【大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)】の解説

大黄牡丹皮湯

昔は虫垂炎の薬。では今は?

昔、手術や抗生剤がない時代、虫垂炎(いわゆる盲腸)などは大黄牡丹皮湯で治していたという話が有名ですが、

近年は基本的にまず抗生物質が用いられますので、大黄牡丹皮湯の虫垂炎での出番は減っているかもしれません。

分類としては、桂枝茯苓丸桃核承気湯と並ぶ、駆瘀血剤の代表的な漢方薬です。「大黄牡丹湯」とも言います。

効能・適応症状

大黄牡丹皮湯が使用される症状には以下のようなものがあります。

  • (便秘をともなう)月経痛、月経不順、月経困難、更年期障害
  • 便秘、常習便秘、痔
  • 虫垂炎、大腸憩室炎、その他腸や肛門の炎症性疾患、または泌尿器系の炎症、前立腺肥大
  • 湿疹、蕁麻疹、にきび、アトピー性皮膚炎
  • 感染性下痢(腸熱)

添付文書上での効能効果

ツムラ・テイコク(医療用)

比較的体力があり、下腹部痛があって、便秘しがちなものの次の諸症:
月経不順、月経困難、便秘、痔疾

コタロー(医療用)

盲腸部に圧痛や宿便があり、大便は硬く、皮膚は紫赤色あるいは暗赤色を呈し、鬱血または出血の傾向があるもの。
常習便秘、動脈硬化、月経不順による諸種の障害、更年期障害、湿疹、蕁麻疹、にきび、腫物、膀胱カタル

薬局製剤

体力中等度以上で、下腹部痛があって、便秘しがちなものの次の諸症:
月経不順、月経困難、月経痛、便秘、痔疾

構成生薬の特徴

大黄牡丹皮には5種類の生薬が配合されます。

  • 大黄(ダイオウ)
  • 牡丹皮(ボタンピ)
  • 桃仁(トウニン)
  • 芒硝(ボウショウ)または硫酸ナトリウム
  • 冬瓜子(トウガシ)

冬瓜子(トウガシ)

冬瓜

大黄牡丹皮湯の配合の中で特徴的なのが、冬瓜子です。

冬瓜子が配合される漢方薬は数少なく、保険適応の漢方薬では、大黄牡丹皮湯と腸癰湯(ちょうようとう)くらいにしか使われていません。

が、大黄牡丹皮湯において、最も配合量が多い生薬は、大黄でも牡丹皮でもなく、実は冬瓜子です。

割合的には全体の1/3が冬瓜子なので、大黄牡丹皮湯の中の最も重要な生薬です。

冬瓜子とは、ウリ科の冬瓜(とうがん)の種子のことです。冬瓜仁(トウガニン)とも言います。

清熱化痰・排膿の効能があるので、化膿性疾患に用いることができます。

なお、一般的に(煮物とか漬物とかにして)食するのは瓜の実の部分です。カリウムが多く含まれていて利尿作用があるから浮腫(むくみ)に良い、食物繊維が豊富だから便秘に良い、しかもカロリーが少ないからダイエットにも良い、そんなヘルシーなイメージの食材です。

冬瓜の名前の由来に関しては、貯蔵性に優れて冬でも食べることができるから、と言われているようですが、ここで大事になることは「冬の瓜」と書くけれども、本当の旬は「夏」だということです。
ウリ科のものでは、西瓜(スイカ)や胡瓜(きゅうり)、苦瓜(ゴーヤ)と同じく夏の野菜。ということで、夏野菜の特徴である「体を冷やす作用」に気を付ける必要があります。冷え症の人は摂りすぎないようにしてください。

