柴胡剤(さいこざい)
たんに柴胡(サイコ)が配合されている漢方薬のことをまとめて柴胡剤(さいこざい)と言うこともありますが、
もう少し絞って、代表的な柴胡剤というのは、
柴胡だけでなくて、柴胡と黄芩(オウゴン)の2つを主薬として配合している漢方薬を指します。
その(柴胡と黄芩の含まれる)柴胡剤を使うにあたって、
いわゆる実証~虚証に応じて、どの柴胡剤を選ぶべきかの目安が一応あります。
生薬の構成をみれば理解できますので、解説してみます。
柴胡剤の並び
実証向きか虚証向きかということで、柴胡剤を並べると次のようになります。
[実証]
大柴胡湯(だいさいことう)
↓
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
↓
小柴胡湯(しょうさいことう)
↓
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
↓
柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
[虚証]
という順番に一般的には並べることができます。
柴胡剤の効能と配合
柴胡の効能3つ
柴胡は、セリ科ミシマサイコの根です。
柴胡のはたらきは主に3つに分けられます。
1、透表泄熱(解表退熱)
熱のあるカゼ、悪寒と発熱が交互に起こったり、食欲の低下や吐き気を伴うこじらせたカゼに柴胡が使われます。
例えば小柴胡湯、柴葛解肌湯などに柴胡が配合されています。
2、疏肝解鬱
ストレスによって肝の疏泄(気血を巡らせるはたらき)が悪くなって、イライラなどの症状が起こっているとき(肝気欝結)に柴胡が使われます。
3、昇挙陽気
気を上昇させるはたらきが柴胡にはあり、脱肛や内臓の下垂に対する処方に柴胡が使われます。
柴胡・黄芩+αの配合
特に、(柴胡と黄芩の2つを配合する)柴胡剤の場合、
柴胡の効能2つ目の疏肝解鬱の効能を期待することが多く、肝気欝結に対して使われる処方群となります。
肝の気がうっ滞するのでそこに熱が生じます。高血圧、めまい、ヒステリーなどの症状が出やすくなります。
この熱が場合によっては他の臓腑に影響しますので、
例えば熱が「心」に及ぶと、動悸、精神不安、不眠としても表れます。
または胃に影響すれば胃痛、胃炎や吐き気、食欲不振を起こすこともあります。
このとき上半身の熱を冷やすために必要なのが「黄芩」です。
よって柴胡剤というのは、柴胡と黄芩によって、ストレス症状、イライラ、胸の熱感、胸苦しい症状を抑え、
さらに、胃のはたらきを整える生薬(半夏、生姜、大棗など)も加え、脾胃をフォローしています。
「柴胡・黄芩」+(半夏・生姜・大棗)
実証向き・虚証向きの構成パターン
あらためて、柴胡剤の構成をみてみましょう。
(実証向き)
大柴胡湯
=柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗・枳実・大黄・芍薬
柴胡加竜骨牡蛎湯
=柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗・人参・桂枝・茯苓・竜骨・牡蛎・大黄※
小柴胡湯
=柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗・人参・甘草
柴胡桂枝湯
=柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗・人参・桂枝・甘草・芍薬
柴胡桂枝乾姜湯
=柴胡・黄芩・乾姜・桂枝・甘草・栝楼根・牡蛎
(虚証向き)
柴胡桂枝乾姜湯だけ例外になりますが、
その他は柴胡・黄芩・半夏・生姜・大棗の共通生薬としてまとめられ、
実証向きか、虚証向きかの目安は、それ以外の生薬によって決められていることが分かります。
真ん中の小柴胡湯を基本にして、
上の方の実証向きと言われる方剤には、冷やしたり瀉したり鎮静させたりする生薬(青色)の割合が多く、
下の方の虚証向きと言われる方剤には、温めたり補ったりする生薬(赤色)の割合が多くなっています。
柴胡桂枝乾姜湯は、他の方剤が生姜であるところ、乾姜となっていることから
胃腸が弱くて、体が中から冷えているような虚弱な人に使用することができます。
(※柴胡加竜骨牡蛎湯には大黄を配合していないメーカーのもあります。)
もうひとつ、ストレス症状に使う代表的な漢方薬に「四逆散」(しぎゃくさん)があります。
四逆散
=柴胡・枳実・芍薬・甘草
なので、柴胡剤として上のグループと比べると少し特殊な構成に見えます。
ただ、柴胡・枳実・芍薬は、大柴胡湯とは共通生薬であり、
四逆散を順番の中に加えるとすると真ん中くらいからやや実証寄りに入れられます。
実証・虚証とは
柴胡剤を例にすれば、
実証向きの方剤には、冷やしたり瀉したりする生薬が配合されて、
虚証向きの方剤には、温めたり補ったりする生薬が配合されている、
ということですので、
逆に考えれば、
冷やしたり瀉したりする生薬が必要な人が、実証であり、
温めたり補ったりする生薬が必要な人が、虚証なのです。
見かけの体格ががっしりの人→実証、華奢な人→虚証、がいつも正しいとは限りません。
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