~打撲や捻挫に効く漢方薬の効果とは~
治打撲一方は、日本で作られた漢方薬。
「打撲を治す処方」という名前のとおり、打撲や捻挫による腫れや痛みに使用されます。
生薬の構成の特徴と、どのような痛みに用いることができるかを解説します。
なお、名前の最初の「治」には、「じ」ではなく「ぢ」とフリガナをつけるのが正しいので、もし目次でこれを探すときは、タ行のところを見てください。
構成生薬
「樸樕・川骨」というのは日本漢方に特有の生薬で、中国生まれの方剤には見られません。
そういう生薬が含まれている点からも、治打撲一方が日本で誕生した漢方薬であることは間違いなさそうです。
樸樕は、クヌギまたはその近縁の植物の樹皮で、解毒、消炎の効能があるといわれています。(ツムラの)十味敗毒湯にも入っています(他メーカーは桜皮)。
川骨は、日本の沼地や小川に自生する、水生のコウホネというスイレン科の植物の根茎で、止血作用、調経作用などがあるといわれています。薬理作用としてはプロスタグランジン生合成阻害作用が考えられます。
出典
『一本堂医事説約』で、一般的には江戸時代中期の医師、香川修庵による創案とされています。
ただし「治打撲一方」という名前を付けて世間に広めたのは浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』と考えられています。
浅田宗伯の処方には、治打撲一方、治頭瘡一方のほかにも、治吐乳一方、治喘一方など、「治○○一方(いっぽう)」という名前のものが、めっぽう多いです。
効能・適応症状
打撲や捻挫による痛み、腫れ、内出血、むち打ち症
治打撲一方の特徴
打撲、捻挫による腫れや痛みに使われる
添付文書では、漢方薬の効能又は効果の欄に、使用目標(いわゆる証)が記されている場合、
通常であれば、「体力中等度の人で・・・」とか「比較的体力が充実した人で・・・」といった書き出しが一般的ですが、
治打撲一方の使用目標(=証)を見てみますと、そのような体力に関する使用目標は記載されていません。
体力にあまり関係なく使えます。
しいて言えば、「打撲や捻挫の証」があれば用いることができるわけです。
打撲などが原因で流れの滞った血は「瘀血」
内出血の血腫を取り去ることで痛みを除くこと。
樸樕も川骨も、瘀血を除き、痛みをしずめるはたらきをしています。
川芎が合わさり、駆瘀血の作用が強まります。血を巡らせて、うっ血を除いて、瘀血による痛みが改善されます。
生薬の構成から考えますと、瘀血を取り去る作用がメインです。
そこに、桂皮(シナモン)・丁子(クローブ)のような温めて気の流れをよくする生薬が配合されています。
清熱(熱を冷ます)にはたらく大黄は少量で、その他に涼血の作用の生薬は入っていません。
よって
打撲したときにすぐに服用しても構いませんが、
急性期(打撲した直後)の赤く腫れているものに対して、熱を冷まして抑えようとする薬ではありません。
少し時間が経過したあとの熱感がない、うっ血性(内出血)の痛みの残った状態を解消します。
痛みへの効果は、比較的(桂枝茯苓丸などと比べても、)即効性がある効き方をすることが多いです。
打撲の痛みをとるためには、瘀血を除くことが重要になるので
症状に応じて、治打撲一方のほかにもやはり桂枝茯苓丸、桃核承気湯、通導散のような駆瘀血剤も選択肢にいれておくべきでしょう。
大黄の目的について
大黄が含まれるので、便秘の人じゃないと使えないのでは、と心配されるかもしれません。
しかしこの場合の大黄は、清熱と駆瘀血の目的で配合されていて、配合量は一番少なく、緩和作用のある甘草が大黄よりも多く入っていますので、この配合での瀉下作用は弱いものと考えられます。
もちろん下痢をしてしまって不快な場合は服用を止めなければいけませんが、
逆に、便がしっかりと出ることによって、痛みも改善してくるということもあるかと思います。
先ほど、桂枝茯苓丸などの駆瘀血も選択肢に入ると書きました。ただ桂枝茯苓丸には大黄が入っていませんので、もし打撲に対して桂枝茯苓丸を使っている場合で、便秘傾向があるなら、桂枝茯苓丸にも大黄の入った漢方薬を追加したり変更したりする方がいいかもしれません。
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