神経痛の漢方薬
「ピリピリと刺すような痛みが続く」
「冷えるとしびれが強くなる」
「薬を飲んでもすっきり治らない」
──神経痛は生活の質を大きく下げるつらい症状です。
坐骨神経痛や肋間神経痛、帯状疱疹後の神経痛など、原因や部位はさまざまですが、いずれも「痛みが長引きやすい」ことが特徴です。
西洋医学では鎮痛薬や神経ブロック注射などが中心ですが、痛みが慢性化すると改善までに時間がかかることもあります。そこで漢方では、血流や巡りを整え、体質そのものを改善するアプローチをとっていきます。
漢方の視点(体質から見た神経痛)
神経痛を漢方ではどう捉えるか
神経痛は、神経そのものの炎症や圧迫だけでなく、気血の巡りの滞り(気滞・血瘀)、回復力の土台となる腎の衰え(腎虚)、そして気血両虚などの体質的なアンバランスが重なって長引きやすくなると考えます。さらに、風・寒・湿・熱といった外的要因が、季節や環境、生活習慣の影響を受けて入り込み、痛みやしびれを増悪させます(痺証)。
治療では、痛みの出方や経過、悪化要因(冷え・湿気・ストレスなど)を丁寧に拾い、「体質(内側)」と「環境(外側)」の両面から整えることを重視します。
ポイント
- 痛み=局所の問題だけはなく、全身の巡りと土台の弱さの表れ
- 体質(気滞・瘀血・腎虚・気血両虚)+外因(風寒湿熱)の両輪で評価
- 改善の柱は、めぐらせる・温めるor冷やすを見極める・土台を養う
坐骨神経痛
腰椎の変化(ヘルニアや狭窄など)を背景に、臀部〜大腿〜下腿へと放散する痛み・しびれが続きます。
漢方では、風・寒・湿が下半身に停滞する「痺証」をまず考えます。
冷えで増悪し、湿度や天候で重だるさが増すなら、寒邪や湿邪の影響を受けています。
長期化すると局所の循環が悪化し、痰濁や瘀血が絡んでさらに痛みやしびれが激しくなります。
また加齢や消耗が加われば腎虚が背景に潜み、体が冷えやすいため回復が鈍くなります。
対応の軸は、気血を停滞させている寒湿を取り除き巡りを回復しつつ、慢性期には瘀血を動かし、腎を支えること。
痛みが頻発する急性増悪期か、慢性安定期(寛解期)か、実証か虚証かで対応は異なります。
ポイント
- 冷え・湿気で悪化⇒寒湿痺+気血の停滞
- 慢性化ほど⇒「温めて巡らせる」+「腎陽を養う」
肋間神経痛
胸背部を走る鋭い痛みは、緊張や情緒の抑え込みで肝気鬱結(気滞)が起こり、肋間の通り道がこわばって痛むのが典型です。肝胆経の気の流れの乱れを示します。
痛む場所が固定しない、鈍い痛み、不快感を伴うのは、気滞による痛みの特徴です。
一方、脾胃の虚寒(中焦の冷え)があると、冷飲食や寒冷による寒邪が胸脇に侵入し、胸痛を起こすことがあります。
また、いつも同じところが刺すように痛むようであれば瘀血を伴っていると考えます。
ポイント
- ストレスで悪化・胸脇の張り⇒肝胆の気滞サイン
- 冷えが著しい・胃腸虚弱・倦怠感⇒脾胃虚寒の関与
- 長引く固定性の痛み⇒瘀血を疑う
三叉神経痛
顔面(片側)に、電撃のような強い痛みが発作的に走り、触れたり押さえたりだけでなく、歯みがき・会話・冷風・飲食などの些細な刺激で誘発されます。
漢方では、まず顔に風が当たることだけでも誘発されやすいことから、風邪(外因)を念頭に置きます。
とくに、風寒は冬場に悪化したり、冷風などの寒冷で誘発されやすい痛み、
風熱は顔面紅潮や充血、熱感を伴う(焼けるような)痛みです。
一方で、情緒の高ぶりや緊張が続くと肝陽上亢(肝の陽気が上に突き上げる)が生じ、痛みの閾値が下がって発作を誘発することがあります。
長引けば局所循環が悪くなり瘀血が経絡に滞り痛みを悪化させます。
消耗が進めば気血両虚により、回復を遅らせたり、疲れると痛みが起こりやすくなります。
ポイント
- 冷風・寒冷で増悪(温めると軽くなる)=風寒の関与
- 顔のほてり・赤み・灼熱感(冷やすと軽減)=風熱の関与を示唆
- ストレス・緊張・イライラで誘発=肝陽上亢を疑う
- 痛む場所が一定・押さえると増悪・夜間に悪化=瘀血の関与
- 痛みは鋭くないが長引く・疲れると悪化=気血両虚の背景
神経痛に用いられる代表的な漢方薬(例)
実際の処方選択は、痛みの性質(刺す/灼ける/重だるい等)、悪化因子(冷え・湿度・ストレス)、病期(急性期/慢性期)、全身状態(虚実)を合わせて判断をしますので、ここでは一例として示しています。
坐骨神経痛
使い分けの考え方:下半身に停滞しやすい寒湿(風湿)痺をまず整え、慢性化していれば瘀血、加齢や消耗があれば腎虚も考慮
寒湿・風湿が強い(冷え/湿度で悪化、重だるい)
瘀血が絡む(刺す固定痛、夜間増悪)
腎虚を伴う(足腰のだるさ・冷え、経過が長い)
肋間神経痛
使い分けの考え方:肝胆の気滞(ストレス・緊張で増悪)を軸に、冷えがあれば脾胃の虚寒を、長引いて固定痛なら瘀血を考慮する。
肝気鬱結(気滞)が主体(ストレスで変動、胸脇の張り)
脾胃の虚寒を伴う(冷飲食・寒冷でぶり返し、胃腸が弱い)
瘀血が絡む固定痛
三叉神経痛
使い分けの考え方:誘因(冷風・会話・噛む・緊張)で変動。風寒/風熱をまずさばき、情緒の昂ぶりが誘因なら肝陽上亢を鎮める。慢性固定痛は瘀血、回復遅延の場合は気血両虚を考慮する。
風寒が主体(冷風・寒冷環境で誘発、温めると軽減)
風熱が主体(ほてり・赤み・ヒリつく刺激痛)
肝陽上亢が関与(緊張・イライラで誘発、目の充血・頭重)
瘀血が絡む(同一部位の刺すような痛み)
- 清上蠲痛湯
気血両虚の背景(痛みは鋭烈でないが長引く、疲労で悪化)
ご利用時の注意
症状は複合的に出るのがふつうです。まずは「いま最も強い因子」を見極めて段階的に整えるのがいいでしょう。
自己判断での長期服用は避け、体質と病期に合わせて調整してください。
痛みが強い場合は、まず医療機関での評価を優先してください。漢方はその上で併用が可能です。
