小柴胡湯(しょうさいことう)
柴胡・黄芩からなる柴胡剤の基本処方。
感染症の初期段階を過ぎ、進行過程でみられる少陽病(半表半裏証)に対する代表処方ですが、急性症状から慢性疾患まで、幅広い適応があります。
他の漢方薬と併用して用いられることも多い漢方薬です。
構成生薬とそのはたらき
まず、柴胡と黄芩が、熱を冷まし炎症を抑える生薬として配合されています。
大棗、生姜で胃腸を温め、胃腸機能を改善し、食欲不振を治します。
さらに人参が少し加わり体力を補います。また柴胡・黄芩・半夏の燥性による乾かし過ぎを防ぎます。
半夏は胸の痞えをおろしたり、生姜とともに吐き気を抑えます。
また半夏は痰や咳をとる作用があります。
最も配合量が多いのは柴胡です。温性の半夏や生姜、大棗を使っていますが、この場合の温熱性は、柴胡と黄芩の寒涼性で抑えられており、方剤全体としては寒性です。熱や炎症やストレスなどを鎮静する方向にはたらきます。
人参・大棗・甘草の脾を補う生薬の配合があるため、発熱によって、体力がおちて、胃腸も弱ってきたときにも適する内容になっています。
小柴胡湯が使われる症状
- 長引いているカゼ、気管支炎、肺炎などの急性熱性疾患が遷延したときの症状(微熱、食欲不振、だるい、悪心、吐き気、めまい、口中不快など)
- 諸種の急性熱性病
- 肺炎、気管支炎、気管支喘息、胸膜炎、インフルエンザ
- 慢性肝炎、肝機能障害、慢性胃腸障害
- 腎炎、扁桃炎、咽頭炎、中耳炎、耳下腺炎、リンパ腺炎、蕁麻疹、その他の炎症性疾患、化膿性疾患
- 肺結核などの結核性諸疾患の補助療法
- 突発性難聴
- 産後の回復不全
- 自律神経失調症、神経性胃炎、胃・十二指腸潰瘍
- 他の方剤と組み合わせて、その他さまざまな症状に応用されます。
上記の症状に応用されることがあるという意味であり、すべての症状が小柴胡湯で治せる、ということではありません。 保険適応外の症状を含みます。
使用のポイント
適応は非常に幅広く、急性疾患から慢性疾患まで様々な症状に使われる処方です。
主には炎症性の疾患に使われますが、柴胡剤として精神的なストレス性(肝気鬱結)の疾患に対しても効果があります。
『傷寒論』においては少陽病の代表処方で、胸脇苦満・往来寒熱・気分が悪くて吐き気がし、食欲がなくなる等の症状が「小柴胡湯」証の特徴として挙げられます。
少陽病のときは、発汗させる方剤や、瀉下させる方剤は使わず、小柴胡湯で和解させなければいけません。
小柴胡湯で和解するとは
外から、悪い邪気が体に侵入してきた際に、対処する方法としていくつかあります。
例えば、桂枝湯や葛根湯、麻黄湯などは、汗法といって、汗をかくことで体表の邪気を追い出します。
それから、今ではほとんど使われませんが、胃の中に悪いものがあれば、吐かせるという方法があります。
そして、腸に悪いものがれば、あえて下痢をさせて出してしまう、という方法があります。
小柴胡湯は、どれとも違います。
和法(または和解法)という治療法です。
汗をかかせない、吐かせない、下痢をさせない方法です。
邪気が体の内部に少し侵入してきたとき、むりやり邪気を追い出すのではなく、和解する手段をとり、できるだけ最小限の被害だけで済むように調整し、悪いものに出て行ってもらう作戦です。
つまりは臓器の機能のバランスを調整していく処方構成になっています。
調和をとる意味の和法です。
その和法で使うもっとも基本となる処方が小柴胡湯であります。
小柴胡湯が様々な症状に応用できる理由でもあります。
症状の特徴
もともとの「小柴胡湯」は、風寒(ふうかん)の邪気が、体表から少し体の内部にまで侵入したときに使います。
このとき現れる症状は、、、
- 悪寒と発熱をくりかえす(往来寒熱)
- または午後や夕方になると熱が上がってくる
- 胸のあたりが苦しい
- 喉が渇き、口が苦い
- 悪心、吐き気があり、食欲がおちてくる
といった状態です。
『傷寒論』では少陽病の特徴です。
最も重要なのは、邪気と正気に一進一退の闘いが起こり、熱が体表にあったり内部にあったりするために、悪寒を現したり発熱を現したり、これが交互に相乱れる状態であること。
(発熱と悪寒が同時であれば、邪気はまだ体表にあります。)
体の抵抗力があると発熱→抵抗力が消耗すると発熱がなくなる→邪気により陽気の巡りが悪く、発熱がなくなれば悪寒→抵抗力が回復すると再び発熱→これを繰り返す、という具合です。
この熱の状態を半表半裏(はんぴょうはんり)の熱といいますが、この状態あれば、(その他の症状すべてが当てはまらなくても)小柴胡湯が使える状態です。
