【止咳平喘薬】~杏仁・白前・前胡・百部・紫苑・款冬花・蘇子・馬兜鈴・桑白皮・葶藶子・枇杷葉・旋覆花・白果・洋金花~

止咳平喘薬

13-(3) 止咳平喘薬(しがいへんぜんやく)

杏仁(きょうにん)

漢方薬で使用する杏仁(キョウニン)の刻み

バラ科ホンアンズなどの成熟種子(仁)
※アンズの果肉の内側にある種子のように見える木質化した硬い殻(内果皮)を割ってその中にあるのが「仁」と呼ばれる種子
※中薬では苦味のあるものを苦杏仁(くきょうにん)、苦味がなく甘みのあるものを甜杏仁(てんきょうにん)として区別されますが、通常漢方薬で使用される杏仁は苦杏仁のことです。

【性味】苦 微温 小毒
【帰経】肺 大腸
【効能】止咳平喘 潤腸通便

①止咳平喘
苦味は気を降ろす効果を示し、肺に帰経して咳嗽を鎮めます。
各種の咳や喘(呼吸困難)に応用されます。例えば、
風寒の咳嗽には、麻黄蘇葉厚朴などと配合して(杏蘇散、三拗湯、麻黄湯桂枝加厚朴杏仁湯神秘湯
風熱の咳嗽には、桑葉菊花などと配合して(桑菊飲)
肺熱の咳嗽には、石膏桑白皮などと配合して(麻杏甘石湯五虎湯清肺湯
肺燥の咳嗽には、沙参貝母などと配合して(桑杏湯)使用されます。
②潤腸通便
油分によって腸を潤滑にする効果があるので、高齢や産後、病後、または血虚による腸燥便秘に、麻子仁当帰などと配合して用いられます。
例⇒麻子仁丸潤腸湯
注意
苦杏仁には青酸配糖体(アミグダリン)が含まれるので、一度に多量に用いるのはシアン中毒を起こすおそれがあります。
西洋薬の(やはり鎮咳去痰剤として分類される)キョウニン水も同様です。

桃仁と杏仁の違いと共通点について

白前(びゃくぜん)

ガガイモ科(APG分類ではキョウチクトウ科)イケマ属Cynanchum stauntonii (Decne.) Schltr. ex Levl.などの地下部(根および根茎)

【性味】辛 甘 平(or微温)
【帰経】肺
【効能】袪痰 降気止咳

肺気を降ろして、痰涎を消散し、咳嗽を止めるとされています。
寒熱を問わず、肺気壅滞の咳嗽、呼吸困難、多痰に用いることができます。
寒に偏るもの(風寒の咳嗽など)には、紫苑荊芥半夏などと配合され(止咳散)
熱に偏るもの(肺熱の咳嗽など)には、桑白皮地骨皮などと配合されます(白前湯)。
また、全身の浮腫を伴う咳喘証に沢漆などと一緒に用いられます(沢漆湯)。

前胡(ぜんこ)

前胡(ゼンコ)

セリ科ノダケなどの根

【性味】苦 辛 微寒(涼)
【帰経】肺
【効能】降気消痰 宣散風熱

白前と前胡は合わせて「二前」と呼ばれ、同様に降気消痰にはたらきます。
降気作用に優れていて、こちらは涼性であるのが特徴です。
よって、肺熱の(黄色い痰、胸苦しいなどを伴う)咳嗽、または風熱表証の(多痰、咽痛などを伴う)咳嗽に適しています。

百部(びゃくぶ)

ビャクブ科ツルビャクブ、タチビャクブ、タマビャクブなどの塊茎(肥大根)

【性味】甘 苦 平
【帰経】肺
【効能】潤肺止咳 滅虱殺虫

咳嗽を止めると同時に、肺を潤す効能があります。
急性あるいは慢性の激しい咳に(寒熱を問わず)応用されます。
かつては百日咳や、肺癆咳嗽(肺結核)にも使われていたようです。
また(現代ではもう使わないと思いますが)煎じ液を外用して、虱(シラミ)の退治に使われていた薬でもあります。

紫苑(しおん)

キク科シオンの根茎

【性味】苦 甘 微温
【帰経】肺
【効能】化痰止咳

温性ですが燥はさせず、痰を除去し咳嗽を鎮める効果があります。
日本の方剤では薬局製剤にある杏蘇散(ときに顔面の浮腫を呈するもので、喘息性の咳や痰、気管支炎に使われる)に配合されています。

款冬花(かんとうか)

キク科フキタンポポの蕾

【性味】辛 温
【帰経】肺
【効能】潤肺下気 止咳化痰

潤肺止咳化痰の良薬とされ、咳嗽を治す要薬にあげられます。
温性に属するので寒痰による咳嗽に特に適していて、紫苑ともよく併用されます。
紫苑麻黄細辛、射干などと配合して、例⇒射干麻黄湯
(射干麻黄湯は、新型コロナウイルス感染症に中国で使用されたことで知られる「清肺排毒湯」を構成する方剤の一つとしても応用されました。)

蘇子(そし)

シソ科チリメンジソの成熟果実(分果)※種子を含む
紫蘇子(しそし)とも呼ばれます。

【性味】辛 温
【帰経】肺 大腸
【効能】止咳平喘 潤腸通便

①止咳平喘
シソは香気があるので、蘇葉・蘇梗・蘇子いずれも気を調える効能をもちますが、そのなかで蘇子は降気化痰に優れます。
性が辛温のため、寒痰(寒飲)の咳嗽や喘(呼吸困難)を治めます。
陳皮半夏厚朴前胡など上逆の気を降ろし痰を除く同様の効能のある生薬とも一緒に配合されます。⇒蘇子降気湯
②潤腸通便
種子に含まれる油分は腸を潤し、また気を降ろして大便を通じさせますので、杏仁のように腸燥便秘に用いることもできます。
関連生薬
蘇葉(そよう):シソの葉
蘇梗(そこう):シソの茎枝

