~更年期の症状の薬だけにとどまらない効能~
加味逍遙散は、逍遙散に2つの生薬、牡丹皮と山梔子を加えたもの(加味したもの)です。
それで別名:丹梔逍遙散ともよばれています。
加味されている牡丹皮と山梔子は、ともに清熱作用がある生薬です。
よって加味逍遙散は本来は、逍遥散の適応する人で、さらに、熱証のあきらかな場合に用いる漢方薬です。
熱証とは、例えば、イライラ・のぼせ・ほてりのような症状があります。
これらは更年期の症状としてもよくみられるものですので、
それで更年期障害に対してよく加味逍遥散が用いられるわけです。
しかし、逍遙散が医療用エキス製剤にはないために、加味逍遙散のほうが一般的になっており、
保険診療においては、熱証がそれほどなく逍遙散でよい人にでも、加味逍遙散を処方せざるをえない状況にあります。
そのため、「更年期の漢方薬=加味逍遥散」というイメージが強いのですが、実際には加味逍遙散はもっと幅広く使用できます。
出典
『内科摘要』『女科撮要』『和剤局方』『万病回春』など(諸説あるようです)
逍遙散の出典は『和剤局方』(12世紀)
加味逍遙散は、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸とならび、婦人科系の3大処方といわれます。
ですが、当帰芍薬散・桂枝茯苓丸が『金匱要略』(3世紀)の方剤であるので、それに比べると加味逍遙散は時代的にはずっと後に作られたものです。
構成生薬
※白朮の代わりに蒼朮(ソウジュツ)を使っているメーカーもあります。(⇒白朮と蒼朮の違い)
ざっとポイントとなる生薬を見てみますと…
血虚に対して「当帰・芍薬」
脾虚に対して「白朮・茯苓」
熱証に対して「牡丹皮・山梔子」
柴胡・芍薬・甘草の組み合わせは、精神的ストレスに対して使われる漢方薬(四逆散など)と共通です。
牡丹皮・山梔子は、イライラ、のぼせ、ほてりをおさえます。
薄荷も配合されており、ほてりなどとともに、抑うつ的気分を発散させます。
当帰・芍薬によって、月経に関する不調をカバーしますし、
また健胃作用のある白朮・茯苓・生姜・甘草で、虚証の人へのフォローもされています。
これらがバランスよく配合されているので、加味逍遙散の適応範囲も、とても幅の広いものとなってきます。
効能・適応症状
加味逍遙散が使用される可能性がある症状には↓のようなものがあります。
- 更年期障害、またそれによると思われる症状、不定愁訴(頭痛、めまい、のぼせ、肩こり、不眠、発汗、ホットフラッシュ、動悸、食欲不振、倦怠感、ため息・・・)
- 更年期の軽度の高血圧症
- 冷えのぼせ、虚弱体質
- 不満感、うつ、精神不安、イライラし怒りっぽいなどの精神神経症状、蟻走感(皮膚のムズムズ感)
- 月経不順、月経困難症(生理痛)、月経前の乳房腫痛、月経前症候群、月経前浮腫、不妊症
- 血の道症、自律神経失調症(めまい、動悸)、緊張による顎関節症
- 便秘、過敏性腸症候群
- 肝障害(肝硬変の初期、腹水)
- 皮膚炎などの皮膚疾患(ストレスで悪化するアトピー性皮膚炎、月経前に増悪するニキビなど)、進行性指掌角皮症
- 膀胱炎、尿道炎、インポテンス
- (ストレス性または産後の)口内炎・舌炎、歯茎や鼻からの出血
添付文書上の効能・効果
医療用エキス製剤
【ツムラ】【クラシエ】他
体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:
冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症
※血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期などの女性ホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のこと。
【コタロー】
頭痛、頭重、のぼせ、肩こり、けん怠感などがあって食欲減退し、便秘するもの。
神経症、不眠症、更年期障害、月経不順、胃神経症、胃アトニー症、胃下垂症、胃拡張症、便秘症、湿疹。
薬局製剤(煎じ薬)
体力中等度以下で、のぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:
冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症
加味逍遙散の要点
加味逍遙散は、ストレスからくる精神的症状の緩解に用いられることが多い漢方薬です。
不眠や精神的症状がみられる更年期障害にはファーストチョイスとなっています。
多愁訴、不定愁訴(主な訴えがその時々で変わる)といわれる心身の様々な症状に広く使われます。
女性の場合、月経周期と関連して起こる症状(特に月経前に症状が表れる)というのもポイントになります。
更年期障害の治療では、ホルモン補充療法(HRT)やプラセンタ注射との併用も可能です。
