15-(1) 平肝潜陽薬(へいかんせんようやく)
石決明(せっけつめい)
ミミガイ科アワビ類またはトコブシ類の貝殻
【帰経】肝
【効能】平肝潜陽 清肝明目
①平肝潜陽
肝陽上亢による(肝腎陰虚によって肝の陽気が上昇して起こる)、眩暈(めまい)に用いられます。
このときはよく(根本にある陰虚の)陰を養うために生地黄や白芍を配合して使用されます。
肝陽亢盛で熱証を兼ねるときは、夏枯草や菊花、釣藤鈎などと併用されます。
②清肝明目
決明子や菊花、桑葉などのように、目のトラブルを解消する要薬の一つです。
肝熱を清するので、肝火上炎による目の充血、腫痛などに適します。
また熟地黄などと併用して肝血不足による目のかすみ、視力減退などに応用されることもあります。
ちなみに、アワビの身肉にも(カルシウム、アルギニン、タウリンなどが豊富に含まれるので)肝の機能を高め視力を改善するといった、貝殻と同じ効能があるとされています。
注意
脾胃虚弱、脾胃虚寒の場合は慎重に用いる必要があります。
煎じるときは、先煎(他の生薬よりも先に煎じること)が必要です。
牡蛎(ぼれい)
イタボガキ科カキ類の貝殻
(主成分:炭酸カルシウム、リン酸カルシウムなど)
【帰経】肝 胆 腎
【効能】潜陽補陰 軟堅散結 収斂固渋 (制酸)
①潜陽補陰
平肝潜陽の作用と、養陰の効果を兼ねることができるのが牡蛎の特徴です。
肝陰虚・肝陽上亢による、頭のふらつき、頭痛、耳鳴りなどに用いられます。
またよく竜骨、酸棗仁、遠志などの安神薬と併用されて、心神不寧(不眠、多夢、不安、動悸、煩躁、驚きやすい、ビクビクする)などに使用されます。
⇒柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯
②軟堅散結
鹹味は、堅く結しているものを軟らかくして散ずる効果があるとされ、リンパ節腫(瘰癧)、しこり、肝腫大などに(丹参や玄参などと)応用されることがあります。
③収斂固渋
ほかの生薬と併用して、自汗、盗汗(寝汗)、遺精、帯下(おりもの)、崩漏(不正出血)などにも応用されます。⇒柴胡桂枝乾姜湯
煅用(焼いて使用)した方が収斂の性質が増すとされています。
④制酸
また制酸(胃酸の中和)にはたらきますので、胃酸過多による胃痛、胃炎、呑酸などに適します。⇒安中散
注意
湯剤としては先煎(他の生薬よりも先に煎じること)が必要です。
炭酸カルシウムなどは水道水にはほとんど溶けませんので、制酸作用に関しては(エキス剤のものより)散剤のものを使用した方が良いかもしれません。
ちなみに、カキの身肉の(性は甘味・温性であり)薬膳的効果は、殻とは全く異なります。
代赭石(たいしゃせき)
酸化第二鉄(Fe2O3)を含む天然の赤鉄鉱の鉱石
【帰経】肝 心包
【効能】平肝清熱 重鎮降逆 涼血止血
平肝清熱:肝陽を抑え肝火を清する効能によって、竜骨、牡蛎、白芍などと併用し、肝陽上亢の頭痛、めまい、耳鳴りなどに用いることができます。
重鎮降逆:逆気を降ろすことで、胃気上逆の嘔吐、曖気(げっぷ)、吃逆(しゃっくり)に旋覆花や半夏などと併用して使用されます(⇒旋覆花代赭石湯)。肺腎両虚の気逆による呼吸困難にも応用されます。
涼血止血:血熱による出血(吐血、鼻血、崩漏)に使用されます。
蒺藜子(しつりし)
ハマビシ科ハマビシの未成熟果実
別名:白蒺藜(びゃくしつり)
【帰経】肝
【効能】平肝疏肝 袪風明目
- 肝陽上亢による頭痛やめまいに用いられます。
- 特に他の平肝薬との違いとして、疏肝作用を兼ねているのが特徴で、肝気うっ結による胸脇苦満や乳汁不通などの症状に、柴胡や香附子、青皮などと併用することができます。
- 袪風のはたらきによって、風熱の皮疹で痒みの強いものに、荊芥や蝉退などと一緒に配合されます。⇒当帰飲子
- 菊花や決明子、蔓荊子などと配合して、風熱による目の充血、涙が流れるといった症状に(花粉症によるものにも)応用されます。⇒洗肝明目湯
皮膚症状に用いる場合、体表からの刺激による痒みに使うのが防風・荊芥だとすれば、 こちらは肝血の不足により内からの発生する湿疹・痒みに対する薬という感じです。
日本でも海岸の砂地に広く自生していた植物ですが、海岸の環境の変化により現在は絶滅危惧種に指定されています。
羅布麻(らふま)
キョウチクトウ科羅布麻の葉および全草
【帰経】肝
【効能】平肝 清熱 利尿
臨床でよりも、民間でお茶として利用されることが一般的です。
平肝の効能に、清熱の作用も兼ねるので、肝熱によって起こってくる頭痛、めまい、不眠、怒り易いなどの症状(特に高血圧傾向)があるものに用いられます。
決明子(けつめいし)
マメ科エビスグサの成熟種子
※清熱薬に分類されることもあります
【帰経】肝 大腸
【効能】清肝明目 潤腸通便
夏枯草と効能が類似しています。
虚実(肝熱、あるいは肝経の風熱、もしくは肝腎陰虚や肝血虚)ともに、目の疾患(充血、腫れ、痛み、涙目)に使用されます。
単味でも用いられますし、肝熱(肝火上炎)のときは夏枯草や山梔子などと、風熱には菊花や桑葉などと用いられます。⇒洗肝明目湯
また潤腸通便の作用があるので腸燥便秘や常習性の便秘に利用されたり、高血圧や動脈硬化の予防効果を期待して利用されています。
漢方薬として用いるほか、種子を炒ったものを健康茶(ハブ茶など)としても販売されていますが、脾虚で下痢傾向の人の使用は注意が必要です。
珍珠(ちんじゅ)
海水産または淡水産の二枚貝の外套膜組織中に形成されたもの。いわゆる天然の真珠。
【帰経】心 肝
【効能】鎮心定驚 清肝明目(除翳) 収斂生肌
宝石としての価値の低いもの(それでも高価ですが)を粉末にして使用されます。
真珠の鎮静作用は例えば「救心」に利用されています。
収斂生肌(傷の修復や皮膚の再生を促進する)作用については、現在は生薬としての利用よりも、高貴な美容系のサプリメントに利用されていることが多いです。
珍珠母(ちんじゅも)
珍珠ができる母貝の内側のキラキラで美しい色をした真珠層の部分
【帰経】肝 心
【効能】平肝潜陽 清肝明目
石決明と効能が類似していますが、作用は劣ります。
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