食欲不振には六君子湯か茯苓飲か
六君子湯と茯苓飲、「食べられない」ときに使うとしたらどちらでしょう?
六君子湯も茯苓飲もともに消化器系の漢方薬として代表的なものです。
構成生薬も一見、非常によく似ていますが、若干の違いがあります。
生薬の配合の差から、効果の違いを説明します。
構成生薬の違い
それぞれの構成生薬を比較してみます。
茯苓飲 =人参・白朮・茯苓・陳皮・生姜・枳実
※白朮は蒼朮のこともあります
見比べると、共通の生薬(下線部)がとても多いことが分かります。
違う点といえば、
「六君子湯」には半夏と大棗が含まれること、
「茯苓飲」には、枳実が含まれ、そして甘草が含まれないこと。
そして共通生薬の中で、分量的には、六君子湯では人参の配合量が、茯苓飲では陳皮の配合量が、やや多くなっています。
これらの違いによって、以下のような特徴がみえてきます。
六君子湯の特徴
「六君子湯」には半夏と大棗が含まれます。
半夏によって、六君子湯には、
小半夏加茯苓湯(半夏・生姜・茯苓)や、
二陳湯(陳皮・半夏・茯苓・甘草・生姜)のユニットが含まれていることになります。
悪心、吐き気を抑える薬が内包されているわけです。
人参・朮・茯苓・生姜・大棗・甘草の配合はすべて胃腸機能を高め、大棗は食欲不振を改善することを助けます。
茯苓飲の特徴
「茯苓飲」に含まれる枳実には、胃腸の蠕動運動を調整する働きがあります。
枳実は、胃の内容物の通過を順調にし、腹部の膨満感、痞え(つかえ)を除きます。
また、茯苓飲には甘草が含まれません。
甘草は、蠕動運動を抑制します。
例えば、便秘に使う大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)に甘草を配合する理由は、大黄が効きすぎて腹痛が起こることを抑制するためです。
大黄甘草湯の作用を強めた大承気湯(だいじょうきとう)では枳実が加わり、甘草は抜かれています。
それと同様で、茯苓飲には蠕動を抑制する甘草を入れません。
つまり、茯苓飲は「枳実」で蠕動を促進し、それを抑制する「甘草」を抜き、枳実の蠕動を助ける「陳皮」を増量しています。
以上をふまえてまとめ
食べられない(食欲不振)に用いるという点で違いを整理しますと…
六君子湯
六君子湯は、脾胃気虚の人に使う処方で、つまり胃腸の弱くて起こる、胃もたれ、膨満感、悪心、吐き気、などの消化器系の症状に対応します。
もともと食欲が少ない人に適応します。
(⇒食べたいという気持ちにならない。)
茯苓飲
茯苓飲は、どちらかというと蠕動の促進が主な仕事になります。
脾胃が虚弱かどうか、というよりも、食べたものが胃内でつかえ、停滞しているため膨満感が起こり苦しくて、食欲はあるけれど、食べたくても入らない状態に適します。
げっぷ、胸やけなどもみられます。
(⇒物理的に食べられない。)
実際の使い分け
そのような違いがあるとは言うものの、基本的にはよく似た生薬構成なので、実際の効果の違いはハッキリとは分かりにくいかもしれません。
どちらでも良いことも多いかもしれません。
ちなみに、茯苓飲には半夏が含まれませんが、
つかえや膨満感が強く「茯苓飲」の適応で、さらに吐き気や嘔吐がある、もしくは胸焼けやげっぷが多いときには、茯苓飲にも「半夏」を加えた方が良いです。
「茯苓飲加半夏」という方剤もあります。
ですがこの場合は、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を合わせて使うことの方が一般的です。
「茯苓飲合半夏厚朴湯」という合剤がエキス剤でもあるくらいです。
半夏厚朴湯を合わせることで、ストレスなど精神的なことが関係している状況にも対応することができます。
また、 六君子湯は、比較的長期に服用することが多い漢方薬です。
六君子湯には少量ですが甘草が含まれますので、(特に他の薬と併用する場合は)偽アルドステロン症の副作用に注意しておく必要があります。
その点、茯苓飲には(茯苓飲合半夏厚朴湯にも)甘草が入らないという利点があります。
よってもし甘草による副作用を懸念しなければいけない状況があれば、六君子湯の代わりとして、茯苓飲で対応できるケースがあるかもしれません。
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