【平胃散】の解説~食べすぎ飲みすぎによる胃もたれ時の漢方薬~

平胃散(へいいさん)

平胃散(へいいさん)の解説

平胃散へいいさんは、

胃腸の機能を整える漢方薬で、

とくに不消化物による、食後のもたれや膨満感、食後の下痢、食後のげっぷ(気滞)や呑酸に用いられています。

胃を平らにするとは

平胃散の「平」は、平穏の平で、穏やかにすることです。

ですので「平胃散」とは、胃でおこっている苦しいものをしずめて、穏やかにする薬という意味です。

(ちなみに麻雀の平和ピンフーというやくも、勝ち幅が少なく穏やかにがる役です。)

生もの、冷たいもの、甘いもの、油っこいもの、アルコールなどを摂りすぎて、

胃腸(脾)に食べ物由来の過剰な水分があれば、漢方では「湿邪」が存在すると表現します。

「湿」の病邪がお腹にあることによって、胃腸の「気」の流れが阻害されて、

胃もたれや、胃の重だるい感じの痛みが起こります。

脾は湿に弱いため、湿邪によって胃腸のはたらきが妨げられることは多く、これを「脾は湿を忌む」と言います。

消化器の気の流れは、通常は上から下へ流れ、食べ物は食道→胃→小腸へと送られますが、

消化機能が弱くなると、みぞおちのあたりがつかえて、膨満感があります。食欲が落ちます。

胃の気が逆上してしまうと胃酸の逆流や、悪心・吐き気がみられます。

水分の吸収・排泄などが障害されて、下痢をすることもあります。

このような湿邪による胃腸障害に使われるのが「平胃散」です。

ということで、平胃という名前ではありますが、

作用するのは胃だけではなく、腸も含めた消化器全体です。

構成生薬

平胃散の構成生薬は6種類。

・お腹に滞っている「湿」を除く(乾かす)⇒[主に蒼朮]

消化管内の水分の吸収を良くします。

・気の流れをよくする⇒[主に厚朴・陳皮]

ぜんどう運動を促進するはたらきを期待しています。膨満感を除きます。

そして、

・胃の調子を整える⇒[主に生姜・大棗・甘草]

という構成の処方となっています。

蒼朮・厚朴・陳皮はどれも芳香のある生薬(芳香健胃薬)で、吐き気を抑え、食欲を増す効果があります。

 

「白朮」か「蒼朮」かについて…

エキス剤ではメーカーによって異なることがありますが、
「朮」は、消化器のはたらきを助けるための方剤では通常「白朮」を使うのが一般的です。

しかし「平胃散」では、湿邪を除くことを第一目的にしているので、その場合は「蒼朮」を使うのが好ましい、ということになっています。

白朮と蒼朮に違いについて詳しくはこちら

効能効果

【ツムラ】【オースギ】他

胃がもたれて消化不良の傾向のある次の諸症:
急・慢性胃カタル、胃アトニー、消化不良、食欲不振

【コタロー】

消化不良を伴う胃痛、腹痛、食欲減退、あるいは食後腹鳴があり、下痢しやすいもの。
口内炎、胃炎、胃アトニー、胃拡張

【薬局製剤】

体力中等度以上で、胃がもたれて消化が悪く、ときにはきけ、食後に腹が鳴って下痢の傾向のある ものの次の諸症:
食べ過ぎによる胃のもたれ、急・慢性胃炎、消化不良、食欲不振

四君子湯との違い

消化器系の代表的基本方剤で、構成生薬も似ている四君子湯しくんしとうとの比較。

いずれも効能としては、食欲不振、胃もたれ、消化不良、腹部膨満感などに用いることがありますが…

四君子湯=人参・茯苓・(白)朮・甘草・生姜・大棗
平胃散 =厚朴・陳皮・(蒼)朮・甘草・生姜・大棗

後半の生姜・大棗あたりはどちらかというと味付けのようなおまけの生薬であって、大事なのは前半の生薬です。

四君子湯は、人参によって胃腸のはたらきの低下を補っているのに対して、

平胃散は、胃腸につかえているものを下に降ろし、湿邪(+食滞)を除こうとしています。

よって、効能としては、どちらも食欲不振や胃もたれの漢方薬ですが、

四君子湯は、体質的な胃腸虚弱のために食べられない食欲不振、胃もたれであり、

平胃散は、食べ過ぎによって胃腸障害をきたしている食欲不振、胃もたれです。

注意点・副作用

  • 生薬構成としては比較的シンプルで、急性の症状に用いられることも多いですが、どちらかといえば軽症用の漢方薬です。
  • 湿を乾かす作用の方剤ですので、もともと潤いの少ない方(陰虚いんきょ血虚けっきょの体質の方)は不必要に連用するべきではありません。
  • 適応症に胃炎がありますが、胃酸過多によって胃痛、胸やけがあるときは、安中散あんちゅうさんか、もしくは他の胃薬(西洋薬)の方が即効性があります。
  • または口内炎や胃炎など、炎症の傾向があるときの腹痛や下痢には、半夏瀉心湯はんげしゃしんとうのような清熱薬せいねつやくが配合されている方剤の方が適します。
  • 腹部膨満感、つかえ感がひどいときは、茯苓飲ぶくりょういんなども検討されてください。
  • 急性の症状にも慢性的な症状にも用いられます。長期に服用したり、他の漢方薬と併用するときは甘草の副作用に注意してください。
  • 平胃散は全体として温性の生薬に偏ってはいますが、体質的な冷えが原因の腹痛や下痢には、別の漢方薬が必要です。
  • お腹が張って苦しい時に、便秘ではないけれど便が出ればスッキリしそうだというときに、平胃散に調胃承気湯ちょういじょうきとうなどを合わせて用いる、というようなこともあり得ます。
  • 根本的には、甘いもの、油もの、生もの、アルコール類の摂取は控えめに。なるべく食事はよく噛んでゆっくりと食べましょう。

平胃散の発展方剤

平胃散で脾胃の症状を穏やかにするわけですが、これだけでは効果が弱い場合も考えられます。

そういうときには平胃散をベースに含んでいる方剤が他にいくつか存在しますので、そちらもご検討ください。

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