2-(2) 清熱燥湿薬(せいねつそうしつやく)
清熱燥湿薬の多くは、寒・苦の性味をもちます。(実際にとても苦い生薬ばかり)
寒は熱を抑える(清する)あるいは火邪を抑える(瀉する)、苦は湿を抑える(燥する)という性質を示しています。
つまり、清熱と燥湿あるいは瀉火の効能をもつ生薬です。ですので、一般的は湿邪と熱邪が合わさっている湿熱証に(場合によっては化熱証にも)用いられることになります。
湿熱証を引き起こす原因は2つに大別できます。体の外からの問題と、内からの問題。
(外)環境:温度が高く、湿度も高い環境
(内)飲食:生もの、辛い物、お酒、肉など湿が溜まりやすいものの食べ過ぎ
湿熱は、内臓、関節、皮膚などに様々な症状を引き起こします。
食欲不振、胃のつかえ、嘔吐、下痢、黄疸、中耳炎、膀胱炎、帯下、関節痛、湿疹、皮膚炎など...
清熱燥湿薬はこれらの症状に対して使用できます。
ただし、津液の消耗している人、脾胃虚弱の人には、(適切な補剤を併用するなどして)慎重に用いなければいけません。
黄芩(おうごん)
シソ科コガネバナの周皮を除いた根
【帰経】肺 胆 胃 大腸 (小腸・脾・心)
【効能】清熱燥湿 瀉火解毒 止血 安胎
主成分はバイカリンなどのフラボノイド配糖体。
①清熱燥湿
各種の湿熱証に応用することができます。特に大腸の湿熱に優れているようです。
・中焦の湿熱が胃気の流れを阻み、食欲不振、胃の痞え、嘔吐などに、黄連や半夏、乾姜などと用います。例⇒半夏瀉心湯(瀉心湯の心は心臓ではなく心窩部つまり胃のことです。黄芩は瀉心湯の大事な生薬です。)
・肝胆の湿熱で黄疸のとき、茵陳蒿や山梔子の補助で使用されます。
・大腸の湿熱で下痢(赤痢も含む)のときは、芍薬または黄連や葛根と配合されます。例⇒黄芩湯、葛根黄連黄芩湯
・下焦の湿熱で頻尿、排尿痛など膀胱炎のときは、木通や車前子とともに用いられます。
②瀉火解毒
・肺熱の咳嗽に、桑白皮や知母、麦門冬などと用いられます。例⇒清肺湯
・気分の実熱証に、石膏や山梔子などと配合して用いることもできます。
・少陽病の往来寒熱などに用いる小柴胡湯などの柴胡剤(和解剤)には必ず黄芩を組み合わせて使用します。柴胡は黄芩を一緒に配合してはじめて半表半裏の熱に対応できます。
③止血
熱によって血液は流れて、冷えると血流は悪くなります。熱が盛んになりすぎたときは血行が乱れ、ときに血が外へ漏れます(吐血、鼻血、血便、不正出血など)。黄芩は熱を去ることで止血します。(※脾虚や瘀血による出血には対応しません。)よく黄連と一緒に用います。例⇒黄連解毒湯、三黄瀉心湯
④安胎
除熱による安胎ですので、炎症性のような熱による胎動不安(下腹部痛)に使用されることがあります。(※気虚や腎虚による胎動不安には対応しません。)当帰や白朮と配合されます。⇒当帰散
注意点:寒性ですし胃腸に負担になることがあるので、脾胃虚寒には注意が必要です。
(補足:古典的には、清熱瀉下にはそのまま、安胎には炒って寒性を減らして使用し、止血には焼いて炭にして使用するのが良いとされています。)
黄連(おうれん)
キンポウゲ科オウレンの(根をほとんど除いた)根茎
【帰経】心 肝(胆) 胃 大腸
【効能】清熱燥湿 清心除煩 瀉火解毒
「良薬は口に苦し」の代表的な生薬。効能の性質を表す「苦」ですが、実際の味もトップクラスに苦いです。
成分はベルベリンなどのイソキノリンアルカロイド。
黄芩と併用されることも多く、黄芩と黄連を配合する方剤を「芩連剤」と称します。
①清熱燥湿
特に中焦(脾や胃)の湿熱を治すことに優れているようです。
- 脾胃の湿熱による胃のつかえ、膨満、嘔吐、胸やけなどの症状がある場合、黄芩や半夏などと配合されます。例⇒半夏瀉心湯
- 大腸の湿熱による下痢に、葛根・黄芩などと用いられます。⇒葛根黄連黄芩湯
- 胃熱を清するので、中焦の実火(胃潰瘍、胃からの出血、胸やけ、嘔吐、口内炎など)にも対応します。
②清心除煩
「心」の熱は精神を乱し、精神的な症状を引き起こすことがありますが、黄連は心火を抑える(瀉する)作用に優れているためよく瀉火薬としても応用されます。
- 熱病による高熱、煩躁、うわ言などの症状に山梔子と一緒に用います。例⇒黄連解毒湯
- 腎の陰虚によって心を養うことができなくて心の陽が強くなること(心腎不交証)による、不眠、心煩、遺精などの症状に、黄芩や阿膠などと配合されます。⇒黄連阿膠湯
