清肺湯(せいはいとう)の解説
清肺湯は、慢性の咳嗽に用いる漢方薬になります。
多量で粘りのある、なかなか切れない痰があり、
痰が切れるまで激しく咳き込んでしまうときに使われます。
激しく咳き込む状態が何度も繰り返されて、
のどが痛くなってきたり、声が嗄(か)れてきたりするような状態です。
逆に、透明のサラサラした痰のときには適しません。
構成生薬
清肺湯には、16種類の生薬が配合されています。非常に多味です。
黄芩・山梔子・桑白皮・竹筎 ⇒ 清熱
桔梗・杏仁・貝母 ⇒ 去痰・止咳
天門冬・麦門冬・五味子 ⇒ 清肺・滋陰(肺を潤す)
などなど
鎮咳・去痰の生薬と、清熱(消炎)や滋陰の効果のある生薬、
これらはおもに肺(呼吸器)に作用する生薬ですが、
そのほかに、茯苓・陳皮・甘草・生姜など、胃腸にも作用する生薬が配合されているのが特徴です。
効能効果
【医療用エキス製剤】(ツムラ)
痰の多く出る咳
【薬局製剤】
体力中等度で、せきが続き、たんが多くて切れにくいものの次の諸症:
たんの多く出るせき、気管支炎
適応症状の補足をしますと…
慢性的な呼吸器の炎症で、痰が大量に出て、
しかも粘稠で(痰の色は黄色くても白くても)なかなか切れない痰のため、喀出がむずかしく、
痰が出るまで激しく咳込んでしまう状況です。
長引く咳で、のどがヒリヒリ痛くなったり、声がかすれたりしていることもあります。
清肺湯の特徴
「清肺湯」の「清」は、清熱のことであり、
清肺とは、気道の炎症による呼吸器の内部の熱を冷ますこと。
つまり清肺湯は、炎症を抑えて、鎮咳・去痰させる漢方薬ということです。
ただし、急性の咳などでよく使われる漢方薬と構成生薬の数だけ比べてみても
であり、
16種類を配合する「清肺湯」は、これらの咳止めとは明らかに違うことが分かるかと思います。
消炎・鎮咳・去痰の作用が主ではありますが、
ほかに、補陰・補血・補気・利水の生薬などが補助的に加えられており、
呼吸器の炎症が慢性化したことによる気血や脾胃の消耗に対してのフォローがなされています。
・清熱薬で炎症を抑える
・乾いた痰を潤して喀出しやすくする
・脾(胃腸)のはたらきを整えて水の代謝を改善し、痰の発生を抑える
そういう複合的な作用で、咳をしずめる漢方薬です。
備考
・市販薬では、「ダスモック」の名前で販売されいるものも「清肺湯」のことです。
・タバコが原因の慢性咳嗽にも清肺湯が用いられますが、そのときはまず禁煙することもおすすめします。
・清肺湯に胃腸を整える生薬が入っているといっても、脾気虚(胃腸虚弱)の改善の目的では使いません。
・痰が切れずに咳き込んでしまうという点は「麦門冬湯」と似ています。ですが麦門冬湯の場合は補陰がメインで、清熱薬が配合されていませんので、炎症はなく、痰も少ないです。
・名前の似た漢方薬の「辛夷清肺湯」は、主に鼻の症状に使います。「清肺湯」とは生薬の構成も適応も異なります。
・漢方で「痰」というと、水毒・水滞が悪化して生じる「(広義の)痰」もあるのですが、清肺湯の効能にある「痰」は気道分泌物としての「(狭義の)痰」です。
出典
『万病回春』(16世紀)
※ただし、万病回春の清肺湯には竹筎が配合されていません。竹筎入りとしては本朝経験方。
久嗽止まず、あるいは労怯となり、もしくは久嗽唖し、あるいは喉に瘡を生ずるものは、これ火肺金を傷るなり。ともにこれを治し難し。もし血気衰敗し、声音失するものもまた難治なり。
一切の咳嗽、上焦痰盛なるを治す。
⇒慢性的な咳が止まらず、全身が疲弊する、あるいは声が出なくなる、あるいは喉に傷を生じる、これらは火(炎症)が肺を傷害しているもので治し難い。気血もともに衰退して声が出なくなるものもまた治し難い。
清肺湯は一切の咳嗽、呼吸器疾患で痰が盛んに出る状態を治す。
※「火」には、「実火」と「虚火」があります。全身が疲弊したり、気血が消耗したりと書かれているので、清肺湯の適応は「虚火」の方だと考えられます。ですので「一切の咳嗽」とありますが、慢性的な(慢性に経過している)虚証傾向の呼吸器疾患がおもな適応です。
なお、『万病回春』の清肺湯の条文では、各々調整した13種類の生薬を、「生姜と大棗を加えて煎じ、食後に服用する」としてあります。
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