麻子仁丸(ましにんがん)の解説
麻子仁丸は、一般的な(いわゆる下剤の)瀉下作用に加えて、腸内の乾燥を潤すことで便通を改善させる効果があり、
主に、高齢者や胃腸虚弱な方の、弛緩性便秘、常習便秘に用いられています。
胃腸のはたらきが弱く、腸の動きがゆっくりな方というのは、腸内に長時間、便が停滞していることになります。
そのため、便が大腸内で乾燥してきて硬くなり、ときに塊状、コロコロ便になります。
高齢や病後などで体内の潤いが減少している場合にも、胃腸内に熱がこもりやすく、同じような便秘になります。
このような便秘には麻子仁丸が適しています。
センノシド製剤などの便秘薬を使ってみて効果がないときの次の手として処方されることもあります。
構成生薬
麻子仁を含む6種類の生薬で構成されています。
いちばん配合量が多いのも麻子仁です。
大黄・枳実・厚朴の3つで小承気湯といいます。
なので麻子仁丸は小承気湯や大承気湯の仲間と考えることができますが、
麻子仁丸では厚朴や枳実の配合量は抑えられています。
ただし、大黄の配合量がエキス製剤では4.0gと意外と多いので、麻子仁丸は必ずしも虚証用の漢方薬とも言えません。
効能・適応症状
- 便秘、常習便秘、急性便秘、術後・病後の便秘、発汗過多に続発する便秘
- 食欲不振、腹部膨満、腸内異常発酵
- 便秘を伴う痔核
- 便秘に伴う頭痛、頭重感、のぼせ
- 便秘に伴うニキビ(ふきでもの)、皮膚炎、湿疹
といった様々な便秘に使用可能ですが、
重要なことは、
高齢者や病後にみられるような、身体のうるおいが低下した状態で、腸管内が乾燥して起こる便秘
または、
腸の蠕動運動が低下して、便の停滞時間が長くなり、水分が過剰に吸収されて硬くなった便秘
に対して使うことです。
添付文書上の効能効果は↓
医療用エキス
便秘(ツムラ、オースギ)
常習便秘、急性便秘、病後の便秘、便秘に伴う痔核、萎縮腎(コタロー)
薬局製剤
体力中等度以下で、ときに便が硬く塊状なものの次の諸症:
便秘、便秘に伴う頭重・のぼせ・湿疹・ 皮膚炎・ふきでもの(にきび)・食欲不振(食欲減退)・腹部膨満・腸内異常醗酵・痔などの症状の 緩和
作用の特徴
麻子仁丸の特徴はまず、この処方の名前にもなっている麻子仁と、もうひとつは杏仁の作用です。
麻子仁や杏仁の、「仁」は果実の種子のこと。
麻子仁は、アサ科(古い教科書ではクワ科)アサ属アサの成熟した実を乾燥させたものです。殻を割ってその中身(仁)が用いられます。
脂肪油が多く含まれています。この油分には、腸管の刺激作用と、便を軟らかくすることで排便を促進させる作用があります。
同様に、杏仁はバラ科のアンズの種子であり、やはり油分を多く含み、便を軟らかくする作用があります。
麻子仁と杏仁とで腸内を潤して、便の動きを滑らかにしています。
「小承気湯」の部分は、大黄の瀉下作用と、枳実・厚朴で蠕動運動を強めます。
しかし高齢者や胃腸虚弱な方では、このような腸を刺激する薬では、腹痛を伴ってしまうことがあります。
そこで脾のはたらきを助け、鎮痛の効果のある芍薬が加わり、腹痛を予防しています。
また、大黄と芍薬の配合は、脾陰を補って腸内の熱を取る効果もあります。
「麻子仁丸」というのは、以上のような総合的なはたらきで、硬い便を自然に近いかたちでスムーズに出せるようにしている漢方薬です。
注意点・副作用
麻子仁丸だけでは気や血を補うは効果はほとんどなく、あまり体質改善を目的に長期連用する方剤ではありません。快便を得たあとは、中止しても構いません。
大黄甘草湯などよりも穏やかに効きそうなイメージはありますが、大黄剤であることに変わりありません。
効果の出方には個人差があるので、腹痛や下痢などの副作用を防止するため、服用量は、適宜調節してください。
※エキス製剤では1日1回1包からでも十分効果がみられることも多いです。不十分な場合に徐々に増量してください。
血虚証のある便秘の場合は潤腸湯の方が良いこともあります。
腸の蠕動運動の低下は気虚なので、補中益気湯などが必要なこともあります。
麻子仁丸でも腹痛を起こしてしまうような場合は、大黄の入っていない桂枝加芍薬湯や、小建中湯などが良いかもしれません。
大黄の成分によって服用後、尿の色が濃く(赤っぽく)見えることがあります。
本来の麻子仁丸であれば丸剤なので、蜂蜜とともに各生薬を混ぜて、丸めて服用するものです。丸剤の方が、腸を潤す効果がゆっくりはたらき、持続しやすいと考えられます。蜂蜜にも便通改善効果があります。「麻子仁丸料」であったり、エキス製剤には蜂蜜は入っていません。
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