馬兜鈴(ばとうれい)

ウマノスズクサ科マルバウマノスズクサまたはウマノスズクサ(馬の鈴草)の成熟果実

【性味】苦 微辛 寒
【帰経】肺 大腸
【効能】清肺化痰 止咳平喘

ウマノスズクサ科特有のアリスロキア酸などが含まれ、毒性に注意が必要な植物のため、今は薬用として使うのは一般的ではないと思われますが…。
寒性ですので、熱痰の咳嗽や喘(呼吸困難)を治める効能があります。
また大腸の(肺と大腸は表裏の関係にある)熱邪も清するということで、痔の出血、肛門周囲の腫れや痛みに応用されます。

桑白皮(そうはくひ)

桑白皮(ソウハクヒ)

クワ科マグワ(カラグワ・トウグワ)の(コルク層を除去した)根皮

【性味】甘 寒
【帰経】肺
【効能】瀉肺平喘 利尿消腫

甘寒によって肺熱を清し平喘の効能に優れています。
慢性の炎症で痰が多く出て激しい咳が続くものに黄芩甘草などと配合されます。⇒清肺湯
熱証が強い咳嗽に対して、麻杏甘石湯に桑白皮を加えると、(甘草石膏の)肺の炎症を鎮める効果を高めるだけでなく、利水して(水分代謝を促し)気管支粘膜の浮腫を除き気道の通りをよくし、(麻黄杏仁の)止咳の効果を相乗的に高めます。⇒五虎湯

葶藶子(ていれきし)

アブラナ科ヒメグンバイナズナ、クジラグサ、イヌナズナなどの成熟種子

【性味】苦 辛 大寒
【帰経】肺 膀胱
【効能】瀉肺平喘 行水消腫

肺の邪気(水熱)を瀉す、瀉肺の力が強い薬です。
心不全による、胸水や腹水、呼吸困難、起坐呼吸(横になって眠れない)などに応用されます。
『傷寒論』では太陽病治療の誤治による結胸証に対して、杏仁大黄芒硝などと一緒に使用されています(大陥胸丸)。

枇杷葉(びわよう)

枇杷葉(ビワヨウ)

バラ科ビワの(葉裏の毛茸を除いた)葉

【性味】苦 微寒
【帰経】肺 胃
【効能】化痰止咳 和胃降逆

苦味と涼性で気を下降させます。
肺と胃の両方に帰経しますので、
肺気の上逆(肺の気逆)による咳嗽、多痰、
胃気の上逆(胃の気逆)による嘔吐、吃逆(しゃっくり)、噯気(げっぷ)
どちらにも適用されます。
肺熱を清して炎症を抑えることから、熱感を伴う鼻の症状に、石膏知母などの清熱薬と一緒に用いることもあります。⇒辛夷清肺湯
胃熱による口渇や悪心にも適し、民間療法では昔から暑気あたり、夏バテにも用いられています(ビワの葉茶)。

旋覆花(せんぷくか)

キク科オグルマまたはその変種などの頭状花序(多数の小さな花が集まって一つの花に見えているもの)

【性味】苦 辛 鹹 微温
【帰経】肺 脾 胃 大腸
【効能】消痰行水 降気止嘔

上の枇杷葉と同じように、止咳と止嘔の作用をもちます。
水の代謝を改善することで痰をなくし、気を降ろします。
(枇杷葉の微寒に対して)微温性であるので、寒痰の咳や喘、または脾胃虚寒による嘔吐、噯気(げっぷ)に用いることができます(旋覆花代赭石湯)。

白果(はっか・はくか・びゃっか)

イチョウ科イチョウの成熟種子
白果肉、白果仁などとも呼ばれますが、いわゆる銀杏(ぎんなん・ぎんきょう)です。
収渋薬(しゅうじゅうやく)に分類することもあります。

【性味】甘 苦 渋 平 ※小毒あり
【帰経】肺
【効能】斂肺平喘 収渋止帯

渋という味が含まれ収斂性の性質のある止咳薬です。
黄芩桑白皮杏仁などと配合して、肺熱の咳嗽、多痰などに用いることができます。
一方、外感の咳嗽(感冒)のときは、邪を留めないように麻黄のような解表薬との併用が必要です。
また収渋の効能で止帯(おりものを止める)に用いられます。
ただし、多量に使用するとギンナン中毒(嘔吐、けいれん等)を起こすおそれがありますので注意が必要です。

洋金花(ようきんか)

ナス科チョウセンアサガオDatura metel L.の花
曼陀羅華(マンダラゲ)ともいいます。

【性味】辛 温 ※毒あり
【帰経】心 肺 脾
【効能】止咳平喘 鎮痙 止痛

成分のヒヨスチアミンやスコポラミンなどは抗コリン活性があります。
抗コリン薬は、吸入すれば気管支を拡張させますので、気管支喘息の治療に用いられます。
また抗コリン薬は、鎮痙作用もあります。
三国志に登場する(曹操の)医師「華佗(かだ)」や、江戸時代の医師「華岡青洲」が、外科手術を行う際の麻酔薬の成分の一つに、曼荼羅華が使われていたとされます。
つまり、止痛の効能があるのは麻酔作用があるためです。
いずれにしても、使い方を間違えれば西洋薬以上に副作用の心配がありますので、参考程度に留めておいてください。

 

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