瀉下薬(しゃげやく)の概念

瀉下薬(しゃげやく)

3.瀉下薬とは

瀉下薬しゃげやくは、一般には「便秘に使う薬」を指すことが多いです。

しゃ」は、水をそそぐ、くだす、吐き出す、などの意味がある字ですので、
瀉下とは「下から出す」つまり「排便を促進する」ということになります。

ただ、西洋薬でいう便秘に対しての「下剤」の意味とはまた少し異なっています。
「下剤=瀉下薬」ではありません。

瀉下薬の対象

まず、「体の中にたくさん溜まってしまうと困るものが内臓に溜まってしまっている状態」があれば、

これを「裏実証りじつしょう」と言います。

は内臓のこと、
過剰にあるものがじつ実邪じつじゃ)です。

この体内の実邪は、例えば以下のようなものを含んでいます。

  • 宿食しゅくしょく(食べすぎたものが腸内につかえているもの)
  • 燥屎そうし(食べものの消化吸収後のカス)
  • 熱邪ねつじゃ(実熱)
  • 水飲すいいん(余分な水分)など

そして瀉下薬はこの裏実証に使用する薬ということになりますので

つまり瀉下薬の瀉下させる対象は、便だけではありません

  • 大便を通過させて、宿食や燥屎をキレイに出すこと
  • 実熱(熱邪)のうっ滞を瀉下させて、胃腸内の熱を冷ますこと
  • 水の停滞、水腫などを排出して除去すること

瀉下はこれらを含んだ概念です。総合的な作用として用いることもあります。

ということで、

「下剤」と言うときと、「瀉下剤」と言うときでは、ニュアンスが異なってきます。

もし腸内に熱邪があって→それによって津液しんえきが消耗して→便が乾燥して硬くなって→便秘になっている場合、

下剤を使うときは「腸を刺激して蠕動運動を促進し排便させる作用である」と説明するのに対して、

瀉下薬のときは「(腸内を潤しながら)熱邪を大便と一緒に排泄させる作用」という意味合いになります。

瀉下薬の分類

瀉下薬は、3つに分類されます。

  1. 攻下薬(こうげやく)
  2. 潤下薬(じゅんげやく)
  3. 峻下逐水薬(しゅんげちくすいやく)

瀉下作用の強さで並べると…

  • 潤下薬⇒それほど強くない
  • 攻下薬⇒強い
  • 峻下逐水薬⇒猛烈に強い

潤下薬は、腸を潤すはたらきがあり、潤滑油的な作用で、便をスムーズに排泄させます。主に虚証きょしょうの方の便秘に用います(麻子仁など)。⇒潤下薬の生薬解説へ

攻下薬は、実邪を排泄させる力が強いので、いわゆる便秘のときに使う漢方薬にはよく配合されています(大黄など)。⇒攻下薬の生薬解説へ

峻下逐水薬は、あまりにも瀉下作用が強いので、普段使われることはほとんどないです(甘遂など)。⇒峻下逐水薬の生薬解説へ

瀉下薬を使用する際の注意点

瀉下によって、の実だけをうまく排泄できればいいのですが、作用が強すぎれば下痢を引き起こします。

そうしたら、本来は体に必要なもの(正気せいき)まで失ってしまいます。

ですので、注意しなければいけないのは、

まず、
①攻下薬か潤下薬かの選択

②用量の調整

そして
③一緒に使用する生薬の内容です。

便秘してるならとりあえず下剤、というわけにはいきません。

裏証りしょう表証ひょうしょうがある場合は、まず表証を治してから裏証を治せば良いのか、もしくは表証と裏証を同時に治すべきなのか。

虚証きょしょうの部分がある場合は、瀉したあとに補えば良いのか、補ってから瀉すのか、もしくは補いながら瀉するのか。

からだ全体の他の症状も見きわめて、適切な配合の瀉下剤を使用しなければいけません。

(ちなみ、表証(風邪ふうじゃ)と裏証(裏熱りねつ)を同時に治す薬として有名なのが、防風通聖散です。瀉下薬として攻下薬大黄芒硝が配合されています。)

 

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