【通導散】の解説~瘀血と気滞と便秘を伴うときの漢方薬~

包帯

通導散(つうどうさん)

通導散は、「瘀血」と「気滞」があり「便秘」しているときに使われる漢方薬。

もともとは、外傷後の治療のために考えられたものです。しかも相当重症の外傷です。

内出血で血の塊がある。血の流れが悪いために気が滞る。蠕動運動も悪くなり、お腹が張る。胸苦しい。 血瘀の範囲が広く、血だけでなく気も水もすべて巡りが悪くなった状況です。

そんな状況ですので、通導散には「駆瘀血薬」と「瀉下薬」、それに「理気薬」も「利水薬」も配合されているのが特徴です。

急性の症状に使う目的で、一気に血の塊を分解吸収し瀉下してしまおうという薬なわけで、ゆっくり体力を補おうなんてことは期待していません。

原典においても、通導散で治療した後は、補剤に変更するように記されていますし、
つまり、現在は外傷以外にも様々応用されていますが、通導散そのものは実証向きの方剤です。  

出典

『万病回春』(16世紀)

「跌樸傷損極めて重く、大小便通せず、すなわち瘀血散ぜず、肚腹が膨脹し、上って心腹を攻め、悶乱して死に至らんとする者を治す。まず此の薬を服して死血・瘀血を打下し,然る後まさに補損の薬を服すべし。酒を用うべからず。飲めば癒通せず。また人の虚実を量りて用うべし。」

その後日本では、明治~昭和『漢方一貫堂医学』で用いられ広まっています。

一貫堂においては、体質を大きく3つに分けたもののなかで、瘀血証体質に使うとされているのが通導散です。

なお、『漢方一貫堂医学』はご存じなくても、そこで臓毒証体質に使うとされていたのが、あの防風通聖散です。

瘀血体質の改善に用いる場合は、もともとの外傷後の治療に使われていたときよりも長期に使うので、分量としては加減されていたと思われます。

また大正時代の関東大震災のときに、多くのケガ人(今でいうクラッシュ症候群)を救うために通導散がたくさん使われたという話もあります。

(外傷は、事故や災害によるものだけではありません。昔は刑罰として木製の杖で体を打つ刑がありましたので、その刑のあとに死に至らないようにするため通導散が与えられていたという話もあります。)

構成生薬

  • 大黄(ダイオウ)
  • 厚朴(コウボク)
  • 枳実(キジツ)
  • 当帰(トウキ)
  • 紅花(コウカ)
  • 陳皮(チンピ)
  • 甘草(カンゾウ)
  • 蘇木(ソボク)
  • 木通(モクツウ)
  • 芒硝(ボウショウ)/無水芒硝/または無水硫酸ナトリウム

大黄・甘草でもちろん「大黄甘草湯」(だいおうかんぞうとう)
大黄・甘草・芒硝では「調胃承気湯」(ちょういじょうきとう)
大黄・芒硝・厚朴・枳実の4つで「大承気湯」(だいじょうきとう)
その大承気湯に当帰・紅花・甘草で「加味承気湯」
加味承気湯にさらに蘇木・陳皮・木通が加わり「通導散」です。

つまり通導散は、『傷寒論』『金匱要略』にある承気湯類を発展させて創られた方剤です。

大黄・芒硝・甘草→瀉下
枳実・厚朴・陳皮→理気 
当帰・紅花・蘇木→活血 
木通→利水

一貫堂の処方は、『万病回春』の配合にさらに枳穀が入るようです。

効能・適応症状

  • (便秘を伴う)月経不順、月経痛、更年期障害、不妊症
  • 打ち身(打撲)・捻挫・それに伴う内出血・疼痛
  • 腰痛、頭痛、肩こり、むち打ち症、片麻痺
  • 便秘、痔核、アトピー性皮膚炎
  • 高血圧症、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)、自律神経失調症
上記の症状に応用されることがあるという意味であり、すべての症状が通導散で治せる、ということではありません。 保険適応外の症状を含みます。

添付文書上での効能・効果

比較的体力があり下腹部に圧痛があって便秘しがちなものの次の諸症:
月経不順、月経痛、更年期障害、腰痛、便秘、打ち身(打撲)、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)

通導散の効果のポイント

救急箱

駆瘀血の作用や瀉下作用は、エキス製剤の中では強い部類になります。

ケガのあと活動量が低下すれば便秘にもなりやすいし、気分も落ち込んだりもするので、通導散の配合はとても効果的だと思われます。

しかし、今ではケガなど外傷に限らず、瘀血による症状に広く応用されます。

通常は便秘気味または肥満気味の方に用いられますが、長期に使用する場合は分量の調節を行ってください。

当帰や紅花のような調経にはたらく生薬も含まれるため、婦人科疾患や月経に関連する症状にも適します。

原典の記述通りに使用されるなら、通導散で瘀血を治療したあとは、治りを早めるために補剤を用いるようにとされています。
そのときは一般的には、黄耆を含んだ方剤(例えば補中益気湯十全大補湯など)が使われます。

その他の駆瘀血剤との違い

どれがいいの?

通導散には牡丹皮や桃仁が配合されていません。

通導散も駆瘀血剤に分類されていますが、
同じ駆瘀血剤の代表的処方である桂枝茯苓丸と通導散とは、実はひとつも生薬の重複がないという関係であり、併用できる組み合わせです。

通導散だと下痢してしまうけど駆瘀血作用は強めたいという場合に、「通導散(減量)+桂枝茯苓丸」とか

または逆に瀉下作用も強めたいときには、通導散に桃核承気湯などを合わせることもあり得ます。

同じ承気湯類の発展なので、桃核承気湯と比較しますと、

桃核承気湯が、同じく瘀血と便秘で、それに桂枝が配合されるため、気の上衝(イライラやのぼせ)が強いときに用いるのに対して、

通導散は、瘀血と便秘と、それに理気薬が配合されるため、不安や不眠、気うつの症状が見られるときに用いられることが多いです。

外傷が少し古い場合の痛みには「治打撲一方」を考慮してください。

通導散の注意点

  • 大黄、芒硝の他、紅花、蘇木が配合され、駆瘀血(活血)の作用が強いため、妊婦さんとお子さんには基本的に使われません
  • 服用後、下痢をすることがありますが、打撲によるうっ血においてはあえて一時的に下痢をさせるくらいを目標に処方されることがあります。
  • 大承気湯」の要素が含まれますので、同じような注意が必要です。具体的には、枳実・厚朴が入ります。これは蠕動運動を速める効果があります。一般的なセンナ系の大腸刺激性の下剤だけでは作用発現まで時間を要しますが、枳実・厚朴が加われば効果の発現が早まります。便秘の時には好ましいことですが、蠕動を速めることは、食べたものの消化吸収の時間を短縮することになります。よって十分に栄養を吸収できなくなってしまい、もし虚証の方が服用を続ければ、栄養不足によって倦怠感や脱力感が生じる恐れがあります。何を言いたいかというと、瘀血体質の改善で長期に用いることはありますが、下痢をして体重は減ることはあっても、ダイエット目的には適していません。これはやはり枳実を含む大柴胡湯でも気をつけてください。原典に書かれている「虚実を量りて用うべし」です。
  • あとは、念のために…、通導散(つうどうさん)と痛散湯(つうさんとう)は全くの別物です。

用法用量や使用上の注意は、医師・薬剤師の指示、または添付文書の説明を守ってください。
関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました