麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)の解説
麻黄+杏仁+甘草+石膏で、「麻杏甘石湯」
構成している生薬が一文字ずつ入りますので、とっても覚えやすい名前です。
激しい咳のときに使われることが多い漢方薬です。
漢方的には「肺熱の咳嗽」に対する基本方剤であり、
気管に炎症があったり、肺にこもった熱によっておこる咳に、用いられます。
生薬の構成としては「麻黄湯」の桂枝のかわりに石膏が入ったものですが、麻黄湯とは作用の性質はだいぶ異なってきます。
構成する生薬の特徴
麻杏甘石湯=麻黄+杏仁+甘草+石膏
麻黄湯 =麻黄+杏仁+甘草+桂枝
ですので、麻黄湯との構成の違いは、石膏か、桂枝(桂皮)かという点です。
しかしその性質的には、寒性の石膏と、温性の桂枝とでは、大きく異なります。
石膏は鉱物の生薬でありまして、成分は含水硫酸カルシウム。
熱を清する(冷ます)作用がとても強いものです。炎症をしずめます。
そして、汗を止める効果と、高熱による口の渇きを和らげる効果があります。粘った痰は溶かします。
この石膏が、麻黄の量に対して倍量(またはそれ以上)配合されます。
冷やす作用の石膏によって、麻黄の温めて発汗させる作用が、ほぼ打ち消されます。
結果、「麻黄」+「杏仁」による鎮咳・去痰の効果が前面に出てきます。
気管の熱や炎症を鎮めるので、
熱感があり、黄色っぽい切れにくい痰や、激しい咳に対して有効、ということになります。
漢方的には「肺熱の咳嗽」といいます。
甘草は調和の作用ですので、この場合、石膏による冷えすぎを抑えますし、また抗炎症作用を助けます。
基本的には石膏によって冷やす薬なので、冷えているときには使えません。
麻黄湯の桂枝を石膏に入れ替えたもの、
でもありますが、
越婢湯の大棗・生姜の代わりに杏仁を入れたもの、
ということもできます。
効能・適応症状
というわけで麻杏甘石湯は、肺熱の状態がみられる症状に適します。
また、抗炎症作用を期待して、肺熱以外に応用されることもあります。
- 喘息発作、小児喘息、気管支喘息
- 熱感や口渇をともなう気管支炎、粘稠痰
- 肺炎、百日咳などの咳の症状のある疾患
- 咳のかぜ、乳幼児のかぜ
- 炎症性の皮膚疾患
- 痔核の腫脹や疼痛(咳をすると痔に響く)、睾丸炎
など。
添付文書上の効能・効果
【ツムラ】【オースギ】他
小児ぜんそく、気管支ぜんそく
【コタロー】
咳嗽はげしく、発作時に頭部に発汗して喘鳴を伴い、咽喉がかわくもの。
気管支炎、気管支喘息。
【薬局製剤】
体力中等度以上で、せきが出て、ときにのどが渇くものの次の諸症:せき、小児ぜんそく、気管支
ぜんそく、気管支炎、感冒、痔の痛み
麻杏甘石湯の使い方
かなり激しい咳に対して使われることが多い漢方薬です。
小児にも利用されます。
効き方は比較的シャープですので、ぜんそく発作に対して頓服で使われることもあります。
「麻黄と石膏」の組み合わせは、肺熱を冷やして発汗を止めます。
発熱はないけど、熱感、発汗・口渇があり、粘っこい痰をともなう咳がある場合によく適します。
熱証が強い咳嗽には、麻杏甘石湯にさらに桑白皮を加えて、止咳の効果を高めた「五虎湯」が用いられることがあります。 「麻杏甘石」+「桑白皮」で⇒「五虎湯」になります。
また、麻杏甘石湯は、まれに痔に対して処方されることがあります。(後述)
麻黄と石膏の割合
肺熱の症状に用いる場合、麻黄に対して石膏の割合を、倍以上多くして配合されます。
医療用の麻杏甘石湯は、麻黄4gに対して石膏10gなので、石膏めっちゃ入ってるじゃん!と思われるかもしれませんが、
石膏は鉱物なので重い生薬です。なので実物の見た目の割合はこんな↓感じです。
(左:麻黄4g 右:石膏10g)
麻杏甘石湯の冷やす強さは、麻黄と石膏の配合量のバランスにより決まります。
通常の麻杏甘石湯は、石膏の配合量が多く、熱を冷ます方向にはたらきます。そのため肺熱による症状に用います。つまり肺や気道の炎症に対して使います。
もし、石膏に対して麻黄の量を増やしてあげると、逆に温める作用となりますので、風寒の邪気による症状にも応用が可能となります。例えば、麻黄が配合される小青竜湯などと併用されることがあります。
痔にも麻杏甘石湯⁉
一般的には、麻杏甘石湯といえば、喘息や気管支炎の薬ですけれど
甘草や石膏によって炎症や腫れをおさえたりする作用があるため、「痔核」(いわゆるイボ痔)に使っても効果があると言われています。
(薬局製剤の麻杏甘石湯の適応症には「痔の痛み」の効能が書かれています)
脹れや痛みがひどくて座っているのもきつい場合など、
特に、ひどい咳をすると痔にひびいて痛いというときには一石二鳥的な感じです。
乙字湯などの痔に使う漢方薬を服用中に、麻杏甘石湯が併用されることがあるかもしれません。
副作用や注意点
寒性が強いので冷えのある人、体力のない人には(とくに長期服用には)向きません。
胃腸を保護したり、体力を補ったりする生薬は配合されませんので、体力が十分にあり、胃腸が丈夫な人向きの漢方薬です。
高齢者などで乾燥体質の人の場合は、滋陰剤が必要であり、単独ではあまり使われません。(気道が乾燥傾向のときは麦門冬湯などが適します)
麻黄による副作用(不眠、動悸、胃部不快感など)に注意してください。
麻黄を含むシンプルな構成で、効き目がシャープな漢方薬です。長期の服用では、吐き気などの胃腸障害が起こることがあります。その時は他の漢方薬(二陳湯など)を併用することや、薬の変更などを検討してください。
喘息の体質改善のために他の漢方薬も併用される場合は、甘草の重複による副作用にも注意が必要です。
出典
発汗後、更に桂枝湯を行うべからず。汗出でて喘し、大熱無き者は、麻黄杏仁甘草石膏湯を与うべし。
『傷寒論』太陽病中篇第63条
『傷寒論』(3世紀)においては
“汗無く喘”→「麻黄湯」
“汗出でて喘”→「麻杏甘石湯」
です。
桂枝湯や麻黄湯を使うような悪寒発熱は無く、汗が出るくらい激しい咳をしているときは麻杏甘石湯を与えるべし、です。
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