人参養栄湯と十全大補湯
人参養栄湯(にんじんようえいとう)は、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)ととても似ている漢方薬です。
某漢方メーカーのエキス製剤における適応症(効能・効果)を読んでみますと
「十全大補湯」の適応症:
病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
一方、
「人参養栄湯」の適応症:
病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血
と、なぜか全く同じ・・・
では違いは何でしょうか?
人参養栄湯の場合は、痰や咳などの呼吸器の症状、または不眠・不安などの精神的な症状の有無がポイントになります。
ともに気血両虚に対する漢方薬
「十全大補湯」と「人参養栄湯」はともに、気血両虚証に使われる方剤です。
つまり、
気の不足である「気虚」と、血の不足である「血虚」が両方ある場合で、
その両方を補う必要があるときに使われます。
血虚(けっきょ) → 顔色が悪い、皮膚や髪にツヤがない、目がかすむ、立ちくらみ、ふらつき、忘れっぽい、眠りの質が悪い、など
特に病後、術後、産後で、体力・気力が衰え、なんとなく疲労倦怠感が続くというときに使われることが多い漢方薬です。
「気」と「血」の関係
「血」を生み出すためには「気」の力が必要です。
気虚になれば臓腑の機能も悪くなり、「血」を生成する機能も弱くなるわけだから、
気虚はやがて血虚を引き起こします。
また反対に、
「気」は、「血」によって養われ、「血」によって運ばれるので、「気」もまた「血」が不足していると体を巡ることができなくなってきます。
大量に出血すればまさに「気を失う」こともあります。
気虚と血虚、どちらかが進めば、もう一つに影響して、いずれは慢性的な気血両虚になると考えられるのです。
「十全大補湯」について
「十全大補湯」の構成は
整理しますと
人参・白朮・茯苓・甘草⇒気を補う「四君子湯」(しくんしとう)
当帰・川芎・芍薬・地黄⇒血を補う「四物湯」(しもつとう)
それに、黄耆・桂皮が加わります。
人参と黄耆が配合されているものを「参耆剤」(じんぎざい)といいます。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)もその代表的な一つですが、
黄耆が加わると、人参・黄耆の相乗効果で、補気作用が強まります。
それがまた間接的に補血効果を後押ししています。
臓腑の栄養(血)が足りず、機能(気)も悪いという状態なので、身体は冷えやすくなってきます。
そこで、気血を巡らせて身体を温める桂皮も必要になります。
「十全大補湯」の「十」は配合されている生薬が10種類だからというよりも、
十分に全部を補うことができる、ということです。
→十全大補湯の解説ページはこちら
「人参養栄湯」について
「人参養栄湯」の構成は
下線部は十全大補湯と共通です。
十全大補湯と比較すると、
川芎を抜いて、五味子・陳皮・遠志を加えたものになります。
よって、
五味子・陳皮・遠志の効果が分かれば、それが「十全大補湯」と「人参養栄湯」の違いです。
五味子・陳皮・遠志の効果
五味子、陳皮、遠志、それぞれ主に「肺」「脾」「心」にはたらきます。
五味子(ゴミシ):
汗や鼻水や痰、そして咳が出るのを抑える効果があります。
清暑益気湯、小青竜湯、清肺湯にも配合されます。
陳皮(チンピ):
六君子湯に使われる生薬で健胃薬でありますが、
清肺湯、神秘湯、竹茹温胆湯、滋陰降火湯などに配合されるように、去痰・鎮咳作用もあります。
遠志(オンジ):
これも去痰作用があり、さらに精神の安定作用があるので、不眠や動悸に用いられます。
加味帰脾湯にも配合されます。
よって、まとめますと、
人参養栄湯に川芎を入れない理由について
川芎(センキュウ)は、活血作用と行気(理気)作用があり、発散性をもつ生薬です。
ひとつは、人参養栄湯は、長期服用をしなければいけない漢方薬なので、川芎によって気や血を損ねてしまわないようにする目的と、
もうひとつは、動悸や咳などに用いる場合に、発散の性質をもつ生薬は入らない方がいい、
もしくは、もともと肺結核などに使われていた方剤なので、喀血に対する配慮をしている
という理由が考えれます。
人参養栄湯の副作用・注意点
基本的には、十全大補湯の使い方と同じです。
特に、地黄や当帰による胃腸障害(胃もたれ、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢)に注意が必要です。
空腹時に服用して胃もたれを起こすときは、食後に服用しても構いません。
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