芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の解説
芍薬甘草湯には、「去杖湯」という別名があります。
杖を捨て去ることができる薬という意味です。
こむらがえりや、足がつる時に使う薬として有名です。
即効性を期待できる漢方薬としても知られ、通常は頓服で(症状が出たときだけ)使用します。
芍薬と甘草の2種類の生薬だけで構成される、鎮痙・鎮痛の基本方剤です。
また現在は、脚の筋肉のけいれんに限らず、さまざまな疾患にも応用されています。
構成生薬
芍薬は、けいれんして硬くなった筋肉の緊張をゆるめて痛みを軽減します。
甘草も炎症を抑える作用や鎮痛作用があって、芍薬の作用を補助しています。
効能・適応症状
芍薬甘草湯は、次のような症状に応用されることがあります。
- 急激に起こる筋肉のけいれんを伴う疼痛(有痛性限局性筋痙攣)
- こむらがえり、熱中症での筋痙攣、しゃっくり(横隔膜のけいれん)
- 筋肉痛、関節痛、坐骨神経痛、腰痛、ぎっくり腰(キヤリ腰)、捻挫、五十肩、ねちがい、肩こり
- 胃けいれん、腹痛、疝痛、胆石症・尿路結石の疼痛発作、過敏性腸症候群の急なお腹の痛み
- 生理痛、月経困難症、月経に関連して起こる尋常性ざ瘡(ニキビ)
- 女性の不妊症(無排卵性不妊症、多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症など)
- 抗がん剤(パクリタキセル)の副作用による筋肉痛・関節痛
- がん化学療法(シスプラチン等)による吃逆(しゃっくり)
添付文書上の効能効果
医療用エキス製剤
急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛、筋肉・関節痛、胃痛、腹痛
薬局製剤
体力に関わらず使用でき、筋肉の急激なけいれんを伴う痛みのあるものの次の諸症:
こむらがえり、筋肉のけいれん、腹痛、腰痛
飲み方、使い方
芍薬・甘草ともに配合量が多く、効き目がシャープです。
筋のけいれんや、けいれん性疼痛に対して即効的な効果を期待して使います。
こむら返りなどでは早くて5~6分くらいで効いてきます。
通常は対症療法として(鎮痛剤を使うような感じで)頓服で用います。
食前や食後にこだわらなくて構いません。
スポーツ(マラソンなど)や登山で、筋肉の疲労して起こる脚のけいれんにも有効ですし、
感冒時の発汗過多、胃腸炎(嘔吐・下痢)、夏の暑さなどで体の水分が喪失したときに起こったけいれんにも使うことができます。
夜間に足がつるという方は、枕元に置いておくか、または就寝前に服用しておいてください。
副作用・注意点
甘草の量が多いため、連用による偽アルドステロン症に注意が必要な漢方薬です。(カリウム低下・浮腫・血圧上昇・脱力感など)→甘草による偽アルドステロン症についてはこちら
症状が治まったら中止して、できるだけ短期間、最小限の使用に留めた方が良いです。
他の漢方薬との併用の際は、さらに注意してください。
ただ、不妊症で用いる場合や、慢性的な症状に用いる場合は、長期間の服用が必要なことがあります。月経に関連して起こる疼痛やニキビに対しては、月経前からの服用を勧められることがあります。
明らかに「冷え」が認められる方の疼痛、寒冷刺激による疼痛には、附子を加えた「芍薬甘草附子湯」(三和)が用いられることがあります。(ただし心疾患のある方は慎重に。)
予防的にかつ長期的に(根本的な体質改善で)使うのであれば、他の漢方薬を考慮した方がいいかと思います。
一時的な(スポーツや登山など)脱水によるこむら返りであれば、補水が基本となりますが、繰り返すこむらがえりにの原因には、血虚、血瘀、水滞などが考えられますので、それに応じた漢方薬を検討しましょう。
長期的に使用するならば・・・
芍薬甘草湯を長期的に連用することは避けていただきたいので、
参考までに、
芍薬甘草湯の代わりにもし予防的もしくは長期的に使用するならば、という漢方薬を少し書いておきます。
こむら返りに疎経活血湯、四物湯。
熱中症や脱水による場合、五苓散、清暑益気湯。
月経痛には当帰建中湯。
吃逆には、柿蒂湯、呉茱萸湯。
腰痛に、八味地黄丸、疎経活血湯、独活寄生丸など
市販の芍薬甘草湯
市販の芍薬甘草湯は、様々な名前で販売されています。
販売名は違っても基本的な使い方、注意点は共通しています。副作用を防ぐために正しい使い方をお守りください。
- 芍薬甘草湯(ツムラ漢方):顆粒
- 芍薬甘草湯(クラシエ):顆粒
- ビタトレール 芍薬甘草湯エキス顆粒A(東洋漢方製薬):顆粒
- 本草芍薬甘草湯(本草製薬):顆粒
- コムレケアa(小林製薬):錠剤
- コムレケアゼリー(小林製薬):ゼリー(グレープフルーツ風味)
- ツラレス(ロート製薬):錠剤
- コムロン(小太郎漢方製薬):カプレット※
- アルクラック内服液(全薬工業):液剤
※カプレットとは、カプセル型のタブレット(錠剤)であり、サイズは大きいけれど、1回1錠で済むというメリットがあります。
ゼリータイプや液剤タイプは、水なしでも服用できます。マラソンや登山など屋外で急に使用したいときには便利です(が、服用後のゴミはきちんと持ち帰りましょう)。
使用状況に合わせた剤形のものをお選びください。
古典の使い方
参考までに
『傷寒論』(3世紀)より
「傷寒脈浮、自汗出、小便数、心煩し、微悪寒し、脚攣急するに、反って桂枝を与え、其の表を攻めんと欲す。此れ誤りなり。之を得て便ち厥し、咽中乾き、煩躁吐逆する者は、甘草乾姜湯を作り之を与え、以って其の陽を復す。若し厥癒えて足温なる者は、更に芍薬甘草湯を作り之を与えば、其の脚即ち伸ぶ。」
(訳)→傷寒で脈が浮、発汗あり、尿が多く、胸苦しく、わずかに悪寒し、脚が攣急するものに、桂枝湯を与えてその表を攻めようとするのは誤りです。この治療によって手足が冷えて、のどが乾き、煩躁して嘔吐するものには、甘草乾姜湯を与えて、陽気を回復させます。手足の冷えが温まったならば、さらに芍薬甘草湯を与えると、その引きつっていた脚はすぐに伸びます。
「発汗して病解せず、反って惡寒する者は、虚するが故なり。芍薬甘草附子湯、之を主る」
(訳)→太陽病(発熱悪寒)が発汗法で治療しようとして治らず、反って悪寒がひどくなったのは、陽気が消耗してしまっているからです。芍薬甘草附子湯を用います。
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