【清心蓮子飲】の解説~排尿に関する不定愁訴に使われる漢方薬~

清心蓮子飲(せいしんれんしいん)

清心蓮子飲(せいしんれんしいん)の解説

清心蓮子飲せいしんれんしいんといえば、一般的には頻尿・残尿感・排尿痛などの排尿トラブルによく用いられています。

ですので泌尿器系の漢方薬というイメージが強いかもしれませんが、生薬の構成をみれば、本当はそれ以外にも応用範囲の広いことがうかがえます。

まず、人参にんじん黄耆おうぎ、この2つの生薬がペアで配合されている点で、参耆剤じんぎざいに含めることができます。参耆剤ということはつまり、補中益気湯ほちゅうえっきとう十全大補湯じゅうぜんたいほとうなどと同じように、虚証きょしょう向きの漢方薬です。

また、方剤の名前からみれば、「」の熱を「」する作用をもった、「蓮子」を主薬とする漢方薬であることを表しています。

では、この「心」に作用しそうな名前の漢方薬が、なぜ泌尿器系の症状に使えるのか、蓮子の作用とともに、解説したいと思います。

効能効果

まず、承認されている効能効果をみておきましょう。

【医療用エキス剤】ツムラ他

全身倦怠感があり、口や舌が乾き、尿が出しぶるものの次の諸症:
残尿感、頻尿、排尿痛

【薬局製剤】

体力中等度以下で、胃腸が弱く、全身倦怠感があり、口や舌が乾き、尿が出しぶるものの次の諸症:
残尿感、頻尿、排尿痛、尿のにごり、排尿困難、こしけ(おりもの)

構成生薬

スイレン(ハス)

清心蓮子飲の構成生薬は、9種類です。

※局方名では蓮肉と言いますが、これが蓮子のことです。
スイレン科(APG分類ではハス科)の(ハス)の(成熟した)種です。
食用の(根茎がレンコンの)とは品種が異なります。

構成生薬のはたらき

生薬を作用ごとに分けておおまかにまとめます。
五臓でいうと、主に、じんしんに作用しています。

①脾を補い、潤す生薬

まず、清心蓮子飲の効能効果をみると、前置き部分には、「胃腸が弱く、全身倦怠感があり、口や舌が乾く」ものとあります。

(胃腸)のはたらきが低下しており、気(エネルギー)と水(津液しんえき)の産生が不足して、倦怠感や口の乾きがあらわれていると考えられます。

人参・茯苓・甘草は、「四君子湯しくんしとう」と共通の生薬です。そこに補気ほき作用を強化する黄耆も配合されています。

人参・黄耆・甘草・蓮肉は、脾のはたらきを高めるだけでなく、協力して脾の気と水の産生を高めます。

麦門冬も加わりますので、津液を保持し、体の潤いを増す構成となっています。

特に「麦門冬・人参・甘草」の組み合わせは、津液不足の乾燥症状を潤したいときに使う、麦門冬湯ばくもんどうとう竹葉石膏湯ちくようせっこうとう炙甘草湯しゃかんぞうとう温経湯うんけいとうなどにも欠かせないユニットです。

②排尿障害に対する生薬

排尿のトラブルは「じん」の問題が大きいです。車前子蓮肉は、腎を補う生薬です。

車前子と茯苓による利水りすい作用で排尿を促進します。尿の浸透圧が下がり、膀胱や尿路の刺激感が改善されます。

それに清熱せいねつ(炎症を抑える)作用のある黄芩が加わります。黄芩・車前子は、五淋散ごりんさん竜胆瀉肝湯りゅうたんしゃかんとうにも共通して入る生薬です。

③心火を冷ます生薬

承認されている効能には書かれていませんが、
やはりこの方剤の名前に「清心せいしん」という言葉が入るくらいなので、「心火しんかを冷ます」作用もあります。

五臓の「心」が熱をもって盛んに燃えている状態を「心火」と表現します。

具体的な症状としては、落ち着きがない、あせり、イライラなどがみられます。

心ー火

腎ー水

五行論で言えば、「心と腎」は、「火と水」の関係にあります。
火が燃えすぎれば水で消し、水で冷えすぎれば火で温める、という丁度良いバランスが必要です。

身体の津液(陰液)が不足して乾燥していれば、火を抑えられないので、ますます燃えやすくなり、熱っぽい症状がでやすくなります。

また逆に、イライラして悩みすぎたり、不眠が続いたりとなってくると、気や陰液を消耗してしまいます。

黄芩・地骨皮は、上焦じょうしょう(心のあたり)の熱をとります。

そして、心火を冷ましつつ、腎陰じんいんを補うことができる生薬が蓮肉です。

そしてここでまた①の脾を補い潤いを増す生薬が、心火のよる気や陰液の消耗に対して効いてきます。

主薬の「蓮子」

さて、脾、腎、心、それぞれにはらたく生薬として分けましたが、注目なのが蓮肉(蓮子)だけが脾・腎・心の全てに関係してくるところでしょう。

この清心蓮子飲の主薬は、間違いなく蓮子なのです。

生薬の辞典には、蓮子はおよそ以下のように書かれています。

【帰経】脾・腎・心
【薬能】補脾止瀉・止帯・益腎固精・養心安神
【主治】脾虚による下痢・帯下(おりもの)・遺精・心悸不眠

蓮肉(蓮子)が配合される漢方薬は多くはありませんが、止瀉ししゃ作用があるので、啓脾湯けいひとう参苓白朮散じんりょうびゃくじゅつさんにも使われています。

清心蓮子飲のポイント

「清心蓮子飲」の名前の意味を考えれば、不安定な精神状態を落ち着かせる作用が重要です。

蓮子のほか、黄芩・地骨皮・茯苓も、興奮性をしずめる方向にはたらきます。

胃腸虚弱で、倦怠感があり、精神的な疲れ(心労)が重なり、ゆううつ、不眠、イライラなど(虚熱きょねつ)の症状があり、体が疲労で弱っているので、上焦じょうしょうにエネルギーをもっていかれると、下焦げしょうに力がなくなり、排尿障害があらわれやすくなっている。

自律神経の緊張によって、膀胱括約筋のはたらきがうまくいかず、熱感をともなって、泌尿器に残尿感や頻尿などの症状があらわれる

という、少し複雑な状況ですが、このようなときに「清心蓮子飲」が選択できそうです。

  • 胃腸虚弱
  • 尿検査をしても異常がない
  • でも排尿に関する不定愁訴はある
  • その他にもイライラや不眠などの精神的な症状をともなう

上焦(心・肺)部分に熱感がある状況を想定しているので、お湯に溶かさずに、冷服(煎じたものは冷ましてから服用)で構いません。

清心蓮子飲は、胃腸が弱くて下痢しやすい人にも使いやすいということがあるので、

夜間頻尿で八味地黄丸はちみじおうがんとか、不眠で人参養栄湯にんじんようえいとうとかを使いたいけど、「地黄じおう」が含まれているもので胃腸障害が起こってしまい使えないという場合に、その代わりとして処方されることがあるかもしれません。

市販薬では「ユリナール」として販売されているのも、この清心蓮子飲です。錠剤タイプもあります。

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