十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)の解説
十味敗毒湯は、
十味、つまり10種類の生薬からなり、毒を敗退させる効果があるという意味の漢方薬です。
この場合の「毒」は「ポイズン」のことではありません。
漢方では色々なときに毒と表現することがありまして、 ここでは簡単に、皮膚にできる「できもの」「はれもの」のこと、としておきます。
主に皮膚科領域で使われる漢方薬。
日本生まれの漢方薬の一つでもあります。
出典
華岡青洲の『瘍科方筌』(または浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』)とされます。
荊防敗毒散をもとに、華岡青洲が「十味敗毒散」(散剤)を考案、
それを少し改良して「十味敗毒湯」(湯剤)としたのが浅田宗伯ということです。
華岡青洲は、江戸時代に乳がんの手術を世界で初めて全身麻酔下でおこなって成功させた外科医として有名ですが、
もちろん皮膚の「できもの」「腫れもの」の治療もたくさんおこなっていたと思われます。
たとえば火傷や裂傷に用いる外用薬「紫雲膏」も華岡青洲の考案です。
効能・適応症状
十味敗毒湯が使われる症状をまとめると以下のようなものがあります。
- じんましん、湿疹、 皮膚炎(アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、貨幣状湿疹)
- 水虫、尋常性ざ瘡(ニキビ)、腫れ物、化膿性皮膚疾患、とびひ
- 乳腺炎、乳房炎、フルンクロージス(癤腫症)
皮膚の疾患以外に使われることはほとんどありません。
添付文書上の効能効果
医療用エキス製剤↓
【ツムラ・クラシエ他】化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹、水虫
【コタロー】腫物、湿疹、ジンマ疹、にきび、フルンクロージスの体質改善
【三和】比較的神経質で胸脇苦満があり癤、アレルギー性の湿疹などを起しやすい体質のものの次の諸症:皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、乳房炎、フルンクロージスの体質改善、腫物、尋常性痤瘡、とびひ
薬局製剤↓
体力中等度なものの皮膚疾患で、発赤があり、ときに化膿するものの次の諸症:
化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、湿疹・皮膚炎、水虫
構成生薬とその特徴
※桜皮⇒華岡青洲、樸樕⇒浅田宗伯
桜皮はサクラの樹皮、樸樕はクヌギの樹皮、
どちらも日本の生薬であり、中国の方剤の中にはみられません。
樸樕は「治打撲一方」にも使われます。土骨皮(ドコッピ)と言われることもあります。
各生薬のはたらき
各生薬の大まかなはたらきをまとめますと、
①荊芥②防風は、消風散・清上防風湯・荊芥連翹湯・防風通聖散・治頭瘡一方など皮膚疾患の適応がある漢方薬にはおなじみの定番コンビ。辛温性の解表薬。
体表の風邪による湿疹・かゆみを発散させます。
③生姜の発汗作用もそれを後押しします。
発散しきれない熱が体表にこもってしまうので④柴胡の辛涼性の解表薬も加わります。
⑤独活は湿を温めて乾かし、かゆみを抑えます
⑥茯苓は利水(利湿)により体表部の滲出液を抑えます。
⑦桔梗⑧甘草のペアはいわゆる「桔梗湯」ですので消炎・排膿です。
また⑨川芎と⑩桜皮(樸樕)は体表の気血の流れを良くすることで熱がこもらないようにし、消炎効果を補います。(桜皮は排膿作用が主、樸樕は鎮痛作用が主)
十味敗毒湯の特徴
十味敗毒湯には、排膿や止痒の効果があります。
ニキビなどの化膿性皮膚疾患や、かゆみをともなう蕁麻疹や水虫などの皮膚疾患に、よく用いられます。
脂漏性湿疹に対しては漢方薬では十味敗毒湯がファーストチョイスです。
逆に、黄連や黄芩、連翹のような清熱薬(炎症の熱を冷やす薬)は配合されていません。
つまり十味敗毒湯は、熱証向きではなく、皮膚につよい赤みや熱感のある症状には(単独では)適しません。
ですので、化膿性疾患、ニキビなどに用いる場合も、赤みはそれほどひどくない、比較的初期の段階で用いられています。
化膿性の疾患でなくても、消炎・止痒の効果を期待して、アトピー性皮膚炎や蕁麻疹に使われることも多いです。
この場合も同じように十味敗毒湯は温性薬が中心ということで、夏の時期よりもどちらかというと冬に増悪するタイプに使われる傾向があります。
(夏に増悪して分泌物の多い場合は、消風散がよく使われます。十味敗毒湯と消風散が併用されることもあります)
また、気血を補ったり、胃腸のはたらきを高めたり、体力をつけたりすることを意図した配合はみられません。
虚の部分を補って内側から体質を改善しようとする方剤(補剤)ではなく、やはり作用は体表(皮膚)の改善がメインです。
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