胸や脇のあたりが痛くなるのは、邪気が少陽経の経絡に侵入して経絡の流れを阻害しているから、と考えられています。
「胸脇苦満」と表現し、柴胡剤を使う目安になります。
また経絡の流れが悪ければ、上半身に水が巡らず、口が渇くことになります。
さらに少陽経は胆を通るため、胆汁が熱とともに上がってきて、口が苦くなります。
胆の熱は、そばにある胃に影響し、胃の働きが悪くなるため悪心、吐き気、食欲不振が起こります。
様々な関連方剤
さらに小柴胡湯は、他の薬と併用して応用されることがたびたびあります。
その組み合わせの多くにはきちんと名前が付いています。
つまり併用が定番化されているということで、そのことからも、小柴胡湯の応用の幅の広さが実感できます。
扁桃炎など、喉の炎症があり腫れて痛むときに用いられる「小柴胡湯加桔梗石膏」(109番)は、小柴胡湯(9番)に桔梗石膏を加えたものです。
小柴胡湯に、五苓散を合わせたものが「柴苓湯」(さいれいとう)、
半夏厚朴湯を合わせたものが「柴朴湯」(さいぼくとう)、
桂枝湯を混ぜると「柴胡桂枝湯」(さいこけいしとう)であり
「柴陥湯」(さいかんとう)は、小柴胡湯プラス「小陥胸湯」(しょうかんきょうとう)です。
製剤にはありませんが、小柴胡湯と平胃散を合わせると「柴平湯」(さいへいとう)となります。
香蘇散と一緒に使用すると「柴蘇飲」(さいそいん)です。
また、「柴葛解肌湯」(さいかつげきとう)を、エキス剤では「小柴胡湯加桔梗石膏」+「葛根湯」で代用されることがあります。
小柴胡湯に、黄連・山梔子・黄柏を加えたものは「柴胡解毒湯」(さいこげどくとう)といいます。
副作用・注意点
インターフェロンとの併用は禁忌とされています。
なぜか上記の「柴胡桂枝湯」や「小柴胡湯加桔梗石膏」など、小柴胡湯関連の合剤はインターフェロンとの併用が禁忌にはなっていませんが、小柴胡湯が含まれている漢方薬も、同様に気を付けてください。
慢性肝炎、肝硬変、肝がんの患者に使用されたとき、ごくまれに間質性肺炎が起こる可能性があるといわれています。
服用中に発熱・咳嗽・呼吸困難があらわれた場合には早めの対応を。
小柴胡湯による間質性肺炎の副作用は、漢方薬の副作用問題として度々取り上げられますが、 西洋薬と比べても発生頻度は高いわけではありません。証を考慮せずに慢性肝炎に病名投与されていたことが一因だと言われています。
なお、慢性肝炎の炎症に小柴胡湯が使われることはあっても、肝硬変の場合は基本的に小柴胡湯の適応ではありません。
ストレス性の疾患でも柴胡剤がよく用いられます。
しかしながら小柴胡湯においては、柴胡の配合量が多く、明らかに退熱が本来の目的です。そして柴胡・黄芩・半夏と乾かす作用のある生薬が多く、当帰や芍薬のような肝血(肝陰)を補う生薬は配合されていません。そういう点では、例えば加味逍遥散を連用するのとはワケが違います。
カゼのときに短期間だけ使用するのであればそれほど心配はいりません。
ですが、高齢者、著しく体力が低下している人に(単独で)(長期に)使用する場合は十分に証を考慮する必要があります。
甘草が含まれます。他の処方と併用することも多いので、甘草の重複による副作用の発現にも注意が必要です。
また、稀に黄芩でアレルギーを起こすことがあります。
用法用量や使用上の注意は、医師・薬剤師の指示、または添付文書の説明を守ってください。
出典
『傷寒論』・『金匱要略』(3世紀)
傷寒論にも金匱要略にもたくさんの条文の中に小柴胡湯は記載されています。全ては書けませんので、さいごに、まとめとしてもっとも基本となる条文だけ…
傷寒五六日、中風、往来寒熱し、胸脇苦満、黙黙として飲食を欲せず、心煩し、喜嘔す。或いは胸中煩して嘔せず、或いは渇し、或いは腹中痛み、或いは脇下痞鞕し、或いは心下悸し、小便利せず、或いは渇せずして身に微熱有り、或いは欬する者は、小柴胡湯之を主る。
傷寒論太陽病中篇第96条
訳→太陽病の傷寒や中風(重症や軽症の急性熱性疾患や感染症)にかかって5.6日経っても治癒せず、少陽病に移行、寒と熱が交互に繰り返し、胸の下に苦満感を呈す。気分がすぐれず食欲が落ち、胸部が悶えて、しばしばえずく。あるいは胸が悶えても吐き気なく、あるいは喉が渇き、あるいはお腹が痛み、あるいは脇の下が硬く痞え、あるいはみぞおちに動悸がし小便が出ないか、あるいは喉は渇かないが微熱がある、あるいは咳をするならば、小柴胡湯を用いるのが良い。
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