冬瓜子の性質も、寒性です。

桂枝茯苓丸、桃核承気湯との使い分け

桂枝茯苓丸桃核承気湯・大黄牡丹皮湯。

構成生薬が非常によく似ている駆瘀血剤の3つの違いを整理しておきます。

 牡丹皮桃仁大黄芒硝桂枝茯苓芍薬甘草冬瓜子
桂枝茯苓丸    
桃核承気湯    
大黄牡丹湯    

いずれも駆瘀血作用のある生薬が主に使われていますが、まず、

  • 下痢をしてしまう場合には、大黄・芒硝が入っていない「桂枝茯苓丸」が適している
  • 逆に、便秘傾向が強い場合は、大黄・芒硝が入っている「桃核承気湯」や「大黄牡丹皮」の方が適している
  • 他の漢方薬と併用するときに甘草の重複が問題になるのは「桃核承気湯」だけ

そして、

大黄牡丹皮湯が、桂枝茯苓丸や桃核承気湯と異なる点はというと

要するに、桂枝茯苓丸と桃核承気湯には含まれていて、大黄牡丹皮湯には含まれていない生薬を探してみると、それは「桂枝」(または桂皮)ということになりますので、

いずれも瘀血による月経痛に用いることはできても、
気を巡らせる桂枝が含まれていない大黄牡丹皮湯に関しては、月経不順に伴うイライラなど精神神経症状に対する作用が弱くなってしまいます。

しかしながら、大黄牡丹皮には、牡丹皮に冬瓜子がたくさん配合されているので、清熱・消炎・排膿の効果には優れています

副作用・注意点

体力の低下している人、虚弱な人、下痢しやすい人、冷えの強い人には使えません。

服用中に下痢をした場合は中止してください。

妊婦さんは使用を避けてください。

今も急性期病院では、虫垂炎の初期のときに大黄牡丹皮湯が使われることはあるかと思います。
ただし化膿している場合は、現代では通常、抗生物質が優先されます。
大黄牡丹皮湯を使うときでも原則として抗生物質は併用されます。

虫垂炎の症状はひどくなれば手術(腹腔鏡または開腹)が必要になります。
急性虫垂炎を疑うときは、お腹が痛いのをガマンしながらとりあえず大黄牡丹皮湯を服用して様子をみよう、とは絶対に考えずに、すぐに病院を受診してください。

出典

『金匱要略』(3世紀)です。

当然ながら金匱要略には「効能効果:虫垂炎」みたいに書いているわけではありません。

「腸癰の者は少腹腫痞し、之を按ずれば即ち痛み、淋の如しくも、小便自ら調い、時時発熱し、自汗出でて、復た悪寒す。其の脉遅緊なる者、膿未だ成さず、之を下すべし、当に血有るべし。脉洪数なる者、膿已に成す、下すべからざる也。大黄牡丹皮湯之を主る」

と書いているので、これをざっくりと訳してみると、

「腸に炎症があれば、下腹部が詰まった感じに腫れて、これを押さえると痛みます。泌尿器系の病気も疑わしく思う痛みだけど、尿の出は正常です。ときに発熱と汗がみられるけど繰り返し悪寒するので、カゼによる発熱でもないようです。
このような症状を大黄牡丹皮湯で治療できます。
ただし、症状の初期で膿瘍が形成されていないときは大黄牡丹皮湯で下していいけれど、すでに膿瘍が形成されているときに用いると、下痢や下血のおそれがあるから注意して」

という感じでしょうか。

そして、この大黄牡丹皮湯が之をつかさどるとある症状を、今で言う「虫垂炎」と考えるのが一番妥当だろうということです。

腸癰と腸癰湯(ちょうようとう)について

『金匱要略』にある腸癰(ちょうよう)とは、腸の炎症や、腸にできた膿のことです。

大黄牡丹皮湯と同じように、腸癰に用いられる漢方薬が他にもありまして、その名もずばり「腸癰湯」(ちょうようとう)です。大黄牡丹皮湯と同じく冬瓜子が配合された漢方薬。

腸癰湯(ちょうようとう)についてはこちら

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