半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)の解説
半夏白朮天麻湯は、
胃腸虚弱と冷えがある人の、めまいや頭痛に用いられる漢方薬です。
六君子湯よりもさらに虚証向きで、かつ、水滞症状(水毒)があることによって起こるめまいや頭痛に適しています。
構成生薬とその特徴
※神麹・蒼朮・乾姜に関しては製剤によって配合されていないことがあります。
ちなみに医療用エキス製剤では販売しているメーカー4社すべてで少しずつ配合が異なっていて、神麹・蒼朮・乾姜が全部入っているのはコタローの製品だけです。
構成生薬が多いので、いろいろな切り口で見ることができるのですが、
例えば、
人参・朮・陳皮・半夏・茯苓・生姜の配合は、胃腸虚弱で食欲不振に用いる六君子湯(から甘草と大棗を抜いたもの)と共通です。
さらに消化を助けるために麦芽・神麹も加わっています。
ですので、まず胃腸虚弱の食欲不振の改善を期待しているということが一つ。
もしくは、
人参湯(人参・白朮・乾姜)+二陳湯(半夏・茯苓・陳皮・生姜)の合わせたもの(でそれぞれから甘草を抜いたもの)がベースであるとも捉えられます。
人参湯でお腹の冷えの改善と、二陳湯でとくに消化器系の痰湿を除く作用が期待できます。
さらには、
人参+黄耆のペアもあるので、参耆剤として、補気(元気をつける)も行います。
以上が、脾虚(胃腸虚弱)に対してのベースです。
それでは、半夏白朮天麻湯の特徴は何かというと、次の点です。
①まず茯苓・沢瀉・白朮・蒼朮・陳皮・半夏・黄柏といった、水や湿を除く方向にはたらく生薬の配合がとても多いこと。
しかも、胃腸には良いけれど潤す(水分保持の)方向にはたらく甘草や大棗は抜かれています。
②そしてもっとも特徴的なのは漢方薬の名前にも入っている「天麻」の存在。
天麻は、熄風薬の代表的な生薬ですが、(⇒熄風薬の解説はこちら)
漢方的には内風の症状を抑えるときに用いられるもので、
内風の一般的な症状というのが「めまい・ふらつき・頭痛」です。
というわけで、
半夏白朮天麻湯が用いられる状況を漢方的にまとめると、
「胃腸虚弱+冷え」で水の代謝が悪い⇒「痰湿が発生」
それに
「胃腸虚弱+冷え」で栄養状態が悪く(肝の)陰液不足から⇒「内風の発生」
そのため、
内風によって痰湿が上半身を襲って⇒「めまい・ふらつき・頭痛」です。
半夏白朮天麻湯は、めまい等の症状を抑える(対症療法)だけではなくて、
その根本となっている部分までをすべてまとめて対処しようとしている漢方薬です。
効能効果
医療用エキス製剤
【ツムラ】【クラシエ】胃腸虚弱で下肢が冷え、めまい、頭痛などがある者
【コタロー】冷え症、アトニー体質で疲労しやすく、頭痛、頭重、めまい、肩こりなどがあり、ときには悪心、嘔吐などを伴うもの。胃アトニー症、胃腸虚弱者、または低血圧症に伴う頭痛、めまい。
【三和】平素より胃腸が虚弱で足が冷え、ときどき頭痛、めまいを起こし、激しいときは嘔吐を伴う症状:または食後に手足がだるくねむくなるもの、しばしば心下部に振水音を伴うものの次の諸症:胃アトニー症、胃下垂、胃神経症、低血圧症
薬局製剤
体力中等度以下で、胃腸が弱く下肢が冷えるものの次の諸症:頭痛、頭重、立ちくらみ、めまい、蓄膿症(副鼻腔炎)
補足
頭が締め付けられるような頭痛に用いられることもありますし、頭重感といったものにも用いられます。
悪心や嘔吐をともなうときも対応はしています。
ただし、他の、頭痛やめまいに用いる漢方薬(呉茱萸湯、五苓散、苓桂朮甘湯など)と比較すると
半夏白朮天麻湯が、多味の生薬構成であることから考えても、
激しいめまいや頭痛、嘔吐に対して、あまり即効的な効果を期待して使用するものではありません。
平素より胃腸が虚弱な人で、めまいや頭痛を起こしやすい人の、症状とその体質をともに改善していく薬として、
ある程度継続して服用していただくことが一般的かと思われます。
出典
『脾胃論』(13世紀)
半夏白朮天麻湯は、中国の金元時代に出版された書物に載っている方剤で、
書物のタイトルからして、胃腸に対する薬であることは明らかです。
(引用するには長い文章なので割愛します)
※上の解説には六君子湯などがベースであるように書きましたが、歴史的には、半夏白朮天麻湯の方が、六君子湯よりもかなり前に創られています。
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