清熱薬である牡丹皮・山梔子が配合されるので、熱証(怒りっぽい、イライラが激しい、のぼせ、ほてり、口渇など)をおさえる効果も期待できます。
加味逍遙散といえば、更年期障害や不定愁訴に対しての薬として利用されることが多いですが、
精神的な問題が根本にあれば、それに関連して現れる別の症状に対しても応用されることがあります。
精神的ストレスが関係する消化器の症状(例えば、便秘や過敏性腸症候群)とか、ストレスで悪化する皮膚の症状など。
婦人科における代表的な漢方薬ではありますが、もちろん男性でも使われます。
副作用・注意点など
- 胃腸の虚弱な人は、食欲不振や下痢、吐き気などの消化器症状の副作用が起こることがあります。(「逍遙散」の方が山梔子を含まないので下痢や吐き気が起こりくいです。)
- 牡丹皮・山梔子は冷やす生薬なので、冷えると症状が悪くなるときには、これらが加味されない「逍遙散」の方がやはり適します。
- 服用後、交感神経の過緊張が緩和されることで、それまでよりも眠気を感じやすくなることがあります。
- 長期間の服用が必要なことがあり、特に他の漢方薬と併用する際は、甘草による副作用に注意してください。
- また長期間の継続服用(数年以上)により、特発性腸間膜静脈硬化症の発症の可能性が指摘されています。念のため長期間継続されている方は、定期的な大腸内視鏡等の検査が勧められます。(というか、数年以上処方され続けていること自体、漫然投与の可能性がありますので、継続の必要があるのかを、まず再検討するべきです。)
- 妊娠中、牡丹皮は慎重に用いる必要があるとされている生薬ですので、主治医などに確認されてください。
- むくみが日頃からある方は、当帰芍薬散などのほうが良いかもしれません。
逍遙散との違いと使い分け
あらためて、逍遙散と加味逍遙散の違いについて
加味逍遙散=逍遙散 + 牡丹皮・山梔子
ですので、加味されているのは牡丹皮・山梔子です。
山梔子はアカネ科のクチナシの果実
牡丹皮はボタン科のボタンの根の皮
クチナシの色素は着色料としても指定されていて、栗きんとん、たくあん、中華麺とか、お菓子とか、特に黄色い食べ物にも使われています。
加味逍遙散のエキスの顆粒の色もやはり黄色っぽくて、ちなみに医療用のツムラやクラシエの包装の24番の色も黄色です。
加味逍遙散の「熱証」
ストレスで「肝」の気血の流れが悪くなると、肝の熱が発生しやすくなります。中医学的には「肝鬱化火」といいます。
あるいは陰液(血や津液)の不足によって、相対的に陽気が盛んになるため熱証の出ることがあります。こちらは「陰虚火旺」です。
その熱によって、精神不安、不眠、頭痛、炎症、湿疹、のぼせ、めまい等が起こることがあります。
加味逍遙散においては、 牡丹皮・山梔子はともにこのような熱の症状をおさえる薬、清熱薬としての効果を期待して配合されています。
つまり、加味逍遙散は、逍遙散の症状の人で、さらに熱証がみられるときに用います。
熱とは体温計で測る熱ではありません。
口が渇く、尿の色が濃くなる、怒りっぽくなる、とかの熱っぽいというものです。
逍遙散との使い分け
「イライラなどの症状があれば加味逍遙がよい」といわれますが、イライラにもいろいろなイライラがあると思います。
ただのイライラだけであれば逍遙散でも適応内です。(逍遙散にも柴胡や薄荷が入っています)
山梔子と牡丹皮が必要なのは、上述したように熱証(熱の症状)があるときです。
ホットフラッシュのような多汗、顔面紅潮、のぼせて熱がるとか、イライラが激しいとか、カッカして怒りっぽいとか、目の充血、便秘とかのときには、冷やすために加味逍遙散が必要なのです。
で逆に注意が必要なのは、山梔子と牡丹皮の清熱作用とは、体の内側の熱症状を抑えるということなので、 簡単に言えば、体を冷やします。
もし「冷え」の症状がみられるとか、 冷えると調子が悪くなるような人に、清熱薬を使い続けるのには問題があります。
冷えることもあれば、のぼせることもあるという人もいるかもしれませんが、
逍遙散で十分なときは、加味逍遙散で代用するのではなくて、本来であれば、逍遙散と加味逍遙散は、使い分けた方がよいでしょう。
【関連記事】
⇒逍遙散の解説
立てば芍薬 座れば牡丹
さいごに余談です。
加味逍遙散には芍薬と牡丹が入ります。
「立てば芍薬、座れば牡丹」とは、美しい女性を例える言葉です。
ただし、美しいのは花ですが、生薬としては根を使います。
そこで別の解釈をしてみますと、
立てば芍薬、座れば牡丹、というのは、「腹が立てば芍薬の根、座り込んでしまえば牡丹の根 」
いつも腹を立てている女性には芍薬、何をするにもおっくうで一度座るとそのまま座りこんでしまう女性には牡丹が適する。
花のような容姿の美しさだけではなくて、 漢方的には、根っこの芍薬や牡丹によって、根本からも健康になり美しくなれるのかもしれません。
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