による症状に使います。
悪寒・発熱・頭痛・自然発汗・からえずきなどの症状に対しての効果があります。

各生薬のはたらきは以下のようになります。

桂枝:弱い穏やかな発汗作用により熱を下げます。体表の寒邪を温め、経脈の流れを開通し、痛みをとります。

芍薬:血液の栄養分を補います。桂枝の発汗のし過ぎを防ぎます。

生姜:吐き気(からえずき)を抑えます。桂枝の温める作用を助けます。

大棗:芍薬の作用を強めます。生姜と協力し、消化器機能を整えます。

甘草:構成生薬の作用を調和させます。

体表を覆い、汗が出る穴を閉じたり開いたりして体温調節している機能(気)を「衛気」といいます。

風寒の邪によって衛気が弱まっているために、自然と汗が出てしまっている状態(自汗)にあります。

また、血液中に存在し、栄養分を全身に補給している機能をもつもの(気)を「営気」といいます。

汗が出ることで、この場合血液もひっくるめて、営気(営血)が損なわれます。

このときに

桂枝と甘草の組み合わせにより、衛気を助けます。

芍薬と甘草の組み合わせにより、営気を補います。

桂枝と芍薬の配合は、桂枝で温め(陽)、芍薬で潤す(陰)わけで、陰と陽を共に補う組み合わせです。

衛気は陽(衛陽)であり、営気は陰(営陰)に属します。

甘草もそこに組み合わせることで、営衛が調和され、それぞれの機能が発揮されます。

これらの作用により風寒の邪による症状がうまく改善へと向かいます。

そしてこれら桂枝湯に含まれる生薬の構成は、その後の多くの漢方薬のベースとして重要な骨格となっていきます。

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