苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)の解説
苓姜朮甘湯は、その名前のとおり、茯苓・乾姜・白朮・甘草の、4種類の生薬だけで構成されている漢方薬です。
「腰から下が冷えて痛い」または「腰から下が重だるい」といった症状によく用いられています。
苓桂朮甘湯とは、効能が異なります。一文字違いで見間違いやすいので、気をつけてください。
効能・適応症状
苓姜朮甘湯は次のような症状に利用されています。
- 腰の冷え、腰部倦怠感、下肢倦怠感、冷え症
- 腰痛、坐骨神経痛 (冷えが原因による)
- 夜尿症、頻尿
- 帯下、月経不順、浮腫
添付文書上の効能・効果
【ツムラ】【本草】
腰に冷えと痛みがあって、尿量が多い次の諸症:
腰痛、腰の冷え、夜尿症
【コタロー】
全身けん怠感、腰部の疼痛、冷感、重感などがあって、排尿回数、尿量ともに増加するもの。
腰冷、腰痛、坐骨神経痛、夜尿症。
【三和】
腰部から下肢にかけて、ひどい冷感を自覚し、腰冷痛、身体倦怠感を伴い、排尿回数、量ともに多いものの次の諸症:
坐骨神経痛、腰痛、夜尿症、遺尿、帯下
苓姜朮甘湯が適する症状のポイント
苓姜朮甘湯が適する症状のポイントは、
- 腰から下が冷えて重い
- または、腰が冷えて痛い
- 尿量が多い
- 食欲は正常
原典の『金匱要略』(3世紀)に記載されている表現を使えば(後述します)、
腰の冷えは「水中に座っているかの如し」
また、
腰の重さは「腰に重いものをさげているかの如し」
です。
腰が重いので、立ち上がる時は近くのものに手をついて「どっこいしょ」と声に出しながら腰を持ち上げる、というような動きの鈍さがあります。
倦怠感や、軽度の浮腫を伴うことがあります。 しかしながら、八味地黄丸や真武湯を使わなければいけない程の、その他の全身的な機能低下はみられません。
生活環境、職場の環境において、湿気が多く、気温の低い場所で過ごすことが多い人に、よくみられる症状かもしれません。
構成構成について
苓桂朮甘湯の桂枝を乾姜に入れ替えたもの、
でもありますし、
人参湯の人参を茯苓に入れ替えたもの、
と言うこともできます。
各生薬のはたらきの説明
茯苓と白朮の利水作用で、冷えの原因となってしまう、流れの滞っている水分を除きます。
乾姜は身体の内部(主に腰やお腹)を温めて冷えを除くとともに、血液循環も良くなることによって茯苓と白朮の利水作用をつよめます。
白朮と甘草は健脾効果(胃腸のはたらきを整える)があります。
これらにより(寒湿が付着しないようにして)重だるく感じる倦怠感を防ぎます。
→寒湿が離れると、阻まれている気の流れがもとに戻り、痛みが改善します。
甘草は痛みの緩和、また、乾姜の刺激性を緩和しています。
というわけで、漢方的には、もともと下焦(腰あたり)の寒湿に対する代表処方となります。
古典にならった使い方
『金匱要略』(3世紀)に記載されている漢方薬です。
「腎著の病は、其の人身体重く、腰中冷え、水中に坐するが如し、形水状の如く、反って渇せず、小便自利、飲食故の如し、病下焦に属す。 身労して汗出で、衣裏冷湿し、久久にして之を得、腰以下冷痛し、腰重きこと五千銭を帯ぶるが如きは、甘姜苓朮湯之を主る。」
現代語で分かりやすく書きかえるとこんな感じです。
↓↓
寒湿の邪が(腎のある)腰に付着して離れない病というのは、体が重だるく、腰が冷え、まるで水中に座っているようで、浮腫がありシャキッとしない。
ただ、口渇はなく、尿はよく出て、食欲はそれまでと変わらず、病は下半身だけです。
疲労して汗をかき、衣服が湿れば体が冷える、この状態をしばらく続けていればこの病になります。
そうすると、腰から下が冷えて痛み、五千枚もの銭の束を腰に下げているみたいに重い。
これを甘姜苓朮湯で治療しましょう。
「苓姜朮甘湯」という名前は、どうやら日本独特のものらしく、本来は「甘姜苓朮湯」の並びだったようです。
また、腎著の病に使う方剤として、苓姜朮甘湯には「腎著湯(腎着湯)」(じんちゃくとう)という別称があります。
現在でも比較的、古典に忠実に使用されているような印象がある漢方薬です。
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