毒にも薬にもなる植物「トリカブト」と【附子(ブシ)】について

トリカブト

トリカブトと附子(ブシ)のお話

附子とは

附子ぶしは、トリカブト(キンポウゲ科の多年草)の塊根です。

中医学(中薬)の古典においては、

附子は、母根に付()く新しい塊根(根)のことを指し、

茎につながっている塊根(母根)は、カラスの頭の形に似ているので、「烏頭うず」とよび区別されています。

トリカブトは、紫色の花のものが有名ですが、ヨーロッパからアジアにかけて広く分布し、100以上のしゅがあると言われています。

日本でも自生しており、昔から毒のある植物としてよく知られています。

トリカブトと鳥甲

トリカブトという名前は、
花のかたちが、雅楽の演奏者がかぶる帽子の鳥甲(とりかぶと)に似ているのが由来のようです。

狂言でのお話をご存知でしょうか。
一休さんのとんち話にもよく似たものがあります。

主人から「猛毒が入っているから絶対に開けてはいけない」と言われていた壺。
主人の留守のあいだに開けてみたら、本当は(当時貴重な)砂糖(水飴)が入っていた。
それは主人が独り占めしようとしていたわけだが、その砂糖を主人が帰ってくる前に全部食べてしまいました。
そこで考えまして、主人の大事な掛け軸や花瓶を誤って壊してしまったことにして、
「死んでお詫びをしようと思い、壺の猛毒を飲みましたが、なぜかなかなか死ねません」という言い訳をした話。

この話の猛毒というのが、トリカブトのことです。

ロミオとジュリエットで、ロミオが最後に飲んでしまう毒薬もトリカブトだったでしょうか。

附子による中毒

お話の中だけではなく、
実際に、日本でも中国でも、山菜と間違えてトリカブトを食し、中毒で死亡する例があります。

有毒成分は、根に多く含まれますが、花や葉にも含まれます。

とくに、山菜として採れるニリンソウと間違えて食してしまう事例が有名です。

トリカブトとニリンソウの葉

(左)トリカブト・(右)ニリンソウ

 

アコニチンなどの毒性のアルカロイドが含まれていて

中毒症状としては、口のしびれ、発汗・嘔吐・よだれが出るなど、

そして大量になると、不整脈・四肢のマヒ・けいれん・呼吸マヒもあらわれてきます。

附子(ブシ)を誤って食べると、顔の表情をつくる神経もマヒしてしまうことから
「ブス」の語源になったとも言われます。

アコニチンの中毒症状というのは通常、

初期に、口唇のしびれ感・酩酊めいてい
⇒中期に、悪心・嘔吐
⇒末期に、不整脈・けいれん・呼吸マヒ

と段階的に順番に起こってきます。

トリカブト(附子)に対する特別な解毒剤は存在しません。

ですので治療は、抗不整脈薬や人工呼吸器などの対症療法となります。

中毒症状を疑った場合は、早めの対処が肝心です。

しかし附子は医薬品でもあります

白衣姿でOK

もし、附子ぶし=トリカブトという認識でいるのあれば、

附子が配合されいる漢方薬を服用すること(または処方や調剤すること)に不安を抱く人もいるかもしれません。

しかし、通常使われている「ブシ」「ブシ末」は、日本薬局方に収載されている医薬品です。

つまり有効性・安全性について、一定の品質が確保できている医薬品ということです。

適正に使用しなければ副作用のおそれがあることは、他の医薬品も同じことで、

附子だからといって過剰におそれる必要はありません。

実際、すでに一般用漢方製剤(OTCの漢方薬)の中にも、附子を配合している製品はたくさん存在しています。

漢方薬で使われる附子

「毒」と言われる一方、
適量をきちんと使えば「薬」になるということで、漢方ではよく利用されてきています。

当然、薬として使うときは附子をそのまま使うと危険なので減毒処理がおこなわれています。

毒性を軽減する方法として、塩水に漬けたり、蒸したり、煮たり、様々な方法が考えられてきました。

現在では、例えばエキス製剤には、加圧加熱処理したものが一般に使われていて、

「ブシ末」や「加工ブシ末」「修治附子」(しゅうちぶし)という状態で扱われます。

無毒化の技術は高く、毒性は元の1/数百~数千以下と言われています。

エキス製剤に配合されるのは0.5g~1g程のわずかな量であり、極めて安全な量です。

(その他「炮附子」(ほうぶし)または「白河附子」(しらかわぶし)などがあります。加工の方法がそれぞれ異なりますが、これらも減毒されています。)

