アトピー性皮膚炎の漢方治療の特徴と注意点について

アトピー性皮膚炎について

アトピー性皮膚炎は慢性の皮膚炎のひとつで、痒みのある湿疹が身体の広い範囲に出て、悪化と軽快を繰り返す疾患です。

本人や家族に気管支喘息やアレルギー性鼻炎などの素因があることが多く、遺伝的な原因も考えられています。

顔や腕などの人に見られる部位の湿疹は精神的ダメージも大きく、
さらには痒みによる集中力の低下、不眠などを伴い、活力や生きがいを奪ってしまう懸念もあります。

治療のための注意点や、治療に有効な漢方薬について紹介します。

アトピーの標準的治療

現代医学的には標準的治療法がありまして、主に下の3つが行われます。

①薬物治療

炎症が強い場合は、重症度に応じたステロイドの外用剤を使います。免疫抑制剤のタクロリムスが併用されることがあります。必要に応じて痒みを抑えるために抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬を内服します。

②スキンケア

入浴やシャワーで清潔を保つ、保湿剤で乾燥を防ぐ、皮膚を引っ掻かないように爪を短く切るなどです。

③症状を悪化させる要因があればその対策

具体的には、食べ物、汗、乾燥、物理的刺激(衣服、洗剤)、細菌、ダニ、ほこり、ペット、ストレスなど。複数が絡んでいることも多いです。

 

たとえ、ステロイドを控えて漢方薬で治療したいということであっても、スキンケアと、悪化因子への対策はとても重要です。

特に大人になってから社会的なストレスや疲労、睡眠不足などが原因で安定していた症状が再燃してしまうことがあるので注意が必要です。

薬を飲んでおけば自然と治るという疾患ではないので、治療にはご本人の努力も欠かせません。

アトピーに対するステロイド外用薬の使い方

ステロイドの塗り薬は、その作用の強さで5段階にランク分けされています。

皮膚科では、炎症の重症度、(部位によって吸収量に差があるので)炎症の部位、年齢を考慮して、
適当と考えられるランクのステロイドを、基材(軟膏かクリームか)、塗る回数、量を判断して処方されます。

そして1~2週間くらいして症状の軽快(悪化)があれば、ステロイドのランクを少しずつ下げたり(上げたり)などの調整がなされます。

市販薬でもステロイド剤の含有している塗り薬はありますが、強さのランクは低いものしかありません。

火を消すための手段に、バケツの水、消火器、消防車と段階があるとして、

火のついたタバコが落ちている程度のものであればわざわざ消防車を呼ぶ必要はありませんが、

もし家の外壁がメラメラと激しく燃えているときに、バケツの水だけで対応しようとしていると炎が広がりもっと大惨事になるかもしれません。

炎を抑えるには適切な手段を選ぶのが大切であり、
アトピーの場合はステロイドを塗っていても、ランクが弱いものであったり、塗る量が十分でなかったりすることが原因で、症状が悪化してしまうこともあります。

できれば炎症があるときは、皮膚科を受診され、症状を診て頂き、適切な塗り薬の処方と、塗り方の指導を受けるのが良いかと思います。

病院に行く時間が無いからといって、「前回はこれで良くなったから今回もこれで」とか、「あの人はこれがよく効いたらしいから自分もこれを」とかという薬の使い方は避けてください。

アトピーに対する漢方薬治療の特徴

適切な強さと量のステロイド外用薬を塗って、スキンケアをして、悪化因子への対策をしていれば、漢方薬を使わなくても症状を改善させることも多いです。

では、アトピーに対して漢方薬の役割は何かというと・・・

家の外壁の燃えている火を消すのがステロイドであれば、

漢方薬は、燃えた後の外壁の修復、燃えにくい外壁へと補強する大工のような役割です。

皮膚の自己治癒力を高めるということです。

ステロイドによる治療、スキンケア、悪化因子への対策の3つに、漢方薬を加えて、それらの効果を総合的に高めることを期待します。

ただし「ステロイドは対症療法なので、漢方薬で根本から治したい。」

とは言いましても、皮膚の炎症の症状がある場合はやはり

①に、皮膚の炎症を抑える、痒みを抑えることが優先であり

②に、皮膚の防御力を高めるための治療となります。

アトピーの方の皮膚は、角質に異常があると言われます。

角質は、皮膚の水分を保持したり、異物の侵入を防ぐバリアの働きをしたりしている部分です。

皮膚が乾燥してカサカサになることがありますし、また、刺激には敏感になり傷つきやすく、感染を起こしやすくなったりします。

漢方で言うと、

皮膚の潤いの低下は「血」の異常

皮膚のバリア機能の低下は「気」の異常です。

よって、アトピーに使う漢方薬というのは、

炎症を抑える生薬痒みを抑える生薬、の含まれている漢方薬、

それに、「血」を補う生薬「気」を補う生薬などが配合されたものを選んでいきます。

 

漢方的な体質として、水分や栄養が不足しているのは「陰虚いんきょ」体質と考えます。皮膚が乾燥して刺激に対してデリケートで、痒みが激しくなりやすい状態です。
また、皮膚(体表)を保護しているバリア機能にかかわる気を「衛気えき」といいます。アトピー性皮膚炎ではこの衛気が弱っていると考えます。

アトピーに用いられる漢方薬

例えば、

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
炎症を抑える生薬が入っています。熱感のある炎症を鎮める薬の基本となる漢方薬です。

温清飲(うんせいいん)
炎症を抑える生薬と、「血」を補う生薬が入っています。

当帰飲子(とうきいんし)
痒みを抑える生薬と、「血」を補う生薬が入っています。

黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)
「気」を補う生薬が入っています。

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
「血」を補う生薬と、「気」を補う生薬が入っています。

消風散(しょうふうさん)
炎症を抑える生薬と、痒みを抑える生薬と、「血」を補う生薬が入っています。

消風散にはさらに、水分の流れを調整して皮膚の分泌物を抑える作用があるので、浸出液が多くジュクジュクしている時によく使われています。

「皮膚は内臓の鏡」と言われることがあります。
皮膚の見た目の症状だけでなく、一般的な体質改善と同様に、体全体のバランスもみて漢方薬を選んだ方が効果があると思います。

最後にもう一度注意点を。

もし今現在ステロイドの外用薬を処方されていて、漢方薬に切り替えたいという場合でも、ステロイドを急に止めると症状がぶり返す(リバウンドする)ことがあります。

漢方薬はステロイドの代わりとなるものではありませんので、ステロイドの減量や中止は、処方医の指示で行って下さい。

ストレス、不安、食生活の乱れ、多忙、不規則な生活などによっても症状が悪化しやすいです。漢方薬の服用ととともに、生活を見直し改善することも必要かもしれません。

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