~ストレスによる精神症状などに用いるやや実証向きの漢方薬~
柴胡加竜骨牡蛎湯は、
柴胡剤といわれるグループの仲間で、小柴胡湯の加減方のひとつ。
柴胡剤の中ではやや実証向きの漢方薬です。
構成生薬
※現在のエキス製剤には大黄を配合していないメーカーのもあります。
同じ柴胡剤である「小柴胡湯」の構成は、
[小柴胡湯:柴胡・半夏・黄芩・人参・大棗・甘草・生姜]
なので、それと比較しますと、
柴胡加竜骨牡蛎湯は、小柴胡湯から甘草を除いて、桂枝・大黄・茯苓・竜骨・牡蛎を加えた構成です。
柴胡とともに、大黄・茯苓・竜骨・牡蛎の4つにはいずれも精神を安定させる作用があるため、
小柴胡湯の精神安定作用を強化させているかたちの配合になっています。
桂枝は「気」の上衝をしずめ、
漢方薬の名前にも入ってくる竜骨・牡蛎には、不眠、不安、多夢、動悸、煩躁、驚きやすいなど、心神不寧の症状を鎮静させるはたらきがあります。
そういうわけで、柴胡加竜骨牡蛎湯は、イライラや不眠などストレスからくる様々な症状に対して応用されます。
効能・適応症状
添付文書上の効能・効果
【ツムラ】
比較的体力があり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの次の諸症:
高血圧症、動脈硬化症、慢性腎臓病、神経衰弱症、神経性心悸亢進症、てんかん、ヒステリー、小児夜啼症、陰萎
【クラシエ】他
精神不安があって、どうき、不眠などを伴う次の諸症:
高血圧の随伴症状(どうき、不安、不眠)、神経症、更年期神経症、小児夜なき
【コタロー】
精神不安があって驚きやすく、心悸亢進、胸内苦悶、めまい、のぼせ、不眠などを伴い、あるいは臍部周辺に動悸を自覚し、みぞおちがつかえて便秘し、尿量減少するもの。
動脈硬化、高血圧、腎臓病、不眠症、神経性心悸亢進、心臓衰弱、テンカン、小児夜啼症、更年期神経症、陰萎、神経症。
【薬局製剤】
体力中等度以上で、精神不安があって、動悸、不眠、便秘などを伴う次の諸症:
高血圧の随伴症状(動悸、不安、不眠)、神経症、更年神経症、小児夜泣き、便秘
ポイント
ストレスや緊張によると思われる過興奮などの精神症状、またその随伴症状に広く用いられます。
子供、受験生、サラリーマン、更年期の方、高齢者まで年齢的にも幅広く用いられています。
あまり怒りなどの感情をストレートに表現するタイプではなく、例えば職場では紳士的で、一見元気そうだけど、実はストレスを溜めこんでいる、というようなタイプ。
明日のことが心配で眠れない、まだどうなるか分からないことを悪い方へ悪い方へ考えてしまう、ちょっとしたことにも強い不安感を抱いてしまう、
神経がピリピリと過敏になっていて眠れず、寝ても嫌な夢をみる、ちょっとした物音でも驚いてしまう、冷や汗がでる、手足がふるえる、等の症状にも使われます。
西洋医学的な睡眠剤、安定剤、抗うつ薬、降圧剤とは異なり、過度に眠くなったり、過度に血圧が下がったりの心配が少なく、西洋薬に併用する形で使うことも可能です。
大黄は便秘改善のためではなく、精神安定作用を期待して配合されています。イライラ等を抑えたときには、大黄が入っているメーカーのものの方がより効果的です。
煩驚(はんきょう)について
柴胡加竜骨牡蛎湯の使用目標(使用する目安)のひとつに煩驚があります。
柴胡剤のうち大柴胡湯が「怒」の心的傾向があるのに対して、柴胡加竜骨牡蛎湯は「驚」の傾向がみられることがあります。
煩驚とは、その言葉のとおり解釈すると、煩わしいくらいに驚く、ということ。
例えば、突然「バタン!」という音が聞こえたとき、通常であれば、その音が聞こえた時に、風であそこの扉が勢いよく閉まったのだな、とか、あそこの机から物が落ちたのだな、とか瞬時に状況を分析するわけですが、それができないのです。
とりあえず驚いてしまいます。体がまずビクッとします。あたりを見回して、落ち着いてから、やっと音の原因について考えることができる。
精神的な緊張で、頭が冷静に状況整理できていない状態と考えられます。
また、驚きだけではなく、不安、恐れ、苛立ちなどに対しても、神経が過敏になっていて、体の過剰な反応(ビクビクした様子)がみられることがあります。
副作用・注意点
頓服として使用するよりも、用法通り継続して服用する方がより効果的です。
これで下痢をしてしまう場合は、大黄の含まれていないメーカーのものをお試しください。
また、あまり体力のない虚証の場合は「柴胡桂枝乾姜湯」の方が適します。
高血圧や動悸、不整脈などに対しては、西洋医学的な治療を優先すべきときもあります。医療機関で定期的に検査も受けましょう。
インターフェロンとの併用は禁忌ではありませんが、「小柴胡湯」と同様の注意は必要です。
原典
『傷寒論』(3世紀)
傷寒八九日、之を下し、胸満煩驚し、小便不利、譫語し、一身尽く重くして、転側すべからざる者は、柴胡加竜骨牡蠣湯これを主る。
『傷寒論』においては元々、カゼが長引いた際に、小柴胡湯などを用いるべきところ誤った薬で治療をしてしまい、精神神経症状が現れた状態に対処するための方剤として記されているのですが、現在ではこのような使われ方はすることはほとんどなく、柴胡・竜骨・牡蛎などの精神を安定させる作用を期待して、もっぱら、ストレスが関係しているような様々な症状に対して応用されています。
また原典で鎮静作用を強める薬として鉛丹(鉛の酸化物)が配合されていますが現在は毒性を考慮して使われていません。
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