精神的ストレスによる不調に使われる基本方剤
四逆散の「四逆」とは、、、
体内には熱やほてり(または炎症)があるのに、四肢は逆に冷えている状態を指します。
四肢の末端の冷え、つまり手足の冷えを表します。
四逆散は、「精神的ストレスによって」、気(陽気)が巡らず、手が冷たくなっている人に適している漢方薬です。
その他、交感神経が過緊張になっている(←真面目な人に多い)ことによって起こる様々な症状にも使われます。
名前のよく似た方剤に「四逆湯」がありますが、「四逆散」とはまったく異なる方剤ですので、気をつけてください。
構成生薬とその特徴
四逆散の構成はシンプルです。
芍薬甘草湯に、柴胡と枳実が加わったものとみることができます。
柴胡を主薬として、ストレスや異常な緊張を緩和させる生薬で構成されています。
体を温めるための「陽の気」が体の中心にはあるけれど、
気の流れが悪いために、その「陽気」(熱エネルギー)が四肢に十分行きわたらず、手足が冷えてしまう状態に用いられるのが、四逆散です。
体の芯から冷えているわけではないので、この場合必要なのは、体を温めるための生薬よりも、鬱滞している「気」を動かす生薬の方が重要です。
四逆散ではそれが柴胡と枳実です。
柴胡と枳実が協力して気の鬱滞を解きます。
柴胡が昇性(気を発散させる)で、枳実が降性(気を下降させる)です。
手足の冷え以外にも、気を巡らせる作用を利用して、(他の方剤と組み合わせながら)ストレスからくる様々な症状に対して応用することがきます。
柴胡を含むので、柴胡剤の仲間に入れられることがあります。
このとき四逆散は、「気」の巡りは悪いけど「気」自体は虚していない状況ですので、小柴胡湯よりは実証向き、ですが大柴胡湯よりは虚証向きの方剤と考えられます。(⇒柴胡剤の実証向き虚証向きの目安)
効能・適応症状
【医療用エキス製剤】
比較的体力のあるもので、大柴胡湯証と小柴胡湯証との中間証を表わすものの次の諸症:
胆嚢炎、胆石症、胃炎、胃酸過多、胃潰瘍、鼻カタル、気管支炎、神経質、ヒステリー
【薬局製剤】
体力中等度以上で、胸腹部に重苦しさがあり、ときに不安、不眠などがあるものの次の諸症:
胃炎、胃痛、腹痛、神経症
四逆散は、次のような症状への応用も考えられます。
- 緊張したときに手足が冷たい、手のひらに異常な汗をかく
- 腹痛、胃痛、胃酸過多、神経性胃炎、ストレス性潰瘍、腹部膨満感、食欲不振、逆流性食道炎
- 過敏性腸症候群、胆のう炎、胆石症(胆石炎)、肋膜炎、腸炎、尿路結石、膀胱炎、インポテンス
- 気管支炎、気管支喘息、鼻炎、副鼻腔炎
- 月経不順、おりもの過多、更年期障害、不妊症
- 精神神経症状(心悸亢進、動悸、不眠、不安、イライラ、抑うつ、ため息、肩こり、ヒステリー、情緒不安定、神経質、癇症、神経過敏症、呑気症)
- 肋間神経痛、腰痛、歯痛、顎関節症
四逆散のポイント
もともとは『傷寒論』の方剤(後述します)なのですが、急性熱性疾患(感染症)に使われることは少なく、
むしろ、精神的ストレスがあって、手足に冷えがみられる人に使われていることが多い漢方薬です。
「柴胡・枳実」+「芍薬・甘草」の組み合わせと見れば
「精神的な緊張」+「筋の緊張(痙攣・収縮)」がみられる症状に適していると考えられます。
ストレスによる肩こり、ストレスで悪化する咳、精神不安による胃痛や便通異常(過敏性腸症候群)、緊張による頻尿、等々。
シンプルな生薬構成なので、効果も比較的シャープです。
ストレスを解消させるために暴飲暴食をしてしまって膨満感や胸焼けを起こしている場合では、胃腸薬を用いるだけではなくて、四逆散のようなストレスを緩和させる漢方薬が有効なこともあります。
冷えについて現代医学的には、交感神経の緊張によって、末梢血管が収縮するため手足への血流量が低下し、また手のひらや足のうらが汗で湿りその気化熱で体温を奪われて手足が冷える、と説明できます。
冷えは一般的にひどくはなく、指先が冷える、または、温かくない程度の軽いものを含めます。また、手が冷たいことを自覚していなくて、他の人に手を触れられたときに冷たいねと言われて気付くこともあります。
副作用・注意点
医療用エキス製剤にはありませんが、「四逆湯」という方剤は、体の芯から冷えている人に用いられます。名前が似ていますが、構成生薬も使用する病態(※)も異なりますので、混同しないように注意が必要です。
※四逆散→熱があるのに寒証がみられる真熱仮寒証
四逆湯→熱証がみられるとしても真寒仮熱証
胃腸虚弱の方は、枳実で下痢をすることがあるので注意してください。
他の漢方薬と併用される場合、または長期間服用する場合は、甘草の副作用に注意してください。
四逆散の構成はシンプルです。例えば柴胡・芍薬・甘草のコンビは、逍遥散や加味逍遥散、柴芍六君子湯などでもみられます。症状が月経に関連して起こるとか、食欲不振を伴うとか、症状によってはそれに見合った生薬の配合されているそれらの漢方薬が良いかもしれません。
四逆散の加減方
四逆散がベースの漢方薬で、
四逆散の枳実を枳殻に代え、香附子・川芎を加えたものは「柴胡疏肝散」です。理気と活血の効果が加わります。
OTC(市販薬)にあるエキス剤の「柴胡疏肝湯」は、四逆散に香附子・川芎・青皮が加わったものです。ストレスがかかわる胸腹部の苦しさ、神経痛、腹痛などに使われます。医療用にはありませんので「四逆散+香蘇散」などで代用されることがあります。
四逆散に、土別甲・茯苓・大棗・生姜が加えられると、「解労散」となります。
出典
『傷寒論』(3世紀)
少陰病、四逆、其の人或いは咳し、或いは悸し、或いは小便利せず、或いは腹中痛み、或いは泄利して下重する者は、四逆散之を主る。
(咳する者には五味子・乾姜を加え、并せて下痢を主る。悸する者には桂枝を加う。小便不利の者には茯苓を加う。腹中痛む者には附子を加う。泄利下重する者にはまず水五升を以て薤白三茎煮て三升取り滓を去り・・・)
少陰病篇 第318条
【訳】
→少陰病になって、手足が冷たい。(風邪ではないのに)咳したり、(心臓は悪くないのに)動悸がしたり、(特に高齢でなくても)小便が出にくかったり、いつもお腹が痛かったり下痢をする。そういう人には四逆散で治療します。(肝気鬱結により様々な症状がみられるので、それらの症状に合わせて他の生薬も加えればさらに有効です)
【補足】
手足に汗をかいて冷たい
息苦しくなる
動悸がする
おしっこがちょっとしか出ない
お腹がゆるくなる
これらの症状がすべてそろっていたら四逆散が使える、という意味ではありません。
様々な症状が列記されているのは、すべて、交感神経の過緊張状態が引き起こしている症状の一例だと考えることができますので、
そうすると四逆散の応用範囲はもっと広くなります。
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