釣藤散(ちょうとうさん)の解説
釣藤散は、慢性的に肩こり・めまい・耳鳴り・頭痛・頭重感がある人の漢方薬。
とくに、胃腸が弱ってきていて、高血圧や動脈硬化症の傾向のある、中高年くらいの方に多く用いられています。
釣藤散という名前は、釣藤鈎(チョウトウコウ)という生薬が主薬として配合されているためです。
生薬の構成から釣藤散の効能のポイントを解説します。
構成生薬
釣藤鈎について・・・
釣藤散の主薬は、処方名にもなっている釣藤鈎(釣藤鉤とも書かれます)という生薬。
アカネ科のカギカズラの、棘(トゲ)です。
鈎は、鈎(かぎ)状のトゲということ。
カギカズラの棘は、釣りのルアーに付いている針のような形をしていて、一度絡みつくとなかなか外れず、他の植物にこの棘で絡まりながら伸びていく植物です。
抑肝散に入っている生薬としても有名でありますが、
精神的な異常な興奮を調節する作用があります。
組成中の石膏・人参・半夏・麦門冬・甘草という生薬に注目すれば、竹葉石膏湯と共通する生薬です。
釣藤散=竹葉石膏湯-(竹葉・粳米)+(釣藤鈎・防風・菊花・茯苓・生姜・陳皮)
効能効果
【医療用エキス製剤】
慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧の傾向のあるもの
【薬局製剤】
体力中等度で、慢性に経過する頭痛、めまい、肩こりなどがあるものの次の諸症:
慢性頭痛、神経症、高血圧の傾向のあるもの
高血圧症、動脈硬化症の傾向があって、頭痛などは慢性的に生じています。
痛みはズキズキの激しいものではなく、頭重感という場合も多く、頭痛の他には、肩こり、めまい、耳鳴り、のぼせ(ほてり)、口渇、目の充血や痒み、イライラ(怒りっぽい)、不眠などを伴うことがあります。
釣藤散のポイント
「釣藤散」の構成生薬は、
釣藤鈎・半夏・麦門冬・茯苓・人参・防風・菊花・甘草・生姜・石膏・陳皮ですが
並べただけでは分かりにくいので下のように2つに分けて見てましょう。
①釣藤鈎・石膏・防風・菊花・麦門冬
②半夏・茯苓・陳皮・甘草・生姜・人参
釣藤鈎・石膏・防風・菊花・麦門冬
ストレスの影響を受けて、肝の気血の流れが悪化したとき、
陽気の強くなりやすい「肝」は熱を持ちはじめ、その熱が「心」に影響します。
血圧が上がったり、「心」による精神のコントロールができず、
イライラしやすい、精神不安、取り越し苦労をする、抑うつ、不眠というような症状がでるおそれがあります。
釣藤鈎のほか、石膏(セッコウ)は冷やす、麦門冬(バクモンドウ)は潤すことで熱を鎮静します。
肝で発生した熱気が上昇する様子を「内風」という風が起こると表現します。
風は頭を揺らして、ふらつき・めまいを起こします。
防風(ボウフウ)や菊花(キクカ)は、鎮痛効果だけでなく、この風を妨げると考えられています。
菊花は、目の充血や、目の痛みにも効果があります。
半夏・茯苓・陳皮・甘草・生姜・人参
この構成は「二陳湯」+人参です。
(白朮と大棗を足せば六君子湯です。)
「二陳湯」は、痰湿に対する基本処方。
釣藤散の中には、「二陳湯」の要素が含まれます。
胃腸のはたらきがもともと悪い、または、ストレスが胃に影響して、消化吸収機能が低下した場合、
胃に痰飲が停滞しやすい状況にあります。
この痰飲の存在のため、
上昇する熱気(内風)が、滞った水から発生する「痰湿」をからめて頭部に上がってきます。
「釣藤散」はこういう状況を想定しています。
よって、単なるキリキリした頭痛ではなくて、
のぼせあがるような気の上衝があり、
さらに「湿」による慢性的な、めまい、耳鳴り、首筋や肩のこり、頭重感をともなうような場合に適する漢方薬となります。
注意点
- 朝方に頭痛するもの(起きた時にはすでに頭が痛いもの)に使う漢方薬、と説明されることがありますが、必ずしもそこにこだわる必要はありません。
- 市販薬などでは、頭痛薬のように販売されていることがあります。「漢方ズッキノン」とか。しかし、鎮痛剤のような即効性はあまり期待できません。効果を感じるまで、数週間くらい要することもあります。
- 味は、苦みと渋みと芳香があって、ちょっと飲みづらいかもしれません。のぼせや口渇のひどいときには、お湯ではなく冷服で構いません。
- 胃腸が弱い人の頭重感では、半夏白朮天麻湯なども検討してください。
- 煎じ薬で作る場合、釣藤鈎(や菊花)は長時間(20分以上)煎じると効果が減弱してしまう可能性があるため、煎じ方には注意が必要です。
出典
『普済本事方』巻二 頭痛頭暈諸方(12世紀)
肝厥頭暈を治し、頭目を清す。
⇒肝に原因がある(ストレスや神経症から)上衝する頭痛やめまいの治療に用い、頭や目をスッキリさせます。
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