甘草の副作用である偽アルドステロン症、1日摂取量の上限について

甘草

甘草を含む漢方薬の副作用「偽アルドステロン症」の解説

漢方薬の副作用として、甘草による偽アルドステロン症がよく知られています。

甘草は非常に多くの漢方薬に配合されていている生薬であり、漢方薬の使い方によっては過剰に摂取してしまう可能性があります。

甘草を含む漢方薬の使用時に気をつけておくことについてまとめます。

ただ、甘草による副作用の起こりやすい摂取量(1日の上限量)については、個人差が大きくて、なかなかこれくらいという量が示せないのが実情です。

甘草(カンゾウ)とその成分について

甘草とは、

マメ科の植物であるウラルカンゾウ Glycyrrhiza uralensis Fischer、またはスペインカンゾウ Glycyrrhiza glabra Linnéの、根およびストロン(地上をほふくする茎)の部分で、トリテルペノイド配糖体であるグリチルリチンを主成分とする生薬です。

処方全体の作用を調和させたり、
他の生薬の毒性を緩和させる目的であったり、
鎮咳、去痰、鎮痙、止痛、健胃、清熱解毒などの効果を目的にしたりで、

漢方処方の約7割には甘草が配合されています。(薬価基準に収載されているエキス製剤では148種類の方剤のうち109種類)

また、「カンゾウ末」として、SM配合散、FK配合散というような胃腸薬にも使われています。

主成分のグリチルリチンには、肝機能の改善、抗炎症作用、抗アレルギー作用などが認められ、グリチルリチン製剤としては、グリチロン配合錠、ネオファーゲンなどの医療用医薬品が存在します。

市販薬でも、カゼ薬、鼻炎薬、胃腸薬などに含まれていることがあります。

さらに、グリチルリチンは、ショ糖の150~200倍の甘味がありますので、(つまり砂糖を使うよりも同じ甘さでも低カロリーにもなりますので、)甘味料といった食品添加物として、しょう油、味噌などの調味料のほか、漬物、ふりかけ、つくだ煮、清涼飲料水、魚肉ねり製品、お菓子などさまざまな加工食品に使われています。

気付かないうちに大量に摂取している可能性もある成分です。

それから、ハーブティーがお好きな方は「リコリスティー」にも注意で、苦味やクセのあるハーブティーの味を和らげるためにブレンドされていることがありますが、「リコリス」も甘草のことです。

偽アルドステロン症とは

グリチルリチンの過剰摂取によって、

あたかもアルドステロンが過剰になったかのような、血清カリウムの低下と、血清ナトリウムの上昇が出現する状態を、(原発性に対して)偽性のアルドステロン症といいます。

カリウムの低下により⇒筋肉の障害(脱力・筋肉痛・四肢けいれん、しびれ)や、不整脈(心電図異常)
ナトリウムの増加により⇒むくみ(体重増加)や血圧上昇

というのが考えられる主な症状になります。

甘草による副作用が疑われたときには、甘草を含む製剤の服用を中止してください。

通常、服用の中止によって症状は改善します。

※少し詳しく・・・

アルドステロンとは副腎皮質から分泌されるステロイドホルモン(鉱質コルチコイドの一種)で、腎臓からのナトリウムの排泄を抑制(再吸収を促進)します。
グリチルリチンの代謝物によって、腎臓のコルチゾール(糖質コルチコイド)を分解する酵素が阻害され、過剰になったコルチゾールが鉱質コルチコイドの受容体に結合し、鉱質コルチコイドの作用が亢進。
その結果、尿からのナトリウムの再吸収と尿中へのカリウムの排泄が過剰になり、上記のような症状が現れるとされています。

摂取量の目安

甘草

さて、グリチルリチンをどれくらい摂取してしまうと副作用が現れるのかというと、

個人差がとても大きくて、これくらいという線引きができないのが実情です。

甘草の服用量や服用期間のみだけでなく、個人の体質が関係している可能性が考えられています。

体質というのは、ひとつは腸内細菌の影響

もうひとつは、体内に入ったグリチルリチン酸の代謝に個人差のあることが推測されています。

教科書的には、甘草の量で2.5g/日を超えて長期に使うと注意、とか書かれていたりもしますが、

この倍くらい多くても平気な人もいれば、これより少なくても症状がでる人もいます。

また、短期間の服用だけで起こる場合もあります。

メーカーによっても甘草から抽出される成分量には多少の差があると考えられます。

しかしいずれにしても、甘草の服用量が多いほど副作用のおこる可能性は高くなるわけなので、

患者さんが病院で漢方薬の処方を受ける場合、「関係ないと思ってDr.には言っていないけど実はこういう薬も飲んでました」というようなことは、できるだけ避けて頂きたいと思います。

甘草の重複には特に要注意です。

また、甘草の配合量が多い、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、甘草湯(かんぞうとう)、桔梗湯(ききょうとう)などは頓服が基本です。

白朮・茯苓などの利水薬が一緒に配合されている漢方薬だと水分・Naの貯留に関しては、副作用が軽減されているのかもしれません。

グリチルリチンと他の生薬との関係

副作用の出方に個人差がある、と書きましたが

もう一つ、漢方薬の構成による、生薬の組み合わせ方も影響しています。

例えば、「小青竜湯」(しょうせいりゅうとう)の医療用エキス製剤に使われる甘草の量は1日量3gであり、他の麻黄剤に配合される甘草の量に比べて、倍くらいに多い処方です。

だからといって「小青竜湯」が偽アルドステロン症を起こしやすいのか、と言えばそうではありません。

小青竜湯には五味子(ゴミシ)が含まれています。有機酸が含まれる酸っぱい生薬です。

五味子を同時に煎じると、この酸の影響で、甘草からのグリチルリチンの抽出量(溶解度)が低下することが考えられていて、

「小青竜湯」においては、甘草の量が少なかったとしたら、期待する効果も得られなくなります。

つまり、経験的に、効果が得られてかつ副作用の起こりにくい適度な甘草の量が、各漢方薬には配合されているのだと考えられます。

よって、どれくらいの量を摂取してしまうと副作用が現れるのか、

甘草の量だけで一概に言うことはさらに難しいのです・・・

利尿剤、その他カリウム値に影響する薬剤

高血圧や浮腫の治療に、利尿剤が使われることがあります。

その中にチアジド系(サイアザイド系)利尿薬やループ利尿薬に分類される薬剤があります。

併用薬の確認時には、これらの利尿剤の副作用に「低カリウム血症」があることも知っておくべきでしょう。

グリチルリチンと合わさると、副作用症状の出る可能性が増すかもしれません。

成分名で言うと、チアジド系利尿薬としては、トリクロルメチアジド(フルイトラン)や、ヒドロクロロチアジド、ベンチルヒドロクロロチアジド(ベハイド)など、

ループ利尿薬としては、フロセミド(ラシックス)や、トラセミド(ルプラック)、アゾセミド(ダイアート)などがあります。

ヒドロクロロチアジドは、「プレミネント(ロサルヒド)」や「ミコンビ(テルチア)」、「エカード(カデチア)」、「コディオ(バルヒディオ)」などの降圧剤にも少量配合されています。

その他、インスリン、副腎皮質ホルモン製剤、甲状腺ホルモン製剤の併用でも、低カリウム血症が起こりやすくなる可能性があります。

逆に、スピロノラクトン(アルダクトン)は抗アルドステロン薬ですので、カリウム値を上昇させます。

 

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