(古典の分類とは異なりますが)現在では一般的に
安全に使えるように減毒加工(修治)したものを「附子ぶし
何も手を加えていない生の附子を「烏頭うず」として区別することが多いです。

おとろえた新陳代謝や、機能の低下を回復させる薬、

漢方的に言い換えれば、「陽気ようきを補う」薬として、
腎陽の不足、脾陽の不足、心陽の不足、衛陽の不足などの各陽虚証ようきょしょうに用いられます。

真武湯しんぶとう」「附子理中湯ぶしりちゅうとう」「八味地黄丸はちみじおうがん」「牛車腎気丸ごしゃじんきがん」「麻黄附子細辛湯まおうぶしさいしんとう」など。

また経絡けいらくを温めて痛みを止める効能があり、
冷えや湿気で悪化する関節痛などに用います。

桂枝加朮附湯けいしかじゅつぶとう」や「大防風湯だいぼうふうとう」に少量配合されています。

熱性の生薬なので、基本的には「冷え」があるときに使います。

※中国などで流通している附子や烏頭を輸入した場合、減毒加工のされていない可能性もあるので、十分注意してください。

修治附子の種類

加工附子かこうぶし
オートクレーブで高圧蒸気(加圧+加熱)処理により加工したもの。

炮附子ほうぶし
食塩、岩塩又は塩化カルシウムの水溶液(ニガリ)に漬けたものを脱塩後、蒸す・煮るなどの処理を繰り返して加工したもの。

白河附子しらかわぶし
食塩の水溶液に漬けた後、石灰(アルカリ性)をまぶして乾燥させたもの。
上のものに比べると毒性は強い。

炮附子は「冷え」に対して、白河附子は「痛み」対しての効果が強いとされています。

トリカブト保険金殺人事件

裁判の小槌(ガベル)

余談になりますが、トリカブトの事件としては、1986年にトリカブト保険金殺人事件がありました。

トリカブトのアコニチンの毒性は、神経線維のナトリウムチャネルに作用することによって起こります。

アコニチンはナトリウムチャネルを開放するのに対して、

フグ毒として知られるテトロドトキシンは、ナトリウムチャネルを閉ざすという相反する毒性を持ちます。

自分の妻に、この二つの毒を同時に摂取させることで、お互いの毒の作用が拮抗、
摂取から毒性の発現までの時間を2時間遅らせ、自身のアリバイを作り出した、というかなり計画的に手の込んだ事件でした。

当初、死因は急性心筋梗塞とされていましたが、
多額の保険金がかけられていたこと、過去にも二人の妻を心不全で亡くしていること、トリカブトとフグを購入していたことも判明し、

その後、無期懲役が確定しています。

参考図書:『毒と薬ビジュアル版すべての毒は「薬」になる?!』/鈴木勉/新星出版社

 

裁判において、この毒が、得体の知れない中毒として片づけられることなく、
きちんと事件として証明されたことからも分かるように、
トリカブト(アコニチン)の作用機序(作用・副作用)が、科学的に明らかになっているということであり、
逆に、附子も正しく使えば、安全に活用できるということでもあります。

煎じ薬の附子の注意点

附子・烏頭の毒性の危険性を低減させるためには、熱を充分に加えて煎じる必要があります。

もし、煎じ薬の附子・烏頭を処方された場合は、しっかりと指示された手順・時間を守って煎じてください。

また、アコニチンの抽出量は、pHの影響をとても受けることが知られています。

酸性、アルカリ性が変わってしまうものを、自己判断で一緒に加えて煎じたりするのは避けて頂く必要があります。

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