【潤下薬】~麻子仁・郁李仁・蜂蜜~

潤下薬

3-(2)  潤下薬(じゅんげやく)

潤下薬は、潤腸通便じゅんちょうつうべんの効能をもつ生薬です。

潤腸通便は、同じ意味で潤燥滑腸じゅんそうかっちょうともいいます。

大便が硬く乾燥している便秘に用いられます。

津枯しんこ津液しんえきが足りない)・陰虚いんきょ血虚けっきょなどによって、腸を潤すものが不足している状態なので、

具体的には高齢の人、体が弱い人、長期療養のあとの人、産後などでみられやすく、

排便力が弱くて、便が出ていない日が3日とか場合によっては1週間とか、慢性的になっている便秘です。

乾燥した腸を潤して、大便を軟化させて、便通を促進させる、

その潤滑油的なはたらきをするのが、植物の種子や実に含まれる油脂です。

食品でも例えばオリーブオイルが便秘の解消に良いと言われるように、
漢方薬に使われる潤腸通便の効能を持った生薬の多くは、植物の種子や実を利用しています。

生薬の名前おいては、「~にん」とか「~」というものです。

潤下薬以外に分類されている生薬でも、種子を用いて脂肪油が含まれている生薬(桃仁杏仁酸棗仁決明子など)は同様に潤腸通便の効能もあります。

逆に、下痢、または下痢しやすい人は注意が必要です。

麻子仁(ましにん)

鉄鉢に入れた殻付きの麻子仁

クワ科(APG分類ではアサ科)アサの果実です。

痩果(そうか)という果実で、種子が乾いた硬い果皮(殻)に包まれています。

本来はその硬い皮をキレイにむいて中(にんの部分)だけを使用するべきなのでしょうが、実際はなかなか手間がかかって大変なので、漢方薬局では鉄鉢などで殻ごと砕いたものをよく使用します。

砕いた麻子仁
今はミルを使うことが多いと思いますが

ミルで砕いた麻子仁

【性味】甘 平
【帰経】肺 大腸
【効能】潤腸通便
  • 薬膳では火麻仁(かまにん)、スパイスとしては麻の実(おのみ)とも言います。
  • 麻子仁には油脂が豊富に含まれています。胃熱により腸が乾燥している習慣性便秘に、大黄杏仁などと一緒に用います。⇒麻子仁丸
  • また麻子仁は栄養豊富で滋養補虚の作用を兼ねることができるため、血虚や津枯による腸燥便秘に、地黄当帰と一緒に配合して用いることもあります。⇒潤腸湯

麻子仁はアサの実であり、麻の実(おのみ)と言えば、小さいものが七味唐辛子の中に入っていたり(食べたときにガリッとするやつ)、鳥の餌として販売されていたり、皮を去ったものを健康に良い雑穀「ヘンプシード」がスーパーフードとして食べられていたりします。麻の実の油がヘンプシードオイルです。

一方、アサの葉や花の方は大麻(マリファナ)などと呼ばれます。
果実(種子)と茎(繊維を布や紐に利用)以外は、大麻取締法で所持が厳しく規制されています。

生薬の麻子仁や食品用の麻の実などは、発芽防止処理が施されているので、それを入手して無許可で大麻を育てようなどということは、してはいけませんし、できません。

郁李仁(いくりにん)

ニワウメの実

バラ科ニワウメ、コニワザクラなどの成熟種子です。

「郁(→香りがいい)」「李(→スモモ属の果樹の)」「仁(→種子)」という意味です。

【性味】辛 苦 平
【帰経】大腸 小腸
【効能】潤腸通便 利水消腫

麻子仁よりも油分を多く含み、潤腸による通便作用は、麻子仁よりも強い生薬です。麻子仁と併用することも可能ですが、虚証の便秘には注意が必要です。

また水を引き込んで通じさせる効果があることから、水腫(むくみ)に応用されることがあるかもしれません。
日本で販売される漢方エキス剤には使用されていません。

他のバラ科の植物と同様で、未熟な果実や種子には体内で毒になる成分が含まれているおそれがあります。熟したニワウメでジャムなどを作るのは問題ないですが、便秘に良いからと種を生のまま噛み砕いてたくさん食べたりするのは危険です。

蜂蜜(ほうみつ)

ハチミツ

ミツバチが巣にせっせと集めた花の蜜

【性味】甘 平
【帰経】肺 脾 大腸
【効能】潤腸通便 潤肺止咳 補中
  • 蜂蜜(中薬ではハチミツではなく「ほうみつ」と読む)も生薬として分類すれば潤下薬に入り、腸燥便秘に適します。
  • 肺燥の乾咳にも良いでしょう。喉を潤して咳の症状を軽くします。
  • 方剤を練って丸剤にするときに使用する蜂蜜は、補脾の効果があり、補気薬に含めることもあります。
  • 1歳未満には禁忌です。

 

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