- 心腎不交の不眠や不安(日中は眠くてふらつくのに夜間は神経がたかぶる)に、あえて黄連とは作用も性質も相反する桂皮との二味で(丸剤にして)用いられこともあります。⇒交泰丸(こうたいがん)
- 心火による煩躁、不眠、口内炎などにも応用されます。⇒半夏瀉心湯、竹筎温胆湯、女神散
- あまりに心火が盛んで鼻血や吐血などのときには黄芩、大黄と使用されます。⇒三黄瀉心湯
- お腹が冷えているのに胸部に熱があって、冷えのぼせを伴う胃腸症状のときには、乾姜や桂枝などと配合されます。例⇒黄連湯
③瀉火解毒
皮膚の化膿性・炎症性の疾患、腫れて痛い、赤くて痒い、(アトピー性皮膚炎、口内炎、中耳炎)などの、さまざまな症状に瀉火の作用が応用されています。例⇒黄連解毒湯の他、黄連解毒湯がベースに含まれている温清飲や柴胡清肝湯など。
注意点:寒証には用いられません。冷やす性質が強いので特に小児や高齢者は注意が必要です。また胃寒の嘔吐、脾虚の下痢には適していません。
黄柏(おうばく)
ミカン科キハダのコルク層を除いた樹皮
※西洋薬のベルベリンの製造原料でもある
【帰経】膀胱 大腸 腎
【効能】清熱燥湿 瀉火解毒 退熱除蒸
①清熱燥湿
黄柏を湿熱に用いる場合はよく下焦の症状に使われます。下痢、帯下(おりもの)、足の腫痛など。
湿熱による黄疸のときは、山梔子などと配合されます。例⇒梔子柏皮湯
②瀉火解毒
熱の盛んになった熱毒の皮膚化膿症に、黄連と同様に応用されます。例⇒黄連解毒湯、荊芥連翹湯、柴胡清肝湯…
③退熱除蒸
骨が蒸されているかのように身体が芯から熱い、という症状のときに用いられます。
陰虚のときの虚熱によって陰液がさらに失われるのを防ぐ目的で配合されます。(黄柏が陰液を補うわけではありません。)麦門冬などと配合されます。例⇒清暑益気湯
腎陰虚による潮熱(夜間に熱くなる)、寝汗、遺精のときは、地黄など(または六味丸)に知母とともに配合されます。例⇒知柏地黄丸、滋陰降火湯
その他
日本では民間薬として胃腸薬(苦味健胃薬、止瀉薬)または外用薬などに使われ、あるいは防虫効果のある染料として、古くから重宝されていた生薬です。
注意点:黄芩・黄連と同様で、脾胃虚寒証には用いられません。
竜胆(りゅうたん)
リンドウ科トウリンドウの地下部(根および根茎)
※中医学では竜胆草(りゅうたんそう)と記載することが多いですがその場合でも使用部位は根です。
【帰経】肝(胆)
【効能】清熱燥湿 瀉肝胆火
肝経の熱に特異的に応用されているという特徴的な生薬です。
肝胆の湿熱は(湿熱は重いので)下焦に表れて、陰部の痒み、帯下(おりもの)、排尿痛、尿の混濁、排尿のしぶりなどの症状になります。
肝胆の実熱は(肝火は上炎するので)目の充血、頭痛、口が苦い、脇の痛み、耳鳴り、難聴などを引き起こすことがあります。
竜胆を主薬にして肝経の熱を瀉すという意味で代表的な方剤が竜胆瀉肝湯。山梔子や木通などとともに配合して用いられます。(※竜胆瀉肝湯は同名でも配合生薬が異なる方剤が存在します)
注意点としてはやはり、虚証や冷え症のときは適していません。
苦参(くじん)
マメ科クララの根で、しばしば周皮を除いたもの
あまりの苦さにクラクラするというのが語源とのこと
煎汁は農作物用の殺虫剤として利用することもできます。
【帰経】心 肝 胃 大腸 膀胱
【効能】清熱燥湿 殺虫 利尿
下焦の湿熱を除くという点で、黄柏の効能に似ています。
特に清熱燥湿+殺虫の効果で、皮膚の疾患や、陰部の痒みに用いられます。膣トリコモナス症など。
例⇒三物黄芩湯、消風散
まとめ
ここに挙げた清熱燥湿薬はどれも良く似た効能を持っており、互いによく併用されます。
さいごに清熱・燥湿の特徴(得意なエリアとでも言いますか、特に優れているとされる部位)をあえて整理すると、下のようになります。黄色が名前のあたまに付く生薬ならどれでも一緒というわけではないよ、という意味で参考まで。
瀉火する部位 | 湿熱のある部位 | 黄連解毒湯 | 三黄瀉心湯 | 三物黄芩湯 | |
黄芩 | 肺 | 大腸 | 〇 | 〇 | 〇 |
黄連 | 心 | 脾胃 | 〇 | 〇 | |
黄柏 | 腎(虚火) | 下焦 | 〇 | ||
竜胆 | 肝 | 肝胆 | |||
苦参 | - | 下焦 | 〇 | ||
+山梔子 | +大黄 | +地黄 |
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